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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第3章 妖精大陸探索編
121/216

要塞侵入

「うおっ、たったった……」


 フル火力で打ち合う要塞とエント。

流石のフィオもその場をいったん離脱することにする。

スケールがデカすぎて、近くだと状況が良く解らないのだ。


「おおう、ファンタジーの光景じゃねえな」


 要塞と怪獣の戦いなんてジャンルで言えばSFだろう。

その戦いはまさに一進一退だ。

正面からの火力と防御力は要塞が上。

攻撃を受けてもビクともしないし、魔力砲による砲撃はエントの身体を削り取っている。


 しかし、エントも負けてはいない。

確かに損傷はあるが、あの巨体からすればそれは掠り傷の様なモノ。

その損傷も即座に修復されてしまう。

驚異的なタフネスぶりだ。


 それにエントの数は3体だ。

彼らは3方から要塞を取り囲み、ジワジワと距離を詰めていく。

要塞も側面や後方はそれ程火力が無いみたいだな。


〈キュキュ!〉


「ん? あれは……」


 統一された装備の一団が戦場に近づいてくる。

そして俺と同じくらいの距離を取った場所で止まった。

練度も相当なものだ。

あれは都市防衛軍のトップエース部隊のようだな。

なにせ


「おいおい、大将クラスが最前線に来るなよ……」


 部隊の先頭にはイルダナの当主であるラームがいるのだ。

あの人、自分の立場ってものを理解していないんだろうか?

それとも分かっていても尚、自分が出撃せずにはいられなかったのか。

ゴラーとの因縁を考えれば後者だろうな。


 しかし、この怪獣決戦に彼らが手を出せるとは思えないぞ。

確かにエントが火力に欠けるのは事実だが、それは彼らも変わらない。

そもそも、あの要塞が頑丈すぎるのだ。

エネルギー切れでも待って制圧するつもりなんだろうか?


-------------------


「閣下、ここが近づける限界の距離です」


「解った。総員待機だ」


 部隊を指揮するラームは湧き上がる焦燥を必死に抑え込んでいた。

現在の所、要塞とエントの戦いは互角だ。

だが、持久戦には持ち込むことができない理由がある。

それは極極単純な理由だった。


「ラーマス殿、貴方を信じます」


 エントは一種の召喚獣だ。

当然、維持するためには術者の魔力供給が必須となる。

今、ラーマス達召喚部隊は、命を削るような魔力消費を持ってエントを召喚し続けているのだ。

後、どれだけ持つのか分からない。


 一見するとエントは不死身のように見える。

しかし、エントの受けた損傷はそのままラーマス達の負担となるのだ。

おまけに要塞の火力はこちらの想定以上であった。

予定よりも作戦実行が難しい。


「むっ!?」


「おお!!」


「行けるか!?」


 後方に回ったエントの1体が地面に両腕を突き刺す。

その直後、要塞の真下から無数のツタが飛び出し要塞に絡みついた。

ツタはブチブチと引き千切られるが、それを上回る速度で増殖していく。

綱引き勝負となり、エントは足を大地に深く差し込み必死で耐える。


 埒が明かないとばかりに要塞は方向転換し、拘束しているエントに砲撃を集中しようとする。

しかし、更にもう一体のエントが距離を詰め、直接要塞に手を伸ばした。

止めに砲撃の損傷を修復した最後のエントも要塞に組み付いた。

そう、エントは空中の要塞を地上に引きずり下ろしにかかったのだ。


 3体のエントは大地に根を這わせ、踏ん張る。

さすがの要塞もこれには耐えきれず、地面に着陸してしまった。

エントはさらに要塞全体にツタを巻き付かせ、完全に拘束してしまう。

ここまで密着されると、もう魔力砲は使えない。

要塞は中遠距離戦は無敵だが、密着状態では攻撃手段を持たなかったのだ。

 

 しばらくすると要塞の各部に穴が開き、そこから人影が現れた。

彼らは巻き付くツタを攻撃し、拘束を解こうとしている。

明らかに焼け石に水の光景だ。

だが、他に有効な手が無いのだろう。

フォーモル兵は必死に攻撃を繰り返す。


 エントは要塞の拘束に全力を傾けているので、フォーモル兵に手を出す余裕が無い。

フォーモル兵もそれを理解しているのだろう、ツタを焼き払う事に専念している。

そう、常識的に考えればこの戦場に近寄る者などいないはずなのだ。


「シリルス殿の言ったとおりになったか……」


「外側からの要塞の攻略は困難。ならば内側から崩せば良い。言葉にするのは簡単ですがね」


 ラームの部隊には遺跡のロックを解除する魔道具が提供されている。

これはアリエルから提供されたデータを基にシリルスが作成した物だった。

後は扉の場所だが、それはたった今判明した。

フォーモル兵の出てきたところが扉になっているはずだ。

外見からは解らない高度な偽装も、敵が教えてくれたのでは意味がない。


「よし、全軍突入だ!」


「「「「了解!」」」」


 ラーム自らが率いる都市軍の精鋭が、矢のように要塞に向かって駆けて行く。


-------------------------


「ははあ……。やるなぁ」


 エントが要塞を拘束する光景はフィオからも見えた。

さらにラーム達が要塞に突撃していく姿を見て、素直に感心してしまう。

彼らも正面から要塞とやり合うつもりは無かったのだ。

どれだけ強力だろうと要塞は道具でしかない。

それを操る者を倒してしまえば、ただの物となる。


「さて、俺はどうするかな……」


 手を出し過ぎないでくれと言われているし、戦況も悪くない。

ラーム達はフォーモル兵を次々と打ち倒し、要塞に侵入していく。

要塞も今のところエントの拘束を振りほどけない。

フォーモルの手練れは都市に向かったはずだし、ラームがゴラーに劣るとも思えない。


 ふと、上空を見上げる。

アリエルとアンヘルの戦いはアリエル有利に傾いていた。

アンヘルの連携に穴ができ始めたのだ。

持久力の差だろう。


「不意打ちで何機か落としちまうか……」


 【ブリューナク】のホーミング性能ならここからでも狙えるだろう。

たとえ落とせなくても連携を崩すことはできるはず。

指揮官タイプらしきアンヘルを狙って槍を構え、投擲しようとした時


「む!?」


〈キュ!?〉


 開いた要塞の扉。

その奥から感じた気配。

それは紛れもなくギフトの邪気。


「これは『爛れた牙』か? まだこんな力が残っていたのかよ……」


 フィオの認識からすれば『爛れた牙』はギフトの残骸でしかない。

しかし、その認識は侮りすぎであった。

鍛冶師を取り込んだギフトはその作品に宿った。

鍛冶師の死後、半休眠状態だったギフトだがゴラーの手の中で徐々に覚醒していく。


 そして子機が集めた力を親機として取り込んだ『最初の一振り』は、ゴラーの意志さえも飲み込んだ。

ゴラーを使って自らに相応しい、新しい依代を用意させた。

それがこの要塞『ギガント・ルーク』。


 ゴラーが注ぎ込んだ魔力と共に、ギフトは要塞のコアに憑りついた。

そして現在進行形で要塞全体を侵食し始めていた。

しかし、活性化したことで遂にフィオはギフトの存在を知覚したのだ。


「少し認識が甘かったか……。ともあれギフト絡みと分かれば、もう傍観はできないな」


 フィオの中で意識が切り替わる。

躊躇いや配慮が薄くなり、優先順位が変化する。

隠蔽が解け、全身から立ち上る魔力が陽炎の様に空間を歪ませる。


 そして悪魔は矢のように駆け出す。

目標はゴラーがいるであろう制御室ではなく、要塞のコア。

突然の乱入者に驚愕する兵達は完全無視。

真っ直ぐにギフトの気配を辿り、フィオは要塞内に突入した。




久々に更新です。


第3章もそろそろラストが近づいてきました。

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