政務館訪問
時間が無いのに無理に書こうとすると質が落ちますね。
時事ネタも安易に使うもんじゃなかったと反省です。
解せん。
解せんぞ。
〈本当に行くんですか……〉
「ベルクはクソ真面目」
〈キュイキュイ〉
正面からお邪魔すると言ったとたんこれだ。
ベルクの奴、何故そこで渋る。
逆にアリエルとリーフはノリノリだ。
誰も正門を蹴り開けて突入するなんて言ってないだろうに。
「シミラ、隠蔽結界を頼む」
〈え?〉
「んん?」
〈キュイ?〉
……何かな? その反応は。
もの言いたげに見つめると……。
「正面から門をぶち破るのでは?」
〈マスターの『正面から』は、正面強硬突破の事かと……〉
〈キュイ~〉
「お前ら、俺を何だと思ってるんだ……」
日頃の行いのせいなのだろうか?
これでも親切、丁寧、真面目に生きてるつもりなんだが。
後で尋も……聞き取りが必要だな。
「まあいい、問題は」
「ギフトですね」
「ああ」
シミラの隠蔽は極めて精巧だが、相手はギフト能力だ。
対価は大きいが元が神力ということもあり、底が知れない。
分かりやすいシンプルな能力ならともかく、現状では探知系という事以外解らない。
さて、相手はどう動くかな。
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「影人族に良く似た青年に銀髪白衣の少女ですか」
「ああ、あれはマズイ。目が合っただけだが、大型の魔獣に睨まれたより凄まじいプレッシャーだった」
「分かりました。通達を出して注意を促しましょう」
フィオが正面からの訪問を決めたころ、ジェイスも報告を受けた直後だった。
報告者は港町の総隊長である叔父ジェイルである。
叔父ほどの手練れがあっさり監視を見破られるなど、正直ジェイスも信じられなかった。
ちなみに代わりの監視は当然のように発見され、犯罪者を押し付けられたのだが、幸いその事はまだ伝わっていない。
「すまんな。勘以外に根拠は何もないんだが……」
「勘はバカにできませんよ。問題は彼らが敵かどうかですが……」
バタン!!
「ジェイス閣下! ジェイル隊長!」
「どうした? 通達は完了したのか?」
「そ、それが……」
叔父から事情を聴き、対策を考えていたところで、次なる報告が飛び込んでくる。
叔父の話に出てきた相手がすでにデモニアに到着し、しかもこちらに向かっているというのだ。
ジェイスも叔父も驚きのあまり声も出なかった。
「そ、そんな馬鹿な……」
「叔父上が尾行されていたのか? いや、それにしたって……」
尾行に気付かなかった事も衝撃だが、あまりにも早すぎる。
叔父は種族の固有スキルである『短距離影転移』も駆使して、全速力で移動した。
移動にかかる時間は、単純なスピードで言えば音速に匹敵するのだ。
だが、そんな驚きを嘲笑うかのように、彼らは叔父の使用した隠し通路のある建物へと向かう。
このままでは政務館に侵入されてしまう。
「彼らが何者か、どうやってここに来たかは後です。すぐに対応しないと」
「あ、ああ。そうだな……」
ジェイスと叔父は即座に人員を集め、包囲網を構築した。
そして、共感能力を使用したのだが、それが良くなかったらしい。
敵意とまではいかないが、興味と戦意が高まり始める。
そして、事もあろうに真っ直ぐこちらを目指してくる。
さらに
「な!? 目標が消えました!」
「落ち着け。今、情報を送る」
視覚的にも魔法的にも完全に消失した恐るべき隠蔽能力。
だが、ギフトである共感能力には、彼らの発する感情の色が見えていた。
見えずとも、彼らはそこにいるのだ。
ゆえに、それを部下全員に見えるように第2のギフトを使用する。
ジェイスの第2のギフト『情報共有』。
かつてRWOで、従魔の能力を共有するために使用されていたスキルと同名の能力だ。
当然フィオも所持しており、彼は普段から念話も併せて使い魔たちと情報を共有している。
しかし、それは使い魔たちがフィオから生み出された分身のような存在だから可能な事だ。
ゲームではなく現実では情報共有はかなり難易度が高いのだ。
生物の魂には固有の波長があり、情報共有はその波長を調律する。
そうする事でお互いの情報を送受信できるようになるのだ。
だが、双子やフィオと使い魔のように初めから魂の波長が近い、あるいは同一ならともかく赤の他人との情報共有は交霊術並みに難易度が高い。
ましてや多人数間での情報共有など不可能に近い。
だが、ジェイスはそれを行使できる。
ギフトという常識から、あるいは摂理から外れた力がそれを可能にする。
諜報部隊全員に共感能力が共有される。
「見えました!」
「過信はするな。そこにいるという事しか分からないんだからな」
相手の姿そのものが見えているわけではない。
例えるならレーダー上に光点が見えているだけなのだ。
相手の動向はまったく分からない。
ただ確実なのは『情報共有』の使用によって、さらに相手の感情が高まったことだ。
ジェイスの脳裏に嫌な予感が浮かぶ
「(これは、まさか……)」
転生者を狩る神の代行者。
その存在はもはや周知の事実だった。
というより、自分とグラーダ以外はおそらく全員狩られてしまった。
転生者ネットワークも現在沈黙している。
「(くそ、何でこんな時に……)」
ギフトの危険性とやらはジェイスも聞いている。
そして、それが事実であろうと考えている。
だが、今ギフトを手放すわけにはいかない。
グラーダは情報を信じず、ギフトの力を存分に振るっている。
こちらもギフトを使用しなければ、奴に対抗することはできない。
最悪でも第3のギフトを使用可能な状態でなければならない。
ジェイス第3のギフト、それは『道連れ』だ。
自分が死ぬとき、マーキングを施した対象全員を道連れに殺す恐るべき能力。
通常の自爆系スキルより効果範囲も使い勝手も良い、まさに切り札。
欠点としては対象が増えるほど成功率が下がることが挙げられる。
しかし、現在登録されているのは1人。
しかもグラーダ本人だ。
夜の国からルーナを救出する際に刻み込んだ切り札。
能力発現直後で、グラーダが半ば暴走状態だったからこそ成功した奇跡。
もちろん安易に使用する気はないが、いざという時は躊躇うつもりはない。
転生者は大半が前世に未練やトラウマを持つ。
ジェイスも例外ではない。
『共感能力』、『情報共有』、『道連れ』の3つの能力発現も、彼の前世が大きく影響している。
いや、それだけではない。
彼の今の在り方、ルーナへの感情、全てに前世の記憶が関わっている。
「目標、正門に到達!」
「衛兵に連絡します!」
「待て!」
部下の連絡にジェイスの意識が浮上する。
同時に指示も出す。
もし相手が代行者なら、衛兵などどれだけ集まっても意味は無い。
「会議室前のホールに全員集合。叔父上、会議場の警護を頼みます」
「! まさか1人で迎え撃つ気か!?」
「まずはホール前の廊下で交渉してみます。それでダメならホールに誘い込みます」
ジェイスは自分の力を過信していない。
おそらく、いや、確実に1対1では劣るのに相手は最低でも2人だ。
1人で対処できる相手ではない。
部下の力を借りるのは、卑怯でも何でもない当然の戦術だ。
そもそも自分たちは騎士でも武人でもない。
国を暗部から守る諜報部隊だ。
卑怯、汚いは誉め言葉。
求められるのは勝利のみ。
求めるものは名誉ではなく国家の平穏。
叔父たちをホールに残し、廊下に出る。
長い1本道の廊下。
信じがたい事に、反対側の扉が開いたこともジェイスには認識できなかった。
だが、ギフトは相手が廊下の中央まで来たことを知らせている。
「マスター。気付かれています」
可憐な、しかし無機質な少女の声。
「ああ。しかも、本命自らか。話が早いな」
少し軽い雰囲気の青年の声。
続いて目の前の空間が揺らぎ、霧が晴れるように2つの人影が現れる。
叔父の報告通り、眼の色以外影人族にそっくりな青年と銀髪白衣の少女だ。
青年が1歩こちらに近づく。
「さて、こちらの要求は1つ。ギフトを捨てろ」
その言葉と同時にジェイスは両手に短剣を構える。
今、ギフトを失うわけにはいかないのだ。
「それが返答か」
青年が右手の槍を真っ直ぐこちらに突きつける。
大型の穂先を包んでいた純白の布がハラリと解ける。
「!?」
「およ?」
槍の刃を見た瞬間、ジェイスは即座にホールへと飛び込んだ。
叔父たちが慌てて集まってくる。
交渉など頭から吹っ飛んでいた。
なんだアレは? あんな理不尽なモノが存在して良いのか?
ジェイスの内側で、ギフトが怯えるように脈動する。
その恐怖はジェイスのものか、ギフトのものか、それすらも分からない。
そして
「おじゃましまーす」
〈悪乗りしすぎでは……〉
「気にしすぎ」
〈キュイキュイ〉
恐怖の対象は、実に軽い雰囲気でホールに侵入してきた。
ファーストコンタクトは物別れ。
フィオも要求が簡潔すぎですね。
次話でジェイスの前世が明らかに。