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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第3章 妖精大陸探索編
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丸投げ

 最後の抵抗を試みたゴラー。

しかし、それは叶わず遂にその生涯に幕を下ろした。

ダークエルフの寿命からすれば、あまりにも早い死であった。

これにより、フォーモルの直系は絶えた事になる。


 実のところ、シリルスは確実にゴラーを殺すつもりでここに来た。

基本的に温厚な彼だが、今回ばかりは心に決めていた。

理由はいくつかある。


 1つは生かした場合のリスク。

万が一逃げられて、再び再起をはかられたら。

そのリスクを背負うぐらいなら、手を汚すべきだとシリルスは判断した。

どの道、裁判にかけても死刑は確実だという事もあるが。


 もう1つは感情的な問題。

単純にゴラーのこれまでの行いが許せなかったのだ。

魔剣に乗っ取られていたのだとしても、彼はやり過ぎた。

特に最愛の女性の人生を狂わせたことは、到底許せるものではなかった。


 一方でゴラーの行動があったからこそ、今の自分があるのだという自覚もある。

もし、ゴラーが見た鏡の中の自分と同じ道を歩んでいたとしたら。

その覇道は、もしかすると悪魔とぶつかっていたかもしれない。

そうなれば終わりである。

鏡に映ったゴラーが死んだ後の未来で、それは起きていたかもしれないのだ。


「メリア、大丈夫かい?」


「……あ、ええ。大丈夫です。ただ、ようやく終わったのだと思うと……」


 真っ二つになったゴラーの頭部を、ぼんやりと見つめていたメリア。

シリルスに応える声にも困惑の色が浮かんでいる。

終わった、というのは今回の事件だけを差しているものではないだろう。

彼女は数十年に及ぶ心の呪縛を、ようやく断ち切ったのかもしれない。


「(これで笑顔が増えてくれると良いんだけどね)」


 思いは口に出さず、吸血植物に指示を出す。

ブラッディ・ソーンはゴラーの遺体の血を吸いつくし、消え去った。

残されたミイラのような遺体は崩れ去り、大地に帰って行った。

やり方は間違えていたが、運命に必死に抗った男をさらし者にするのは気が引けたのだ。


 死者は等しく大地に還り、新たな命の糧となる。

それが妖精種の一般的な価値観である。

既にシリルスはこの世界の住人なのだ。


「シリルス様! お下がりください!」


「え?」


 ビー! ビー! ビー!


 ゴラーの冥福を祈るシリルス。

その時、突然メリアが慌てだした。

遅れて自前の索敵魔道具が警報を鳴らし始める。


「凄まじい力を持った何かが近づいてきます。私では勝てません……」


「魔力パターンは……、なんだコレ? 測定不能?」


 一点を見つめて彼我の戦力差を見切るメリア。

出た結論は勝算は無し。

向こうは確実にこちらを認識した上で近づいている。

シリルスを逃がせるかどうかも怪しい所だ。


 一方のシリルスも困惑している。

今まで登録した魔力パターンのどれにも当てはまらない魔力。

いや、それどころか解析すらも難しい複雑で解りにくいパターン。

相手が何なのか想像もつかない。


「逃げきれそう?」


「難しいでしょう。せめて相手の目的が分かれば……」


 緊張感に包まれながらも、決して絶望はしない。

最後の最後まであきらめない。

それは2人の共通点である。

やがて、そのナニカが目の前に現れる。


「……見える?」


「いえ、何かがいる様な気がする程度です」


「こっちもセンサーに反応なしだよ」


 先程までは、森の中の空白という形で存在を認識できていた。

だが、その反応も徐々に希薄になり、遂には完全に周囲に同化してしまった。

魔力だけでなく、視覚、聴覚、嗅覚、全てに無反応。

完璧なステルスだ。


「シリルス様、全力で仕掛けます。その隙にお逃げください」


「まあ、待って。ねえ、アンタは何者だい? 言葉が通じるなら応えてくれないか?」


 開き直ったシリルスは、堂々と問いかける。

いや、正確にはある可能性に思い至ったのだ。

先程から遠方から聞こえてきた爆音が聞こえないのだ。

だとすると


「気付いたのか、開き直ったのか。どっちにしても流石だな」


「貴方は……」


「やっぱり……」


 空間がぶれる様な違和感と共に、目の前に銀色の霧が立ち込めた。

それは見る見る収束し、バスケットボールサイズの球体となった。

フワフワと浮遊するその隣には見知った顔。

戦いを終えた悪魔との再会であった。


--------------------------


「じゃあ、ゴラーは仕留めたんだな」


「はい。どうやら向こうにも事情があったみたいですが」


「情状酌量できる範囲は逸脱してたから同情はしないことだな。最初の内ならゴラーが心の底から拒絶すれば抗えたはずだ」


「そうですね……。要塞の方はどうなりました?」


「中枢機能はおしゃかだな。まあ、変に利用されても困るんだが」


 お互いの情報交換を進める2人。

そして話は一番面倒な話題へと移行する。

そう、戦後処理である。


「……さすがに無理があると思いますけど」


「どうせ証拠は無いんだ。お前の手柄にしておけよ」


 フィオは戦後の面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだった。

冒険者ディノとして前線で戦っていただけでも結構な手柄なので、それ以外はシリルスに押し付ける気満々だったのだ。

具体的には自身が魔王化した姿である装甲騎兵を、シリルスの用意した奥の手と言い張るつもりだったのだ。

流石に無理があると思うところだが、フィオは行けると思っていた。

何せ、状況を理解できている者などほとんどいないのだ。

適当に説得力のある話をでっち上げれば、どうにかなるはず。


「アリエルが要塞巨人に挑んだところを見た奴は多い。だから、それを利用する」


「……いいんですか?」


「撃墜されたアンヘルはリミッターを解除して変身。要塞巨人と刺し違えて消滅した。どうだ? 説得力あるだろ?」


「まあ、そうですが……」


 シリルスも理性では良い手だと思う。

しかし、都市を体を張って守ったアリエルを利用するようで気が引けたのだ。

だが、同時に自分らしくないとも感じてしまう。

権謀術数の世界で生きてきた政治家の一族としては、曇りなく正しい案であるはずなのに。


「はぁ……。少しナーバスになってるようですね。彼女は魔法生物と同種の存在であり、自身の使命に殉じたというのは理解してるんですが」


「あ~、まあ……な」


「? どうかしましたか?」


「いや、後で説明する。取り敢えずは、帰りがてら話を詰めよう」


 歯切れ悪く誤魔化すフィオ。

多少不信を覚えるシリルスだったが、頭を切り替える。

悪魔は戦後処理に干渉する気は全く無い。

それ自体は別に良い。


 だが、そうなると彼の関わった部分は全て自分が処理しなければならない。

捏造、歪曲、あの手この手で彼の存在を隠さなければならない。

その過程でいくらでも利益を誘導できるのだが……。


「ああ……、今日ぐらいゆっくり寝たいよ……」


「寝れば良いじゃないか」


「「無理です」」


「おおう……」


 政治に疎いフィオには解らない。

この後、シリルスには地獄のような運命が待ち受けているのだ。

食事や睡眠もままならない缶詰という地獄が。

だが、その前座となる試練が訪れる。


「ん? 迎えみたいだぞ」


「シリルス様。ご当主様の私兵の方々のようです」


「あ……」


 ミスター爺馬鹿が消えた最愛の孫を放置しておくはずがなかった。

即座に私兵を集めて捜索隊を結成。

恐るべき執念で目撃者を探し、短時間でここまで手を伸ばしたのだ。

フェノーゼ・セネリアは孫のためなら手段を選ばない。


「あれ? おい、あれはお前の爺さんじゃないか?」


「え?」


「はい?」


 更なる衝撃。

孫大好き爺さんは自ら出陣していた。

シリルスの姿に気付いた強面の爺さんの顔が、喜び、安堵、憤怒と変化する。

整った顔だから余計に怖い。


「おおう、オーガも真っ青だな」


「……メリア」


「申し訳ありません。どうにもなりません」


 結局、シリルスは都市に着くまで祖父の説教地獄に曝された。

さらに都市に帰ったシリルスを待っていたのは、父を含む都市の重鎮たちの説教。

ようやく、それが終わったと思ったら即座に戦後処理。


 シリルスの眠れぬ夜は4日も続くのであった。


ようやく終戦。

長かった西大陸編もそろそろ終わりです。

全然探索してないけど。


ちなみにフィオは気を使っただけで、脅かすつもりはありませんでした。

まだお取り込み中かな~とか思ってたんですね。

リア充の2人と空気の読める悪魔ってとこです。



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