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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
143/216

ラブコメ主人公

 グラーダが怨嗟に震えていたその頃。

相手のジェイスは、魔人連合国の首都にある政府首脳が勤務する建物、通称『政務館』にいた。

そこはアメリカのホワイトハウスのようなもので、現在は戦争の危機にごった返している。

この国には王族がいないので王城が存在しないのだ。


 魔人連合国には魔人王という代表はいるが、合議制なので絶対権力者というわけではない。

政治形態としては中央大陸のラザイン共和国に近いだろう。

しかし、非常時には強権を振るうことが許されている。

動かない事が最も悪手であると過去の経験から学んでいるからだ。


「以上で報告を終わります」


「ご苦労」


 政務館の一室、会議室で1人の青年が国の重鎮たちに調査報告を行っていた。

彼こそがシェイド族の俊英にして諜報部隊の長であるジェイスであった。

引き締まった体に浅黒い肌、短く切り揃えられた髪は、まるで黒豹の様な精悍さを宿している。

ダークブルーの瞳には強い意志が宿っており、諜報部隊という裏方の長とは思えない存在感だった。


 とある報告を終えると、彼は室内の反応を見た。

怒り、納得、疑問、様々な感情が渦巻いている。

それが見える。


 これは彼の持つ力の1つだった。

共感能力エンパシー』、本来は他者の感情を察する、いわゆるコミュニケーション能力だ。

これが低いと、場をわきまえない、空気が読めないといった悪影響が出る。


 しかし、ギフトである彼の能力は一線を画する。

他者の感情を色として視覚的に捉える事ができるのだ。

どんなに隠そうと取り繕おうと彼の前では隠せない。

潜入工作員やスパイの天敵、それが彼だった。


 本来ならば『精神感応テレパシー』の方が能力としては強力だ。

しかし、思考を読む精神感応は対象範囲が狭く負担も大きい。

下手をすると自分の思考が逆流したり、相手の思考に自分が染まる可能性もあるのだ。

だが共感能力ならば町の1つくらいはカバーでき、敵意や悪意を持つ者を発見できる。

そして視覚でとらえる形ならばリスクも低い。


 そして、この場に相応しくない感情を自分に向ける相手に目を向ける。

その感情とは信頼、心配、そして愛情。

前2つはともかく、最後の1つは少々マズイ気がする。

隠せないのか隠す気が無いのか、その感情はダダ洩れだ。

目が合うと、緊張に強張っていた彼女の表情が僅かに緩む。

王族の彼女は表情を取り繕うのは得意なはずなのだが、やはり相当追い詰められているのだろう。


 彼女の名はルーナ・ニュクシア。

夜の国の王族最後の生き残りであり、この国の最重要の国賓。

そして簒奪者グラーダ・アルプの目的ターゲットでもある人物だ。

ついでに言うなら、ジェイスにとっては妹のような存在でもある。


 魔人連合国は少数種族の集まりだ。

寄り合い所帯で大国と渡り合うために、適材適所が徹底されている。

各種族は己の適性に合った仕事に就き、その能力を発揮する。

他種族国家であるこの国は、多様性という面では最も優れているのだ。


 他大陸との貿易にしても、この国だからこそ開始できたと言える。

単一種族の国家はどうしても閉鎖的になり、他種族との折り合いが悪くなりやすい。

その点、魔人連合国はヒューマンだろうが、妖精種だろうが、獣人だろうが差別しない。

貿易摩擦も起きにくいのだ。


 もちろん各種族間の意見対立もある。

しかし、それはあくまで国家を考えての対立であり、個人や自分の種族に利益をもたらすためのものではない。

そんな事をして国家を危険にさらせば、自分たちは居場所を失ってしまうのだから。

グラーダの圧力に屈しないのも、こういった建国以来の気風によるものが大きい。

自国を頼ってきたルーナ王女は最後の王族吸血鬼ヴァンパイアロード、守るべき少数種族なのだ。


 元々当代の夜王と魔人王は友好的な関係だった。

いや、4国全てが友好的な関係であったと言えるだろう。

大陸中央部に存在し、歴史も長い夜の国は非常に影響力が強い。

夜の国の方針が、北大陸全体の関係を形作ると言っても過言ではないのだ。


 かつて強硬な夜王が治めていた時代は、一触即発と言ってもいい空気が大陸を覆っていたという。

だが、当代の夜王は温厚な性格の協調派であり、大陸の空気は穏やかなものだった。

かの王が目指していた4大国の平和条約締結も、夢物語ではなかったのだ。

そして夜王は頻繁に諸国を訪問し、また他国の大使や重鎮を招待した。

ジェイスがルーナと出会ったのも、そんな交流の場でのことだった。


 ルーナ王女は王族の1人として各国訪問によく同行していたが、幼い彼女はやはり難しい話にはついていけなかった。

そこで夜王は魔人王に齢の近い話し相手を頼んだ。

そして幼いころから飛び抜けた実力を持っていたジェイスは、齢が近いルーナ王女の護衛兼話し相手に選ばれたのだ。


 元々シェイド族は護衛としても優秀で、必ず1人は同行していた。

さらに他国の来賓の警護にも頻繁に参加した。

夜王もジェイスを歓迎し、ルーナとジェイスは滞在期間中ほとんどの時間を共に過ごしたのだ。

10年近くも交流は続き、ジェイスにとってルーナは妹同然の存在となっていた。

しかし、ルーナの方は親愛以上の感情を抱き始めていることに彼は気付いていなかった。


 その頃にはジェイスの名は、知らぬ者がいないほど高まっていた。

諜報部隊という裏方の長の名が知れ渡ったという事でもあるので、それで良いのかという意見もあった。

しかし、抑止力としての効果は大きかったので問題視はされていなかった。

だが、事態は大きく動く。


 突然の簒奪事件とルーナの亡命。

ルーナの語った事の顛末。

夜王と魔人王はジェイスとルーナの婚約を考えており、簒奪者はそれを不服としていたという事。

そして気付いたのは、簒奪者が自分と同じ転生者であるという事。


「これは間違いないのだな」


「はい」


「では処分は任せる」


「了解しました」


 魔人王からの問いかけに思考を切り替えるジェイス。

ルーナを守り簒奪者グラーダを倒す、今考えるべきはそれだけでいい。

今回の報告は収容所や刑務所からの奇妙な報告の調査結果だった。

曰く、送られてくるはずの犯罪者や囚人が来ない。


 調査を行うと、軍末端の何名かが犯罪者たちの失踪に関わっている事が分かったのだ。

彼らを捕らえて拷問すると、非合法の奴隷商が奴隷として買い取っていったという事が分かった。

犯罪者たちはいずれも、凶悪すぎるなどの理由で最終的に処刑される者達ばかりだ。

つまり奴隷として使うにしても危険すぎるのだ。


 さらに、その奴隷商は夜の国に奴隷を出荷しているらしいことが判明したのだ。

ジェイスは即座に奴隷商を捕らえたが、すでに4桁近い奴隷を裏で流したことが分かっている。

中には他大陸から北大陸を訪れた者たちも含まれていた。

ジェイスは即座に港町の警備を厳重にし、監視を徹底させた。


「しかし、奴隷など集めてどうするつもりでしょうな」


「ヴァンパイア・スレイブにして戦力にするつもりか?」


「いや、それでは夜の国の外では役に立たん。そのまま戦力にするのではないか?」


「なるほど。お得意の魅了というわけか」


 いろいろな意見が出るがジェイスは違うと思っている。

ルーナに目をやると彼女の顔は青ざめていた。

どうやら同じことに思い至ったようだ。


 何を隠そうルーナを夜の国から脱出させたのはジェイスなのだ。

その時、2人はグラーダの凶悪な能力を目の当たりにしている。

少なくとも正面からの1対1ではジェイスに勝ち目はない。


 グラーダの特殊能力『融合』。

その対象は自分だけでなく他者にも及ぶ。

人間と魔獣や妖獣を融合させ、キメラ兵を作るぐらいの事は平然とやるだろう。

奴にとって自分以外の『者』たちは全て、『物』に過ぎないのだから。

奴隷が足りなくなれば国民を材料にしかねない。


「(これは早く動くべきかもしれない)」


 ルーナの絶望的な表情を見たジェイスの心に灯がともる。

魔人王に進言しようとしたその時、会議室のドアがノックされた。

警備兵がドアの向こうに問いかける。


「何用だ?」


「至急の要件を申し上げます」


 警備兵がドアを開けると連絡員がメモを渡す。

警備兵はメモを一読するとジェイスに歩み寄った。


「諜報部隊の者がジェイス閣下に直接報告したいことがある、と」


「何? 私に直接?」


「ただ事ではない様子ですが……」


 魔人王に目をやると、王はコクリと頷いた。


「分かった。すぐに向かう」


リア充爆発しろの読者様も、今回はジェイスを応援して欲しい。


グラーダはゲス過ぎて作者も不快なんで。

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