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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第3章 妖精大陸探索編
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装甲騎兵vs要塞巨人

 フィオが要塞に突撃したのと同時刻、密かに都市を抜け出す者がいた。

彼の立場を考えれば、それは許されない暴挙であった。

もちろん厳重に監視の目は向けられていたのだが、彼はそれをかわして脱出に成功していた。

だが、それを許さない者もいた。


「シリルス様、どちらへ?」


「うわっ! ととと、バレたか。さすがだねメリア」


「答えになっておりません」


「そう怒らないでよ」


「怒ります」


 フィールドワークの多いシリルスは屋外の活動も苦ではない。

種族的な特性もあり、森の中はむしろ得意な地形だ。

それでも物音一つ立てないメリアには勝てるはずもない。

逃げられるはずもない。

だから正直に話す。


を見つけたんだ」


「……そうですか」


「ラーマスさんは負けた。もう、僕らだけじゃ要塞は止められない」


「そうですね」


「でも、これ位は僕らがやらないと」


 シリルスはアリエルが都市を守るために戦い、敗れた姿を見ていた。

有機機械が見せたその魂、シリルスはジッとしていられなくなったのだ。

だから、やるべきではないと思いながらも自分を誤魔化して動いた。


「彼が、ゴラーが要塞から脱出したのを見た。せめて彼は僕らの手で倒さないと」


「ならば私が行きます。貴方が自ら行く必要はありません」


「頼むよ」


「シリルス様……」


 口では懇願しているが、その歩みは止めない。

主人が既に決断してしまっていることをメリアは理解する。

自分が憧れた強い意志。

愛する人をその人たらしめる輝き。

メリアは説得を諦める。


「解りました。ただし絶対に一人で行動しないで下さい」


「解っているよ。ありがとう」


「……ついさっき置いて行ったくせに」


「ごめん……」


 ゴラーは実力者だがメリアの方が強い。

そしてシリルス自身も希少種族の転生者だ。

様々なマジックアイテムで武装した彼は、下手をすればメリアよりも強い。

それでもメリアにとって、彼は守るべき相手なのだ。


--------------------------------


 突如出現した巨大な黒い発光体。

要塞巨人は警戒し、巨体に見合わない俊敏な動きで距離を取る。

意識を憑依させたドヴェールとの同調が深まっている証だった。

同調が進み過ぎると憑依を解除できなくなるのだが……。


〈(攻撃魔法じゃないのか?)〉


《その通りだ》


〈(!?)〉


 要塞巨人に発声機能など無い。

故にドヴェールの思考は、答えを期待してのものではなかった。

だが、彼の魂に叩き付ける様に念話が送り込まれた。

それがさらに彼の警戒を深める。


 黒い光は徐々に消え、その中から要塞巨人に匹敵する巨大な姿が現れる。

そのシルエットは騎馬兵やケンタウロスに近いだろう。

しかし、その下半身は馬の様にシャープなものではない。

例えるならばサイやゾウ、あるいは恐竜トリケラトプスだろうか。

足がやや短めで太い、重量級四足獣の下半身だ。


 上半身は要塞巨人よりは小柄だが、バランスはよく似ている。

しかし、腕は要塞巨人程長くなく、代わりに左右3本ずつ計6本もあった。

下半身に比べて無機質であり、重厚なプレートアーマーの様な雰囲気がある。

ただし、背中には近未来的なブースターが存在している。


 バイザーの奥に輝くのは紫色の光。

黒い全身はさらに金色の装甲に覆われ、6本の腕は拳の部分が一回り大きい。

外部からは見えないが、装甲の内側には神力が循環し要塞巨人のドレイン攻撃を妨害していた。

そして立ち上る黒いオーラが、重厚な巨体をさらに巨大に見せている。


〈(変身かよ。くく、面白いじゃないか!)〉


《そうか……。面白いか……》


 向かい合う両者。

念話による会話は相手にしか聞こえない。

周囲には意味の読み取れない要塞巨人の駆動音と装甲騎兵の唸り声が響き渡る。


〈(あん? 何だか不機嫌そうだな)〉


《ああ、昔色々あってな。馬鹿にするのは好きだが、されるのは嫌いなんだよ》


〈(そりゃ、普通じゃないのか?)〉


 要塞巨人が腰を落とし、左腕を前に右手を後ろに構える。

一方の装甲騎兵はクラウチングスタートのように膝を折り曲げる。

装甲騎兵は攻め、要塞巨人は受けの構え。


《そうだな。だが、俺はギャグ的な事に巻き込まれるのが特に嫌いなんだよ》


〈(はあ?)〉


《お前の行いは……》


 ガコン! キュイィィィィ


 装甲騎兵の背中のブースターが展開。

露出した噴出口に光が灯る。

そして


《頭に、バケツ(注:型ヘルム)を被らされた時以来の屈辱だっ!!》


 ゴバッ!!


 4本の足が大地を蹴り、爆発したように土砂が舞う。

さらにブースターが光の尾を引き、その巨体を加速させる。

そして6本の腕からは真紅の雷光が漏れ出した。


 迎え撃つ要塞巨人は上半身を捻り、右腕を大きく引く。

右腕は手首から先がドリルのように回転を開始し、肘のブースターにも魔力が集中する。

さらに両足の裏からはスパイクが飛び出し、要塞巨人を大地に固定する。


《オオオオオオオォ!!》


〈(オラアァァァァァ!!)〉


 バギョン!!  グシャア!


 ミサイルのように繰り出された装甲騎兵の左拳。

しかし、それを流星のような要塞巨人の拳が迎え撃つ。

拮抗したのは一瞬、装甲騎兵の拳がグシャグシャに潰れる。

だが


 ドガァ!!


〈(何っ!?)〉


 潰れた前腕部分が閃光と共に爆発、真紅の雷光を撒き散らす。

要塞巨人の腕は無傷だったが、その爆発によって勢いが殺されてしまう。

さらに真っ直ぐに伸び切った右腕の肘の関節に、2本目の左拳が真下から突き込まれる。

構造上の急所に直撃を受けた右腕だが、軋みはしたものの破壊はされない。

しかし


 ドォン!!


 2本目の左拳も、肘から先が自爆した。

その爆発と雷光は、要塞巨人の右腕を上にはね上げる。

慌てて左腕でガードしようとするが、装甲騎兵の3本の右腕がその腕を掴む。

そして最後の1本、3本目の左腕による貫手が要塞巨人の主砲に襲い掛かる。

隙をついて撃ち込めれば要塞巨人の勝利。

だが、砲身内部で腕を爆破されれば逆に装甲騎兵の勝利だ。


 ガコン!


 要塞巨人は即座に砲身を収納する。

それを見るや装甲騎兵は貫手を掌打に切り替え、装甲に守られた胸部に叩き込んだ。

衝撃と共に神力が内部に浸透し、装甲の内側にダメージを与える。

動力部への神力の浸透は、そこに憑依するドヴェールにとっては無視できない被害だ。


〈(ぐうっ!?)〉


《オマケだ。くらえ!》


 ドドドドォ!!


 響き渡る4つの轟音。

要塞巨人の左手を押さえていた3本の腕、掌打を放った腕、その全てが爆発したのだ。

要塞巨人は後方に吹っ飛び、装甲騎兵も反動で後方に飛ぶ。

再び距離を開けて睨み合う両者。


〈(腕が無くなっちまったぞ?)〉


《ああ、心配無用だ》


 肘から先を失った6本の腕に黒い炎が灯る。

それが消えた時、そこには新品の黄金の手甲に包まれた腕が復活していた。

ただし、今度の腕は拳の部分にスパイクが装着された攻撃的な形状だった。


《さてさて、あと何発撃ち込めば成仏してくれるのかな?》


〈(そっちこそ。再生できないくらいに粉砕してやるよ)〉


 右手の具合を確かめる要塞巨人。

そして無造作に左手を上げるとバルカン砲を斉射する。

しかし、放たれた魔法弾は黄金の装甲を貫くことができない。


《そんなもの牽制にもならないぜ?》


〈(みたいだな。なら……)〉


 要塞巨人は足元に落ちていた物を拾い上げる。

それは暴発し、自らパージした大型魔導砲だった。

そして、それを両の手に握りこむ。


《ほう、そう来るか》


〈(ちょっと長いが、メリケンサック代わりだ)〉


 指の間から飛び出した砲身は、まるで爪の様だ。

この状態で回転させれば、まるで削岩機のように凶悪な武器となるだろう。

これなら強固な装甲を抉れるはず。


 装甲騎兵のブースターが再び唸りを上げる。

要塞巨人の腰部のパイプからも魔力が噴き出す。

そして、2つの巨体が大地を蹴る。


 その激突は都市を、西大陸を揺るがした。


遂に激突。


普通に強い要塞巨人と、使い捨て高威力武器を連発するフィオ。


どっちが勝っても残るのは荒野だ。

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