消耗戦
二頭の獣が喰らい合う様な戦い。
しかし、メリアと共に森を進むシリルスは、そこにある意図を感じていた。
「キレてはいるけど冷静か……。怖い人だね」
「そうなのですか?」
かなり離れた場所から響き渡る轟音。
その音は徐々に都市から離れていっている。
そう、フィオはドヴェールと戦いながらも、徐々に要塞巨人を都市から引き離していたのだ。
おそらく、ドヴェールの方は気付いてもいない。
2人の念話をシリルスは把握している。
自作の探知用マジックアイテムに念話受信の機能があるのだ。
これによりフィオが大変お怒りであることが解っている。
人には2種類のキレ方がある。
1つは我を忘れて暴走するタイプ。
もう1つは感情を殺し冷酷になるタイプ。
フィオはどうやら後者らしい。
前者はまさに猛牛だ。
パワーは上がるが周りが見えなくなり、対処するのは楽になる。
もちろん油断すれば、某ハンティングゲームのようにボコられることになるだろう。
特に砂漠の2本角が有名だ。
後者は前者程パワーは上がらないが、とにかく隙が無い。
手加減も躊躇いも捨て去り、ただ相手を倒すことに集中する。
まさにキラーマシーンだ。
シリルスとしてはこちらの方が怖い。
「まあ、あっちは彼に任せよう」
「はい」
時折、粉砕された大木や土砂が飛んでくる。
しかし、シリルスのマジックアイテムはその悉くを防ぎきる。
シリルスとメリアは破壊の嵐が吹き荒れる森を進み続ける。
---------------------------
ギュイイイイ イ イ ィ ……
要塞巨人の両腕の回転が、充電が切れたように停止する。
握りこんでいた魔導砲の砲身もグシャグシャだ。
これではもう修復は不能だろう。
ブロックすれば爆発し。
ブロックされても爆発し。
そんな爆弾のような腕と殴り合ったのだから当然の結果だった。
腕自体も細かな損傷が目立ち始めている。
長時間の連続戦闘に要塞巨人も限界が近いのだ。
回転が止まったのも理由は単純だ。
長時間使用によるオーバーヒートである。
スペック的にはほぼ同等の両者。
だが、ここに来て明確な差が出始めていた。
それは生物と無生物の差である。
尚、神種を超える超生物を、単純に生物とカテゴリーしても良いのかはこの際置いておく。
要塞巨人は凄まじいパワーと耐久性が持ち味である。
事実、これだけ激しい戦闘を繰り広げているが大きな損傷は見当たらない。
しかし、一度損傷すると自動修復には時間がかかり、大きな損傷は直せない。
さらに弾薬やエネルギーの補給も必須である。
一方、装甲騎兵はトータルバランスに優れ、底無しの再生力を持つ。
回転パンチで抉られようが、ドロップキックで粉砕されようが一瞬で修復してしまう。
さらに金色の外殻は、拳だけでなく全身が反応装甲のように自壊して攻撃を逸らしてしまう。
もちろん外殻の修復も一瞬だ。
要塞巨人の装甲を破る事はできていないが、そもそもその必要が無い。
内部に神気を浸透させ、ドヴェールを直接攻撃しているのだから。
逆に言えば要塞巨人を破壊できても、ドヴェールを倒せなければ意味は無いということでもあるのだ。
そういった意味ではフィオはドヴェールの天敵と言えるだろう。
〈(長期戦になるほど不利か……なら!)〉
要塞巨人が腰部のパイプを全開にして低空ダッシュを開始する。
それを見た装甲騎兵も右側の腕を引き、左側の腕を前に出すカウンターの構えを取る。
何度も繰り返されたやり取りだ。
このまま突っ込めば押し負けるのは要塞巨人。
だが
〈(ふんっ!)〉
《!?》
大きく振り上げられた両腕は、装甲騎兵ではなく大地に叩き付けられた。
目の前が爆発し土砂に視界を奪われる装甲騎兵。
一方の要塞巨人は腕を振り下ろした勢いのまま、前転するように体を回転させる。
両腕は地面に付きたてられたままなので、鉄棒をしているような光景だ。
機械であるがゆえに要塞巨人の肩は360°回転する。
突進の勢いに遠心力を乗せた踵落としが、土砂を切り裂き装甲騎兵を襲う。
しかし
《ふんっ!》
〈(なっ!? ぬぐ……)〉
土砂の向こうに見えたのは背を向けた装甲騎兵。
そして、その2本の後ろ脚が要塞巨人に振り上げられる。
背面ダブルキックが回転踵落としを迎撃し、轟音と衝撃が両者を弾き飛ばした。
だが、装甲騎兵は即座に反転し体勢を立て直す。
《いない!? 上か!》
一方の要塞巨人は、各部のパイプを全開にしてさらに上空へと跳躍していた。
そして両腕を組んでハンマークラッシュの構えを取る。
一瞬の停滞。
次の瞬間、巨体が流星の様に加速して落下する。
装甲騎兵は迫り来る流星を腰を落として待ち受ける。
どれだけ勢いがあろうと、金色の反応装甲の前ではその威力を殺されてしまうのだ。
まずは止める。
そして反撃を叩き込む。
やる事は変わらない。
振り下ろされるハンマークラッシュ。
バネの様に体を跳ね上げ、三本の腕で迎撃する装甲騎兵。
両者の拳が接触した直後、インパクトの瞬間装甲騎兵の腕が爆発する。
《軽い?》
思ったよりずっと軽い衝撃に困惑する装甲騎兵。
あれだけの巨体から繰り出される衝撃が、この程度のはずがない。
爆発の向こうに見えたのは吹き飛ばされる腕。
そう、腕だけだ。
要塞巨人の体がない。
ズン!!
直後に響く轟音。
そして目の前に何かが着地した振動。
とっさに腕を掲げて防御態勢を取ったフィオの反応は流石だろう。
だが、体勢があまりにも悪かった。
ロケットパンチの要領で肘から先をパージした要塞巨人。
勢いを殺すことなく高速で着地し、遂に装甲騎兵の虚を突いた。
上空から攻撃すれば装甲騎兵は間違い無くカウンターを狙ってくる。
しかし、その体勢で腕を爆発させれば、一瞬爆発に視界を遮られる。
千載一遇のチャンスだった。
ボギィ!!
半分になった左腕をスパイクのように地面に突き刺し、パイプを全開にする。
地を這う様な水面蹴りが、伸び切った装甲騎兵の左前脚に炸裂、粉砕した。
ガクンとバランスを崩す装甲騎兵。
だが、装甲騎兵の足は4本だ。
辛うじて堪える。
そして、勢いに逆らわず半回転し右側の腕を薙ぎ払う。
3連のバックハンドブローが唸りを上げるが、要塞巨人は寝転ぶように体勢を低くして回避する。
ガシン ガシン
そこでパージされていた要塞巨人の両腕が戻ってくる。
要塞巨人はバク転するように起き上がり、両腕を回収した。
さらに、そのまま両腕を揃えて前に突き出し
ドドウ!!
発射した。
距離が近く、回避できるタイミングでもない。
ロケットパンチは一直線に装甲騎兵に向かい
《フンッ!》
ガゴォ!!
まさかのヘッドバットで迎撃された。
頭部の装甲は拉げてしまったが、ロケットパンチは地面にたたき落される。
そして再生した左前脚が、それを上から踏みつけた。
〈(クッ、攻めきれなかったか……)〉
《残念だったな。せめて回転機能が生きていれば、頭をふっ飛ばせたかもしれないが》
〈(それで死ぬようには見えないけどな……)〉
そうしている間にも装甲騎兵の損傷は再生していく。
あっと言う間に完全復活する装甲騎兵に、ドヴェールは自分が追い詰められ始めていることを自覚する。
互角の戦いはその天秤を傾けつつあった。
次あたり決着ですかね。
互角の戦いって一方的な戦いより書くのが面倒ですよね……。




