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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第3章 妖精大陸探索編
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宿りし者

 俺が駆けつけた時、すでに状況は詰みかけていた。

通常のダッシュでは間に合わないと判断し、まずは牽制。

爆裂投擲ナイフをゴラーの腕に打ち込み、風と火の魔法でロケットダッシュを決める。

ノベルなんかじゃ良くある手だが、方向転換ができないので使い道は限定されるな。


 ともあれラームの救出には成功し、ゴラーの右腕も吹っ飛ばせた。

さらには奴の切り札であろう、最初の1本と思われる『爛れた牙』も破壊してやった。

一瞬で逆王手をかけてやったワケなんだが、


「……」


「あれ?」


「う、あ……」


「おーい」


 何だか反応が無いんだけど……。

痛みにのたうつなり悪態をつくなり、何かのリアクションがあると思ってたんだが。

つーか、酷い顔だな。

ブラック企業で過労死寸前の社畜みたいだ。


「お、お前は確か……」


「どーも、ラームさん。シリルスの協力者、冒険者のディノです」


「ああ、知っている。それと私の事は呼び捨てで構わん。敬語も不要だ」


「じゃあ、ラーム。あいつどうしたんだ? もっと野望ギンギンの狂人を予想してたんだけど」


「切り替えが早いな……。私も良く解らないのだ。さっきまでは君の言うような態度だったのだが」


 さっきまでは、か。

『爛れた牙』が壊れたのが原因か? それとも腕を失ったショックか?

まあ、なんにせよ無抵抗ならちょうど良い。

取っ捕まえて要塞を停止させよう。


「あ、ああ、うう……」


「なんか哀れな状態になったな。ほれ、立て」


 一先ず傷口を止血して立たせる。

なんかシゼムみたいな状態だな。

ん? そういや、ギフトの気配を感じたんだが、こいつからは感じないな。

剣と一緒に砕けたのか?


「ディノ、こいつを見てくれ」


「うん?」


 ラームに呼ばれて振り向くと、彼はバカでかい球体の前に立っていた。

成程、これが動力炉か。

何処からこれだけの魔力を集めてきたのやら。

でもまあ、ゴラーを押さえてしまえば問題ないだろう。


「何か気になる事でも?」


「ああ。実はさっき、この中にゴラーの魔剣と同じ気配を感じたのだ」


「……気のせいじゃなく?」


「ああ、間違い無い」


 脳裏に様々な情報が浮かび、形を成していく。

幾つもの可能性を思いつくが、その大半が否定される。


生贄無しで作られた最初の一本


途切れている邪神とのパス


突然活発化したフォーモル残党の動き


さっきのギフトの気配


要塞全体に感じた違和感


狂った死兵と化したフォーモル兵


欠けているピースは……


「そうだ! あいつだ! あいつが俺から彼女を奪ったんだ!!」


「おわっ!?」


「ゴラー!?」


 いきなり絶叫したゴラーに驚いて振り返る。

すると、ゴラーの顔はさっきまでの呆けた顔じゃなくなっていた。

欲望を滾らせた狂喜に染まった顔、ラームの言っていた通りだ。

だが、そんなことは些細な事だった。


「あれはドワーフか? 見覚えは?」


「いや、無いな。しかし赤銅色の髪と目、ハイ・ドワーフとはな……」


 まるでチンピラが絡む様に、後ろからゴラーにもたれ掛かる人影。

見た目はドワーフっぽいが明らかに違う。

何故なら半透明で揺らぎ、実体を持っているように思えないからだ。

さらに、こいつから感じるのは……。


「動力炉から感じた気配ってのはこいつか?」


「ああ、間違い無い。しかし、何者だ?」


 一目で解る歪んだ性根。

あれは他人を見下し、根拠も無く自分こそが至高とか考えてる奴の眼だ。

悪徳貴族と同じ典型的な腐れ外道だ。


「シリルス! あいつさえ……」


「アイツ何言ってるんだ? 願望とか欲望を増幅されてるんだろうけどさ」


「おそらくメリアの事だろう」


「メリアってシリルスのメイドの?」


「ああ、惚れてたらしい」


 成程、そこから浸食をうけたのか。

恋愛感情を悪いとは言わないが、容易に心の隙になるからな。


「実際、そういう話はあったのだ。だが、まだメリアが幼かった事もあり保留になっていた。長命の妖精種にとっては大した歳の差じゃなかったからな。結婚自体はほぼ容認されていたらしい」


「ははあ、それまで我慢できなかったのか。それとも断られたと思ったのか。どの道、今更手遅れだな。まあ、今はそれよりも」


 狂乱するゴラーを楽しげに見つめるドワーフっぽい奴。

そいつの正体をまずは確認しておこうか。


「お前、『爛れた牙』を造った鍛冶師か?」


〈いかにも。俺こそは至高の鍛冶師、魔剣の作り手、ハイ・ドワーフのドヴェールだ〉


 うわ、安易な名前。

絶対親が付けた名前じゃないだろ。

改名したのか自称なのか知らんが、単純そうな性根が解るな。

この手のタイプは聞けばベラベラ喋ってくれるはず。


「あの有名な? だが彼は処刑されたはずだぞ」


〈ハッ! この俺が自分の命の危機に何の対策もしていないとでも思ったのか?〉


「そうか! あの剣に何か秘密があったのか!」


〈ククク、ご名答だ〉


 まあ、カラクリの予想はしてたし、こいつの名前も知らなかったけどな。

ラームには視線で黙ってるように頼んでおこう。

水を差すと機嫌悪くなりそうだし。


〈あの剣には俺の魂の一部が籠められていたのさ。魔剣は使用者の生命力を吸収し、俺の魂が籠められた剣に流し込む。そして本体が死ぬと、その生命力で俺の魂を補強して意識を覚醒させる。最後に剣が使用者を乗っ取り、俺の魂を定着させる。自動復活機能って奴だ〉


「なら、なんでこんなに時間がかかったんだ? その様子だと自由に動けるようになったのは最近みたいだが」


〈ああ、それはクソ神のせいだ。あの野郎、俺の魂と一緒に自分の欠片まで潜り込ませていやがったんだ! おかげで俺に流れ込むはずの生命力の大半を、野郎に掠め取られる羽目になっちまった〉


 邪神に悪態をつくドヴェール。

だが、傍から見ればどっちもどっちだよ。

両方他人を餌としか考えていない。

そういった意味では、こいつはもう人じゃなくてただの化け物だな。


〈ところがつい最近、クソ神とのリンクがいきなり切れたんだ。向こうから一方的に切りやがったから、向こうで何かあったのかもな。ともあれ、ようやく俺は動けるようになったわけだ〉


「それで邪神の代わりにゴラーを乗っ取り、『爛れた牙』をばら撒いて生命力を集め始めた、と」


〈そうだ。ギフトとかいう欠片ももう俺が逆に取り込んでやったのさ。やはり俺は特別な存在だ〉


 俺の脳裏に黒い蛇の威容が浮かぶ。

確かに向こうで何かあったのかもしれないな。

ヤル気に満ちてたし。


 しかし、そうか。

『爛れた牙』騒ぎの前半は邪神、後半はこいつが主導していたのか。

どっちもギルティだな。


 ……さて、大体の事は聞いたかな。

おっと、肝心なことを忘れてたな。


「それで、神をも取り込んだあんたは何が目的なんだ? こんな超兵器まで持ち出して何がしたいんだ?」


〈決まってるだろう? 滅ぼすのさ。何もかもを〉


「は?」


「何?」


 黙って話を聞いていたラームも思わず声を出す。

邪神云々は意味不明でも、ここだけは聞き逃せなかったんだろう。

俺だって同じだ。

何を言い出すんだこいつは。

いや、待てよ?


「それはゴラーの肉体を完全に乗っ取っていない事と何か関係があるのか?」


〈……あんたホントに鋭いな。さすが俺の同類だよ〉


「いや、別に同類じゃ……」


〈移れないのさ〉


「え?」


〈元々、本体が死んだらすぐに他者の肉体を使って復活する予定だった。だが、クソ神のせいで長期間を剣に宿って過ごす羽目になっちまった。おかげで俺の魂は剣などの無機物にしか定着できなくなっちまったのさ〉


 やさぐれた声で告白するドヴェール。

どうやらゴラーを乗っ取らないのではなく、乗っ取れなかっただけの様だ。

出来るのは思考を誘導したりして操るだけ。

感覚の共有などは不可能なのか。

しかし、最悪の想定外だな。


 彼は元は人だ。

当然あれこれの欲求があるだろう。

それらを抱えつつも何もできない。

まさに地獄、狂って当然だ。


〈ふざけんな!! 酒も飲めねえ、女も抱けねえ、死んだも同然じゃねえか!!〉


「だから世界を滅ぼすのか?」


〈ああ、そうだ。俺がやりたいことをやれないなら、こんな世界は要らねえ。一旦リセットすれば別の世界に行けるかもしれないしな〉


 ああ、もう駄目だなコイツ。

元々かもしれないが完全にぶっ壊れてる。


〈この要塞は俺が完全に掌握した。無機物だからな。もうこれは俺の体そのものだ。そして……〉


     ビー ビー ビー


 〈コーション! コーション! コーション!〉


「!」


「何だ?」


 突然鳴り響く警報、赤一色に染まる照明。

それに気を取られた一瞬に、動力炉が台座ごと床に沈むように消えていく。

慌てて近寄るが、既に隔壁が蓋のように現れ動力炉は見えなくなってしまった。


〈ククク、まずはこの大陸を焼き尽くしてやる。トランスフォーム、シークエンススタート〉


 ドヴェールが床をすり抜けるように沈んで消える。

直後、要塞全体が凄まじい振動を発し始めた。



というわけで、ボスは邪神ではなく鍛冶師でした。


一応フラグは立てていたんですが、予想外だったかもしれないですね。


邪神は現在負傷中ですし、前話後半では邪神でもゴラーでもなく『彼』としていたんですが。


よほど深読みしないと解らないですよね……。

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