要塞進撃
たまにはRWOも更新しようかな、とか考える今日この頃。
サイドストーリー2の候補は2つあります。
1つはフェイ視点、βテストが舞台でフィオの生産系黒歴史の物語。
この場合、割り込み投稿になります。
もう1つはリーフ視点で番外編後の物語。
ギルド『大航海時代』の方々に付き合い、フィオ達はインスタントダンジョンの幽霊船に挑みます。
さて、どっちにしようかな……。
まあ、RCWがきりの良い所まで進んでからですが。
アンヘルの指揮を失った魔法生物は組織立った動きが出来なくなった。
だが、その数は都市軍の数を上回ったままだ。
被害は大きく、負傷者が次々と撤退していく。
「飽きるな、こりゃ。かと言って魔法使うとやり過ぎるし……」
最前線で槍を振るい獅子奮迅の戦いを繰り広げる男。
冒険者ディノこと悪魔フィオである。
都市防衛任務を受けながら、やり過ぎないように頼まれているという微妙な立場。
本人としても良く解らない状況ではあるが、取り敢えず今の所上手く行っている。
少なくとも本人はそう思っている。
〈マスタ~〉
「フェイか、どうした?」
〈侵入者は全滅しました~。被害は無しです~〉
「そうか。こっちは大して変わらんな。それに……」
周辺の敵を倒し尽くしてしまったフィオは空を見上げる。
そこでは翼を持つ者達の戦いが繰り広げられていた。
アリエルの戦闘力はプロトタイプ10体に相当する。
しかし、プロトタイプの数は15体。
状況は膠着状態だ。
「援護に行くべきかね……」
実の所、アリエルは勝つ必要はない。
魔法生物の指揮ができないように、地上に攻撃できないように足止めできれば良いのだ。
膠着状態という事はプロトタイプも15体でようやく互角ということ。
フィオ自身は、このまま地上で不測の事態に備えた方が良い気もする。
「さて、どうす……む?」
考え込むフィオだが状況が動いた。
都市軍と壮絶な消耗戦を繰り広げていた魔法生物の動きが変わったのだ。
潮が引くように一斉に退いて行く。
「何だ? 撤退か?」
〈キュ? キュキュウ!〉
「どうした? リーフ」
ゴゴゴゴゴ……
バキバキバキ……
聞こえてくる巨大な駆動音と木々が薙ぎ倒される音。
波に浮かぶ船のように、木々の上に浮かぶ巨大な影。
夜の森のすぐ上を進撃するのは
「おいおい、夜明けはまだだぞ?」
紛れも無く機動要塞『ギガント・ルーク』だった。
その光景は都市からも見る事が出来た。
当初の予想では要塞が動き出すのはまだ先の事であり、都市に到達するにも時間がかかるはずだった。
だが、現実には要塞は動き出し、もう視認できる距離にまで近づいている。
「まんまと騙されてしまったか……」
「ええ、今更悔やんでも仕方がないですが……」
ラームとラーマスも気付いた。
要塞はインターバルなど無くても動かせるのだ。
何度も止まりながら進んでいたのは全てブラフ。
それだけではない。
要塞の飛行速度も、今まであえて抑えていたのだ。
ゴラーは安全地帯で体勢を整えていたのではない。
一息に都市に攻め込める距離でこちらの隙を伺っていたのだ。
そして、魔法生物との戦いで都市軍が消耗した今、一気に切り札を投入してきた。
しかし、切り札を温存していたのは向こうだけではない。
「ラーマス殿」
「準備は出来ています。すぐに出撃しましょう」
犠牲が出ても頑なに温存してきたラーマスの直営部隊。
遂に彼らが投入される時が来た。
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一方、上空でアンヘルと戦うアリエルも要塞が動き出したことに気付いていた。
とはいえ、彼女の役目は変わらない。
プロトタイプ達を地上の戦闘に参加させない事、可能なら討ち取る事。
それだけだ。
「数は力。さすがに手強いですね」
単体での性能では自分が遥かに勝っている。
だが、15体は群体として連携し、アリエルに食い下がっている。
事前の予測では10体までなら問題なく倒せるはずだった。
しかし、15体となるとこちらも迂闊には動けない。
指揮タイプを落とせれば一気に勝負は着くのだが、防御タイプが厳重に守っているので難しい。
それどころか攻撃タイプが見事な連携で攻撃を繰り返し、こちらに攻撃を行わせないようにしている。
相手の攻撃を潰し味方を守る、攻性防御戦術といったところだ。
アリエルも積極的に攻撃する事を放棄し、防御重視の動きに切り替えている。
何故なら自分の任務は足止めであり、殲滅ではないのだから。
無理をして任務を失敗するリスクは冒せない。
そしてもう一つ。
パシュ!
パァン
「エネルギーを無駄に使いすぎですよ」
アリエルが牽制に放った攻撃。
全方位にランダムに撒き散らされる光弾。
機動力に劣るタイプは一か所に集まり、防御タイプがそれを守る。
牽制攻撃に対して過剰なほどの出力で。
これがアリエルとプロトタイプ達の差。
情報粒子体の性能の差であった。
解析タイプならば同等の速度での演算が可能だろう。
しかし、情報収集、情報解析、行動決定、情報発信を全て別個体で行っていればタイムラグはゼロではない。
アリエルは速度重視の攻撃を繰り返し、このタイムラグを狙っていた。
そうすると相手は今のように指示が遅れ、自己判断で動かなければならず、無駄な動きに繋がる。
先程からその繰り返しで、プロトタイプ達を少しずつ消耗させている。
アリエルの狙いは長期戦だった。
「情報粒子体85%まで復旧。それに対して向こうのトータルエネルギー残量は70%を切りましたか」
フィオから膨大な魔力を搾り取ったアリエルは、エネルギー切れとは程遠い。
出力はともかく、保有エネルギー量に関しては15機全てを合わせてもアリエルの方が3倍は上だろう。
現にアリエルは戦闘中も情報粒子体の複製に努めてパワーアップを図っている。
逆にプロトタイプ達はあまりエネルギーに余裕が無い。
もちろん、本来なら起動させただけでも凄い事なのだ。
さらに、それを15体。
要塞もそうだが、どこからそんなエネルギーを持ってきたのやら。
「マスターの予想では、碌でもない手段を使ったという事でしたが……」
まあ、それはアリエルにとってはどうでも良い。
重要なのは、向こうのエネルギーが決して潤沢ではないということだ。
50%を切れば今の戦術を続行できなくなるだろう。
向こうの指揮タイプだって、このままではジリ貧だという事に気付いているはずだ。
それでも戦術に変化が無いのは、現状を維持しないとアリエルを抑えきれないからだ。
そう、膠着状態という事はそういうこと。
向こうにとっても、15体でようやくアリエルを抑え込んでいるという状況なのだ。
他に手が無いか必死に演算を繰り返しているだろう。
しかし、良い手など浮かぶはずがない。
同等以上の性能を持つアリエルも、演算を続けて対応しているのだから。
「情報粒子体90%。敵、トータルエネルギー残量60%」
16の影と無数の光が入り乱れるド派手な戦場。
しかし、勝敗の天秤は静かに傾いて行く。
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予想とは違う高速で飛行する要塞。
フィオは並走しながら観察を続けていた。
要塞はあらゆる場所から砲塔が突き出している。
威力は解らないが、超至近距離から連射されれば都市の防壁も耐えきれないだろう。
逆に言えば遠距離砲撃では威力が足りないかもしれない。
だからこそ情報戦を仕掛け、今一気に距離を詰めているのだろう。
今からでは都市側の対応も間に合わない。
そもそも対応できるだけの戦力が残っていないだろう。
「これって、ヤバいんじゃね?」
〈キュ?〉
全力干渉しようか迷った時、リーフが何かに気付いた。
要塞と都市の中間地点に膨大な魔力が集まっていく。
この魔力はラーマスを隊長としている、複合属性『木』の属性持ち部隊か?
そういえば彼らを温存してたんだったか。
魔力は3ヵ所に収束し、弾ける。
次の瞬間、要塞の進行を阻むように3本の巨木がそびえ立った。
それはただの木ではなかった。
根は2本の足のように大地を踏みしめ、枝がより合わさったような腕がある。
それは木の巨人だった。
「おいおい、あれってエントか? エントと契約を結んでたのかよ」
これこそが最強のハイエルフ、ラーマスの切り札。
かつてAランクの妖獣を打倒した伝説。
だが、3体のエントにさらなる変化が起こる。
森が、木々が、吸い寄せられるようにエントに集まっていく。
この大陸の大半を覆う樹海。
それはかつてのエント族の襲撃によって生まれたもの。
つまり樹海の木々はエント族の端末といえるのだ。
3体のエントは吸い寄せた木々を吸収し、さらに巨大に頑強に変化していく。
浮遊する要塞に手が届くほどにまで巨大化した3体のエント。
対抗するように要塞の砲塔が動き出す。
「ヤバッ! 離れよっ」
フィオは慌てて要塞の傍から離脱した。
その直後、要塞の火器が一斉に火を噴いた。
エントの頭部からも、弾丸のような種子や刃のような葉が撃ち出される。
木々が消え去り更地と化した地は、未曽有のヘビー級バトルのリングと化した。
ようやく明らかになったラーマスの切り札。
森の中でしか使えないし、自分だけでは1体召喚が限界です。
それでも十分ですけど。
アリエルの方は持久戦の構え。
機械のように冷静に確実に効率良く戦います。
プロトタイプもジリ貧だという事は解っています。
でも良い手が無いんです。




