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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
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アリエルの教えてマスター

魔人連合国は各種族の共和制ですが、議会制民主主義ではありません。


民主主義こそ至高って考える人もいますが、国民全体の知識、教育水準が一定以上でないと機能しない制度なので。

 降りた乗客を遥かに超える乗客を乗せ、船が港を離れていく。

戦争の気配を敏感に感じ取り、国を、いや北大陸を離れる者が増えているのだ。

そして俺たちは少数派、わざわざ北大陸にやって来た側だ。


「マスター、獣人が2種類います」


「ん? ああ、あれは片方は獣魔族だな」


 好奇心旺盛なアリエルが早速気になった事を聞いてくる。

ちなみに彼女は白衣のような服を羽織っている。

実は、これは翼を構成していた粒子体を変形させた物だ。

銀髪に長耳は確かに目立つが、翼ほどではない。

初めはコートで隠していたのだが、船の中で試してみると服に変形が可能だったのだ。

ただし、色は白オンリーである。


「よく見てみろ。ヒューマンをベースに動物の特徴が付属しているのが獣人だ。そして動物がヒューマンのような体形になった者が獣魔族だ」


「? 獣魔族には刺青を入れる文化があるのですか」


「ああ、あれはな……」


 さらに次の疑問を投げかけるアリエル。

だが、目の付け所は良い。

実はこれは歴史的にも重要な点なのだ。


 獣魔族は極めて身体能力に優れるが、魔法抵抗が低いという欠点を持つ。

そして、これが数では圧倒的に勝りながらも、かつて吸血鬼族に隷従させられていた理由であった。

高位の吸血鬼族の大半は、魅了の魔眼や催眠暗示などの精神干渉系の能力を持っている。

どれだけ獣魔族が強者を多数そろえようと、高位吸血鬼が1人出てくればお終いだったのだ。

こうして獣魔族は長い間、戦う事すら許されず吸血鬼族に使われていた。


 しかし、その時代もやがて変革の時を迎える。

とある獣魔族の部族は、成人の儀式として体に刺青を入れる文化があった。

そして、その部族の成人には吸血鬼の精神支配が効きにくかったのだ。

当時の吸血鬼族はケダモノ、家畜と馬鹿にしていたが、獣魔族たちもバカではない。

すぐに刺青と抵抗力の関連性に気付き、研究を開始した。


 秘かに行われた実験は人道に反するものもあったらしい。

しかし、種族全体のためという大義名分の元、研究は行われたという。

これについては俺がどうこう言うべきことではない。

すでに過去の話であり、獣魔族の独立という結果が出ているのだから。


 完成した退魔の刻印は、施された獣魔族の魔法抵抗を引き上げることに成功する。

そして獣魔族たちの一斉蜂起が起きることになる。

だが、獣魔族たちは吸血鬼族の力が恐るべきものである事も理解していた。

彼らは復讐よりも脱出を優先し、大半が夜の国から逃れることに成功した。


 もちろん追撃は行われたが、国自体の混乱と志願兵による妨害によってそれは阻まれた。

国内の労働を獣魔族に押し付けていた夜の国は、この大脱出によって大混乱に陥った。

そして、脱出よりも復讐を望む獣魔族たちは志願兵として夜の国に戦いを挑んだ。

結果として彼らは敗れたが、同胞たちが逃げる時間を稼ぐことには成功したのだ。


 その後、獣魔族たちは獣魔国を建国し、夜の国に対抗することになる。

そして獣魔国では、生まれた子供に退魔の刻印を入れる事が義務付けられているのだ。

これにより獣魔族の死亡者はグンと減ったらしい。

戦争が無くても危険な魔物はいるし、場合によっては妖獣も出現する。

獣魔族として生まれた以上、退魔の刻印は必須と言ってもいいのだ。


「では、孤児や捨て子はどうなのですか?」


「……さすがにそこまでは判らないな。だが、獣魔族は同胞を大切にする種族だ。孤児や捨て子はほかの種族よりずっと少ないし、そういった子たちも仲間の手で育てられるそうだぞ」


「なるほど、そうなのですか」


 まあ、その深い情愛は長所であり短所でもあるのだが。

具体的に言えば、彼らは人質に弱い。

目の前で拷問などされれば我を忘れて突っ込むだろう。

そして罠で一網打尽となる。


「しかし、意外です。獣魔族の魔法適性はそれほど高くなさそうなのですが」


「う~ん、どうも普通の魔法とちょっと違うみたいだからな……」


 魔法を正式な学問とすれば、彼らの刻印術式は民間療法のようなものだ。

理論的に解明され、体系化されているわけではない。

でも、確かに効果がある。

地球では、シャーマニズムや呪術は迷信と切って捨てられたが、この世界には魔力という力がある。

オカルトもバカにできないのだ。


「おや? 見て下さい。マスターの外見とよく似た種族が見ています」


「ほう?」


「!」


 確かに俺とアリエルに向けられる視線は多い。

だが、白黒のコンビは結構目立つ。

思わず目を向けても仕方が無い。

だが、その人物は何かの意図をもってこちらを見ていたらしい。

俺と目が合うと、そそくさと去っていく。


「隠密系のスキルを使っていたみたいです」


「へえ、気付かなかった」


 この場合、居ることに気付かなかったという意味ではなく、隠蔽していることに気付かなかったという意味だ。

それなりの手練れなのだろうが、それなりでは俺の目はごまかせない。

と言うより、俺の魔眼の前ではこの手のスキルや魔法は意味をなさない。


「見張りですか?」


「ああ、連中は影人シェイド族だ。斥候系に適性の高い種族でこの国の諜報を担ってるらしいな」


「……捕らえますか?」


「物騒だな、おい!」


 さすがは軍事兵器。

諜報部隊の重要性と厄介さをよく解っている。


「やめておこう。どうも俺たちだけを監視していたわけじゃなさそうだ。入国者を全員チェックしてるんだろ」


「了解です、マスター」


 意識してみると結構あちこちに影人族がうろついている。

動きから見て素人ではない。

思いの外この国はセキュリティーがしっかりしているようだ。


 魔人連合国という国は4大国で唯一の多種族国家だ。

他の3国では、異種族が徒党を組んで何かやろうとしてもすぐに分かる。

目立つからだ。

だが、この国はそうはいかない。

不穏分子の外部からの流入には気を付けているのだろう。


 現代の地球でも、多民族国家ではこういった問題はつきものだった。

一般人を装ったテロリスト、過激派の活動家、スパイや工作員、挙げればきりがない。

中には民族そのものが対立の火種になることもあった。


 例えばアメリカ合衆国。

世界最強の国家であるが、いまだに前世期から続く白人と黒人の対立を抱えている。

だが、対立はしていても彼らは『祖国アメリカのため』になら手を結ぶ。


 しかし、最近増加している新たな移民たちの中には、その常識に当てはまらない者たちがいる。

主に中東系、中華系、半島系の移民たちだ。

もっとも、中東系の移民には宗教という事情があるし、テロリストの隠れ蓑に移民が使われているという見方もあるが。


 彼らは民族意識が非常に強く、時にそれが国家への帰属意識を上回ることがある。

そのため移民先の文化や環境、思想に合わせようとせず、自分たちだけで集まりコミュニティを形成する。

それだけならまだ良いのだが、問題は逆に自分たちの価値観を周囲に押し付けるところだ。

そのため周囲とのトラブルも多発しているという。


 彼らの行動が祖国のためなら、まだ周辺住民も受け入れられたのだろう。

だが、彼らの行動は徹底して自分たちと母国・・のためなのだ。

いや、母国というより同胞だろうか? そのへんは彼らにしか解らない。


 そして対立する者たちに対しては人権を盾に逆に攻撃する。

一致団結して市議や議員といった権力中枢に、自分たちの仲間を送り込む様はいっそ感心するほどだ。

そうやって勢力を拡大している。


 本人たちにその気が無くても、自然と草の根工作員として働く。

そして世論を誘導し母国の都合の良いように祖国を動かそうとする。

傍から見るとまるで腫瘍細胞である。

当然、行きつく果てにあるのは祖国の死なのだろう。

すなわち国家の崩壊だ。


 かつては宗教、特にキリスト教が、こういった文化的思想的な侵略に利用されていた。

徳川家康がキリスト教を禁止したのも、文化的思想的侵略を警戒したからという説もあるのだ。

現代でも中国では中華思想、半島では民族主義がそれに代わり、中東ではいまだに宗教戦争が起きている。

日本にも毒されてる過激な活動家がいたしな。


「まあ、地球のことはさておきだ」


「はい?」


「時間はかかるが、武力を用いない文化的、思想的な侵略ってのは非常に有効で厄介なんだ。国民は国の土台だ。そいつを揺るがすための戦略だからな」


「単一種族の絶対王政では効果が薄い。多種族でほぼ共和制のこの国にこそ有効な戦略ですか」


「ああ、世論が分断されれば国は身動きが取れなくなる。そして、それを理解し、防ごうとしている奴がこの国にはいるってことだな」


 接触しておくべきだろうな。

さっきの男を追跡させてみるか。


------------------------


「ハァ、ハァ……」 


 人気の無い路地裏で冷や汗を流す影人族の男がいた。

先ほどフィオ達を監視していた国の諜報員の1人である。

初めは珍しい見た目程度にしか思っていなかった。

青年のほうは影人族に似た外見だったが、目の色が紫だった。

影人族は黒髪に浅黒い肌、そして目はダークブルーだ。

だからあの青年は同胞ではない。


 もっともこの国ではハーフなど珍しくないし、他国に影人族がいないとも限らない。

それよりも重要なのは目が合った瞬間に感じた悪寒だ。

あの時、青年の目が輝いたように見えたのは気のせいだろうか?

天性の諜報員である影人族の直感に従い、即座に逃亡した自分を褒めてやりたい。


「指令に報告しないと……」


 影人族の族長の次男である諜報部隊の長。

現在の魔人連合国の諜報体制を整えた立役者である。

何よりまず、彼に報告に判断を仰ぐ必要がある。




 息を整えた男は路地裏を出ていった。

その姿を、上空から見つめる空色の小鳥がいることに男は気付かなかった。


フィオがあれこれ知ってるのは、シリルスレポートだけでなく神槍杖の機能も使ったからです。


一応情報ツールとしての機能もあったのです。


主人公どころか作者も忘れてましたが。

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