脱出ゲーム
〈トランスフォーム開始 トランスフォーム開始〉
〈搭乗員は迅速に脱出、もしくはセーフティエリアに退避せよ〉
〈搭乗員は迅速に脱出、もしくはセーフティエリアに退避……ブツッ〉
響き渡っていた案内音声が切られてしまった。
だが、最低限の事は聞けたぞ。
セーフティエリアね。
「ディノ! 早く脱出しなければ!」
「入口までは距離があるからな。セーフティエリアとかいうのがあれば……あ!」
「どうし……ゴラー!?」
すっかり忘れ去られていたゴラーが、壁のパネルを操作している。
そういえば、あいつはこの遺跡に詳しいんだった。
部屋を見渡すが他にそれらしき物は無い。
この部屋のセーフティエリアはあれだけか。
「はあ、はあ、死んでたまるか……。彼女を手に入れるんだ……」
ピピッ シュン
「クソッ、待て!」
急いで駆け寄るが僅かに遅く、扉は閉ざされてしまった。
しかも扉の向こうでは何かが動くような音がする。
これはエレべーターみたいなものか?
シェルターじゃなくて脱出装置だったのかよ。
「このっ!」
ならばと扉を切り裂くが、その向こうにあったのは壁だった。
部屋があった痕跡は見当たらない。
「ディノ! 壁が……」
「畜生! パズルゲームかよ!」
見れば部屋中の壁がスライドし複雑に動いていた。
セーフティルームのあった空間も、こうやって埋まってしまったのだろう。
なんにせよマズイ。
部屋自体がだんだん狭くなっている。
「このままだと押しつぶされるな……」
「入口に戻るしかないのか……」
「途中にセーフティエリアがあれば良いんだけどな。よっと」
「うわっ!?」
本調子ではないラームを担ぎ上げ、部屋を出る。
出鱈目に構造変化する通路を全速力で駆け抜け、入口を目指すことに。
壁に穴を空けても良いんだが、この遺跡は頑丈だ。
時間がかかると潰されちまうからな……。
ここは素直に走って行こう。
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要塞を拘束する3体のエント。
しかし、彼らを召喚しているラーマス達の魔力は限界に近づいていた。
回復薬や魔力譲渡などあらゆる方法で、どうにか小康状態を保っている。
いや、いた、という方が正しいだろう。
「(おかしい。いくらなんでも消耗が激しすぎます。エントが要塞に接触してから明らかに……)」
中心に立つラーマスには違和感がハッキリと感じられていた。
3体の大型エントに、森を媒介にしたとはいえ大規模な強化を行っているのだ。
膨大な魔力が必要なのは解りきっていた事だ。
だからこそ準備を入念に行い、今も召喚を維持できている。
だが、要塞に接触したとたん消費が大きくなるとは予想だにしていなかった。
初めは要塞を力づくで押さえつけているせいかと思った。
だが、これは違う。
消耗があまりにも均等すぎる。
本来なら、押さえつけているポジションによって消耗は違うはずなのだ。
だが、3体のエントは全員が同じだけ消耗が増している。
これではまるで……。
「要塞がエントの魔力を吸い取っている? バカなそんな機能は……」
ビー ビー ビー
直感的に応えにたどり着いたラーマス。
しかし、そんな事はありえないと否定する。
いや、否定しようとした。
だが、その時ラーマスの耳に警告音が聞こえてきた。
「どうした!?」
「そ、それが、要塞の魔力反応が急激に増大しています」
「何だと!」
護衛の兵士たちのやり取りが異常事態を知らせる。
いや、それが無くともラーマスには事態が急変した事が分かった。
エントとリンクし、彼らの知覚を借りる。
すると、要塞に突入した部隊が次々と脱出してくる様子が見えた。
その中にラームの姿はない。
「(彼はどこに? 一体要塞で何が?)」
ラーマスの不安をあざ笑うかのように、要塞全体が振動し始めた。
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「あ~! もう! どんなクソゲーだよ!」
「……」
何度目か分からない袋小路に、思わず苛立ちの声を上げるフィオ。
ちなみに、ラームはあまりにアクロバティックな機動に気を失っている。
壁を走り天井を蹴り、色々無茶をしているのだが、一向に出口にたどり着かない。
いくら何でも異常だった。
「これは間違いなく妨害されてるな。ロンギヌスは多用できないし……」
フィオの予想通り、ドヴェールは変形機能に干渉し2人を押しつぶそうとしていた。
例えるならば、フィオは脱出ゲームを、ドヴェールはトラップゲームをやっているようなものだった。
当然不利なのはフィオである。
既に現在地もあやふやだし、お荷物を背負っているのだから。
「リーフ、出れそうな通路は残ってないか?」
〈キュ~、キュ? キュキュ〉
「え? この裏か?」
遺跡の機能なのかドヴェールの妨害なのか、リーフの探知も上手く行かない。
しかし、リーフは壁の裏に通路の様なものがある事に気付いた。
通路というよりパイプだが、怪しいことは間違いない。
「一か八か行ってみるか」
どのみち目の前は行き止まりだ。
フィオは一瞬だけ【ロンギヌス】を起動させ、壁を切り裂いた。
そして、そこに飛び込んでいく。
さらに数十秒後、それまで彼らのいたスペースは消滅したのだった。
「これって通路じゃないよな。配管か?」
「要塞の配管か。魔力パイプか何かだろうか……」
重要な配管なのか、変形を優先したのか妨害は無くなっていた。
あるいは、さっさと追い出した方が早いと判断したのかもしれない。
ラームもようやく目を覚ましている。
「でも、こんなに太いパイプに何を流すんだ? 直径2m以上あるぞ?」
「普通なら水だがな……」
ゴゴゴゴゴゴ!!
「うおっ!」
「これは!?」
突然の振動に困惑する2人。
さらには近くから炸裂音が連続して聞こえてくる。
危険な予感がビンビンである。
「音が聞こえるという事は出口か?」
「音の原因については考えたくないがな」
ラームはポジティブな、フィオはネガティブな台詞を吐きながら出口へ向かう。
やがて前方に見えてきた光。
2人は太陽の元に飛びだ……
「うわっ!」
「高いぞ!」
せなかった。
「ここは腰の部分か」
「反対側に同じようなパイプがあるな。本当に何のためのパイプなんだ?」
変形した要塞の体高はカリスよりやや大きいようだ。
純粋に正面から殴り合えるのは、カリスか巨大化したハウルくらいだろう。
どうやら相手はエントのようだが、ここからではよく見えない。
と、その時、要塞の肘から爆炎のように魔力が吹き出した。
要塞は加速させた拳でエントを殴りつけたようだ。
凄まじい衝撃と轟音が2人を襲うが、フィオはそれどころではなかった。
「どうした? 下手に動くと振り落とされるぞ?」
「……いや、逆だ。飛び降りてでも逃げないと!」
「な! 無茶を言うな! 飛行魔法を使っても、戦闘に巻き込まれればお終いだぞ!」
そう、冷静に考えれば今飛び出すなどリスクが大きすぎる。
だが、フィオはこのパイプが何のためのモノか予想できてしまった。
これを造ったのは転生者なのだ。
では、ロボットアニメなどに登場する似たような装置とは何か?
それはブースター、スラスター、バーニア、アポジモーター、などといわれる装置。
機体の加速や姿勢制御など、役割は違えど原理は共通。
即ち
「キュ!?」
「マズイ! リーフ、全力でガードだ!」
「は? 何が……」
ラームの疑問に答える前に、パイプの奥から光が溢れ出す。
そして、膨大な魔力の奔流が2人と1匹をパイプから押し出し、吹き飛ばした。
それとは逆に要塞は、両の腰から光の尾を引きながら突進を開始していた。
中々バトルが始まらないですね。
こんなはずでは……。




