エントvs要塞巨人
久々の更新。
「おわぁああああああああ!」
「キュイイイイイィ!」
「ぬああああああああああぁ!」
鉄砲水の様に噴出した魔力は、2人と1匹を凄まじい勢いで吹き飛ばした。
リーフの張った球状の結界に守られてはいるが、姿勢制御などとてもできない。
結界内部で滅茶苦茶にシェイクされ、上下も分からないまま吹き飛ばされていく。
そして、落下地点は大陸の端、海岸付近であった。
時は少し遡る。
侵入部隊が脱出した直後、要塞は激しい振動と共に変形し始めた。
積み木を組み替える様に不規則に変形する要塞。
ガッチリと抑え込んでいたはずのエントの拘束も、これでは意味をなさない。
「これは離れた方が良いですね……」
ラーマスは即座に決断する。
ただでさえ謎の魔力消費増大が起きているのだ。
要塞の拘束に執着する必要はすでに無い。
エント達は要塞を囲む形で距離を取った。
同時に損傷個所を修復する。
そうこうしている内に要塞の変形は完了する。
外殻はやや手の長い人型を形成し、各部からはパイプのような物が突き出している。
薄く、しかし濃密な防御フィールドでコーティングされた外殻は恐るべき強度を誇る。
さらに、要塞各所に備えられていた無数の魔導砲も移動している。
小型の砲身は5門が一つに束ねられ、さらにそれらが1本の指を形成している。
そう、要塞巨人の指は魔法式のガトリング兵器、バルカン砲となっていた。
某有名ロボットアニメの影響か、弱そうなイメージのあるバルカン砲。
しかし、本来は戦闘ヘリなどに搭載される強力な兵器であり、人間など一瞬でミンチにできる。
戦艦がミサイルや戦闘機の迎撃に使用するのもバルカン砲だ。
つまり、威力的にも命中率的にも非常に優秀な兵器なのだ。
大型の砲身は肩や大腿部など、動きを阻害しない部分に整然と並んでいる。
これによって、今までより砲撃を一点に集中させる事が可能になった。
さらに脚部にはスパイク付きのキャタピラが内蔵され、巨体に似合わぬ高速移動を可能とする。
古代文明の超兵器、対エント決戦兵器がついに本性を現した。
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「これが要塞の真の姿ですか……」
要塞の変形中に魔力補給を果たしたラーマス達。
しかし、その声に余裕はない。
人型に変形した要塞は高さだけでもエントの1.5倍はある。
重量は軽く3倍はあるだろう。
近接戦闘はもはや弱点ではなく、むしろこちらが不利なくらいだ。
「だからといって引くわけにはいきません!」
回復したと言っても全快には程遠い。
しかし、内部からの破壊に失敗した以上、直接戦闘で倒す以外に手は無いのだ。
最後の魔力を振り絞りエント達に注ぎ込む。
〈オオオオオオオォ!〉
要塞の正面に立つエントが、雄叫びを上げて右手を後ろに引く。
直後に突き出された腕は、何倍にも伸長し要塞巨人に襲い掛かる。
同時に左右に陣取っていた2体のエントも突進を開始する。
対する要塞巨人は、ギャリッという轟音と共に大地を抉りサイドステップ。
正面のエントのパンチを躱し、逆に伸長したその腕を左の脇に抱え込んだ。
エントは大地に根を張り踏ん張るが、要塞巨人はそのまま体を回転させる。
ブォン! ドゴォ! グシャア!
ブチブチと根は千切れ、ぶん回されたエントは左右から突進していたエントに叩き付けられてしまった。
1体目を弾き飛ばし、2体目に激突したところで要塞巨人は手を放す。
放り投げられたエントは、ぶつかったエントと共にゴロゴロと転がって行く。
身動きの取れない2体のエントに両肩の大型魔導砲が火を噴き、その体を打ち砕く。
起き上がった残りの一体が、鋭利な枝の槍を放って妨害するが、その装甲を貫くことができない。
しかし、要塞は煩わしそうに頭部を向けると左手を向ける。
その指が高速回転するのを見た瞬間、エントは自分の前に植物の防壁を展開した。
ガガガガガガガガガガガガッ!!
連続する発射音は繋がって一つの音のように聞こえた。
防壁は雨のように襲い掛かる光弾によって砂のように崩れ去る。
光弾の豪雨は勢いを弱めず、エントの全身に着弾する。
全身をハチの巣にされたエントは力尽き、土くれのように崩れ去った。
「ぐうぅぅ……」
「うああああ!」
エントの1体が撃破された反動は、当然のように使役者達に伝わる。
だが、契約者であるラーマスが倒れれば召喚を維持できない。
故に部隊には反動を受け入れるための要員がいた。
彼らが次々に悲痛な叫びを上げて倒れていくのを、必死に無視して召喚を維持するラーマス。
「まだです!」
大型魔導砲の直撃を受けて大ダメージを負ったエント。
しかし、爆炎の向こうに見えたのは1体。
もう一体の姿は無い。
要塞巨人の頭部が戸惑うように周囲を見渡す。
ギシギシ……
足元から聞こえる異音。
地中から突き出したエントの腕が、解けて脚部に絡みついていた。
要塞巨人は再び両手のバルカン砲を起動させ、地中のエントに撃ち込む。
凄まじい土砂が巻き上がり、地中にいるエントの上半身が粉砕されていく。
だが、そこで両肩の砲身に植物が絡みついてきた。
大型魔導砲を受けたエントが復活し、後ろから組み付いてきたのだ。
両肩の砲身がギシギシと軋みを上げる。
要塞巨人は苛立たし気に片手を後ろに向けると、バルカン砲を斉射した。
上半身を撃ち抜かれ、よろめくエント。
さらに要塞巨人の肘からジェット噴射のように魔力が放出され、加速した拳が胴体を撃ち抜いた。
ふっ飛ばされたエントを追撃するように要塞巨人の腰から再び魔力が放出され、その巨体を加速させる。
その時、腰から何かが吹っ飛んでいったのだが要塞巨人もエントも気付いていない。
要塞巨人の全身各部のパイプから魔力が放出され、その巨体が浮き上がる。
同時に両足のキャタピラが高速回転を始める。
「まずいですね……。総員リンクを切断!」
危機感に従いエントとのリンクを切るラーマス。
その直後、要塞巨人のドロップキックがエントに炸裂する。
バカげた重量と加速をもって放たれた一撃がエントに突き刺さり、貫通し、粉砕した。
「あぐっ!」
「あああ……」
とっさにリンクを切れなかった数人が、反動を受けて気絶する。
これで無事な人員は半分ほど。
それも魔力枯渇寸前である。
そして残るエントは1体だ。
それでも彼らは諦めない。
地中から再生が完了した最後のエントが姿を現す。
両腕を棍棒のように巨大化させて、要塞巨人との距離を詰める。
どう見ても無謀な突撃。
要塞巨人も呆れたように両肩と大腿部の大型魔導砲をエントに向ける。
だが
ボゴォ!!
「よし! 上手く行きましたね」
爆炎に包まれたのは要塞巨人の方だった。
実は先程からのエントの攻撃は、要塞巨人そのものを狙ったものではなかった。
エントの火力では要塞巨人を倒すことはできない。
そう判断したラーマスは、要塞巨人自身の火力を利用することを考えていたのだ。
要塞巨人を構成する金属はエントの力では破壊できない。
しかし、細長い部分を少し曲げる位なら可能だった。
エント達は両肩と大腿部の大型魔導砲の砲身を歪ませる事で、暴発を引き起こしたのだ。
「これで両手両足を破壊できれば……」
成果を期待するラーマスの言葉は途中で途切れた。
粉塵の向こうから、ほとんど無傷の要塞巨人が姿を現したのだ。
ただ、さすがに暴発した砲身はひしゃげ、ひび割れ、使い物にならなくなっていた。
ガキン、バキンという音と共に壊れた砲身がパージされる。
「こ、これは……」
無機物であるはずの要塞巨人から感じるのは怒り。
要塞巨人は、あるいは要塞巨人を操る何者かは明らかに怒り狂っている。
「え? しかし、この感じは……」
しかし、そこでラーマスは気付いた。
この感情の発生源はゴラーではない事に。
しかし、どこかで感じたことがあるような……。
ガコン!
「はっ! あ、あれは……」
要塞から発せられた音がラーマスの思考を中断させる。
慌てて要塞を注視すると胸部の外殻がスライドし、そこから何かがせり出してきた。
それは砲門だった。
ただし、要塞巨人の頭部ほどもある超大口径の。
「これが奥の手、ですか……」
さすがのラーマスも呆然としてしまう。
収束する魔力はもはや計測不能。
エントなど一撃で跡形も残らないだろう。
事実この主砲はエントの王を倒すための決戦兵器だ。
動力炉と砲身を直結させないと発射できないため、巨人形態でなければ使用できない。
わざとそういう仕様なのかは、もはや誰も分からない。
疑惑が残るのみである。
「ハッ!? あれはまさか!」
しかし、その設計上主砲発射は大きなリスクを負う。
何しろ主砲本体の後ろとは言え、心臓部を外部に曝すのだ。
そしてラーマスもそれに気付いた。
気付いた時には既にエントは走り出していた。
その身と引き換えにしてでも主砲を暴発させれば、要塞巨人に致命傷を与えられる。
だが、一歩及ばない。
ガカッ!!
落雷のような轟音と共に主砲が放たれる。
砲身に突き込まんと延ばされた手が瞬時に消し飛び、続いて全身が光に呑まれて消滅する。
最後までリンクを切らなかったラーマスは、当然のように激しい反動に襲われた。
「ガフッ!?」
目から、口から、全身から血が噴き出す。
余りの痛みに痛覚は麻痺し、ただ衝撃だけが全身を揺さぶる。
(まだです……。せめて……、誰かに……)
主砲発射の瞬間こそが逆転のチャンス。
それを伝えなければ。
必死に意識を保とうとするラーマスだったが、それは叶わなかった。
限界を超えた彼の意識は電源が切れる様に闇に呑まれた。
要塞はエントの大群、もしくはエントの王との戦闘を想定しています。
だから大型エント3体くらいじゃ相手にならないんですよね。
必殺のマ〇ロスキャノン(初代ver)もありますし。




