13体目の使い魔
腰痛で動けないので執筆が早い。
良いんだか悪いんだか。
要塞の力を完全開放した転生者ドヴェール。
最初は渋々だったが、今はこの巨大な身体をかなり気に入っていた。
何しろ強い。
生身だったころの自分なら、逃げる事すらできなかったであろうエント。
それを3体もあっさり倒せたのだ。
敵の召喚士によりコントロールされていたエントは、通常より強かったはず。
だが、エントのコンビネーションを正面から打ち破る事が出来た。
魔導砲をいくつか失ったのは油断だったが、後で修理すればいい。
操縦(?)にもだいぶ慣れてきた。
ドヴェールは絶好調だった。
彼は元々サブカルチャーが大好きな学生だった。
不慮の事故で命を落としたが、その先の転生というイベントにはいち早く順応した。
そして彼が目指したのは生産チート。
ドワーフという種族もあり鍛冶師を目指した。
初めは順調だった。
素質とスキルにモノを言わせ、急速に成長していったのだ。
だが、順調であるがゆえに彼は忘れていた。
これはゲームではないという事を。
どれだけスキルの補助があろうと、技術を身に付けるのは長い修練が必要だ。
だが、安易に大成する事を望む彼には、その根気が足りなかったのだ。
あるいはゲームのように経験値が見えれば違ったのだろう。
だが、彼は手探りで地道に鍛え上げるという行為に耐えられなかった。
半端に知識があったのも悪かったのかもしれない。
ゲームやノベルでは主人公があっさり成長していくことが多い。
しかし、彼らとて長く厳しい修練を行い才能を磨いているはずなのだ。
子供に戦車を与えても扱えるはずがない。
どんな力もコントロールできなければ意味が無い。
それを理解できなかった。
いつしか見下していた同期が追いついてきていた。
別に彼らが急に成長してきたわけではない。
ドヴェール自身が進むことを止めてしまっていただけだ。
そして彼は道を踏み外す。
〈(楽しいな)〉
久しぶりの身体。
思い切り暴れることができる爽快感。
ドヴェールは深い満足を覚える。
食事も睡眠も必要ないこの身体。
必要なエネルギーは周囲からいくらでも吸収できる。
あれほどの性欲も鎮火した様に治まってしまっていた。
代わりに燃え上がるのは破壊衝動。
長く武器に封じられ、目覚めたと思ったら邪神の虜。
ようやくの解放に体が疼いて仕方がない。
エントなど準備運動。
その後のアンヘルも隠し武器で一蹴できた。
〈(足りない、まだまだ足りない。戦いを、この要塞が砕け散るほどの闘争を!)〉
兵器と同調した結果、彼の意識は変質し始めていた。
精神は肉体に引っ張られる。
彼は心まで兵器になりかけていた。
だが
〈(そういえば、あのアンヘルは人間とほぼ変わらないんだったな……)〉
ふと、思いついた。
アンヘルの技術を解析し、自分用のボディを造れないか? と。
それが出来るなら普段はそれを使い、戦闘時にはこの要塞に乗り換えればいい。
彼の思考はやはりサブカルチャーに染まっていた。
意識を先程のアンヘルに向ける。
プロトタイプは全て吸収してしまったから、アレが最後の一体だ。
それに、どうせなら完成品を解析した方が良い。
人間に近いなら好都合。
自分は人間の解析の経験が豊富だ。
〈(? どこだ……)〉
ところが肝心のアンヘルが見当たらない。
確かに落下を確認したのだが……。
彼は気付かなかった。
限界を迎えたアリエルの体が、影に沈んで消え去った事に。
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「私は……」
水面に浮上するように意識が覚醒する。
自分は大破したはず。
もう目覚める事は無いはずなのに。
アリエルは不思議に思い周囲を見渡す。
周囲は闇。
そして自分には肉体が無かった。
戸惑うアリエルの周囲に唐突に気配が生まれる。
闇の中に浮かぶ黒い光。
そうとしか判断できないものが9つ。
いや、
「私、も?」
そこで気付く。
自分自身も黒い光となり漂っている事に。
そして周囲の光に変化が現れる。
光が膨れ上がり、何かの形を取り始めたのだ。
〈目覚めたか……〉
六腕竜尾の骸の騎士
三頭の大蛇
〈ここは我らが主の内側、下僕たちの聖域〉
空色のグリフォン
火山のごとき巨獣
〈だが、お前は仮初めの下僕……〉
翼蛇に乗る死神
鏡の幻魔
〈故に選択せよ〉
黄金の昆虫
金属の巨兵
そしてアリエルに語り掛けている者。
巨大な竜
〈役目を果たしたと満足し、消えるか〉
まるで見透かしたように語り掛ける。
要塞巨人に挑むとき、アリエルは己を顧みていなかった。
そして、敗北した瞬間、自分が空になったような気がした。
全てが虚ろでどうでもよくなった。
〈我が主と共に、永遠の旅に赴くか〉
全てを失った虚ろな魂は考える。
考えて、考えて、答えを出した。
黒い光が輝き、アリエルの姿を形作る。
〈ようこそ、新たなる同胞よ。我らはお前を歓迎する〉
アリエルは目を見張った。
一面の闇が一瞬にして晴れた。
そこは島、そこは空。
そこは空に浮かぶ島、浮遊島だった。
竜が称え、同胞たちが歓迎する。
闇の支配する聖域で、作り物の天使は選択した。
そして、自らの意志で歩き出す。
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〈あのバカ娘、やられちまったぞ!〉
〈うっさい! 気が散る!〉
〈何か手は……〉
アリエルの特攻も阻止され、窮地を迎えた都市。
防衛を任された使い魔達も、さすがにお手上げだった。
防げても1回が限度だろう。
せめて全力で戦えれば……。
「すまん、待たせた……」
〈!〉
〈マス……〉
〈……ター?〉
その時、音もなくゲートが開かれた。
そして聞こえてきた主人の声によって、全てのリミッターが解除された。
これで戦える。
しかし、現れた主人の顔を見た使い魔達は、硬直し言葉を無くす。
能面のような無表情。
凍り付く様な気配。
フィオのオリジナルである佐藤氏。
彼は怒るほどに冷める性質だった。
それはフィオも変わらない。
そして今、彼が纏う気配は絶対零度だった。
悪魔様はお怒りだった。
いや、怒り心頭だった。
ブチ切れていた。
「なあ」
〈ハイ!〉
〈なんでしょう!〉
〈何なりと!〉
ハウルとリンクスまで2本足で立ち、敬礼する。
コミカルな風景だが全員いたってマジである。
「アレは俺がヤる。お前たちは余波から都市を守ってくれ」
〈〈〈イエス! マイ マスター!〉〉〉
キレイにハモった。
だが、やはり誰も気にしない。
フィオも気にしない。
ただ、使い魔達の戦闘データを基に解析する。
「ふむ、魔力吸収か。なら、使用は近接格闘特化型。神槍杖を媒介として魔力は神力に変換、表面部で循環させるとして……」
〈〈〈……〉〉〉
「イメージはケンタウロスか? 下半身のベースはヴァルカン、上半身はギアで全身にシザーの装甲を……」
〈〈〈……〉〉〉
魔王化の本領は変幻自在の変身能力。
だが、完全制御できていないのでフィオは次善の案を取る。
即ち、予め変身体をイメージしておき、その姿に固定するのだ。
応用は利かなくなるが、魔王化は魔王化だ。
悪魔化よりも遥かに出力は大きい。
今、フィオがイメージする魔王ボディは、要塞巨人と戦う為だけにデザインされている。
もはや、ケンタウロスというよりモ〇ルアーマーと呼べる代物である。
使い魔達も突っ込んだりしない。
「……よし、こんなものか」
フィオが跳躍する。
背中に翼が展開され、要塞巨人に向かって一直線に飛翔する。
何かを探していた要塞巨人が気付いた時、すでにフィオは都市と要塞巨人の中間地点に達していた。
「さあ、殴り合いと行こうか」
要塞巨人が慌てたように両手を向ける。
しかし、バルカン砲が発射されるよりも速く、フィオは自身の胸に神槍杖を突き立てた。
そして次の瞬間、その体は黒い太陽と化した。
アリエルはフィオの魔力を受け取ってますが、契約云々はやってません。
だから仮契約状態だったわけですね。
あと、細かい設定ですがリーフは従魔であり、使い魔じゃないのです。
だからアリエルは13体目の使い魔で、14体目の下僕なんです。
次回、決戦開始の予定。




