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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第3章 妖精大陸探索編
112/216

当て外れ

 夜の森の中を進む集団があった。

種族はバラバラだ。

妖精種もいれば獣人もおり、ヒューマンもいる。


 そこそこの実力はありそうだが、統率が取れているとは言いにくい。

臨時パーティを組んだ冒険者、もしくは寄り合い所帯の傭兵と言ったところだろうか。

ただし人数だけは多い。

50人近くはいるだろうか。


「なあ、ホントに大丈夫なのかよ……」


「まあ、怪しいのは確かだな」


「でも報酬がなぁ」


 見た目通り、彼らは冒険者や傭兵だった。

それも長く中堅クラスに登る事が出来ず、燻っている者達ばかり。

こういった者達の中には、安全よりもハイリスクハイリターンを好む者が多い。

実力だけでは無理、ならばそれ以外で補うしかない。


 秘伝の知識、強力なアイテム、方法は色々だ。

だが、先立つ物が無ければ始まらない。

多少うさん臭くても報酬さえよければ彼らは乗る。

だからこそ、使い捨ての捨て駒にされる事も多い。


「あの積み荷、何なんだろうな」


「もう少し近付けば解るだろ」


 彼らの目的地は大都市『ロスト・イリジアム』。

失われた楽園の名を持つ古代遺跡を利用した都市だ。

そこに積み荷を持ち込むのが今回の依頼。

だが、正直言って不可解な点が多すぎた。


 何しろ、『荷を1人が1つ持って都市に入り込み、できるだけバラバラにばら撒いて来い』、そんな訳の解らない依頼なのだ。

ばら撒く方法もこちら任せ。

店に売っても良いし、譲っても良い。

何なら適当なところに放置しても良いという。

何がしたいのかさっぱり解らない。


 彼らにとって不幸だったのは、彼らの持つ情報の不足だろう。

ある程度の冒険者や傭兵なら、悪名高い呪われた武器の噂くらい聞いた事があっただろう。

かつてのロスト・イリジアムの内乱や、それを発端とした現在の厳戒態勢も知る事が出来ただろう。

だが、その日を生きるのに精一杯だった彼らは、そういった大局的な情報の価値を忘れていた。


 自分達が囮、あるいは生贄にされている事に気付けなかった。

勘の良い者も確証が無い以上、いくら怪しいと思っても強硬に主張は出来ない。

それ程に報酬が破格だったのだ。

例え依頼主がそれを払うつもりが無いとしても、それは彼らには解らないのだから。


 同じような集団が何組も、数日かけて依頼をこなしていた。

なんでも今が最大のチャンスなのだという。

彼らにその意味は解らなかった。

エリフィムの天才魔術師、最強の暗殺メイド、そして裁きの悪魔。

彼らが都市を離れている事など、自身には関係ない事なのだから。


---------------------------


「失礼します」


「うむ、入れ」


 カチャリとノブが回り、会議室の扉が開く。

入室してきたのは緑色の髪と目の少年、そしてメイド服に身を包んだダークエルフの女性。

シリルスとメリアであった。


「お待たせして申し訳ありません。メリア、お配りして」


「はい」


 遺跡の調査結果やゴラーの今後の動きの予測。

判明している限りを記した資料を配っていく。

と、そこで気付く。

父を含むハイエルフの幹部は揃っている。

しかし、メリアの兄を含むダークエルフの幹部が半数ほどしかいないのだ。


「ああ、ラーム殿達は任務中なんだよ。ちゃんと渡しておくさ」


「解りました。では失礼します」


「シリルス……、頼むから危険な事はしないでくれよ」


 懇願するような父の声。

周囲の都市幹部達も同意の表情だ。

自分の代わりはいない、そう言われるのはいつもの事だ。

誰の代わりもいない、などと反論するほど愚かではない。

この都市にとっての優先順位というものがあるのだ。


「解っております」


「そうか……」


 父の心配そうな表情は変わらない。

僕の気性をよく知るがゆえに。

僕とメリアは、そのまま会議室を辞した。


「お兄様まで出動中ですか……」


「ラームさんなら1人でも対抗できるからね。兵士を消耗するのは得策じゃない」


「そう、ですね……」


 今、ロスト・イリジアムはテロの危機にさらされている。

僕らが出ている間に多数の『爛れた牙』が持ち込まれたのだ。

タイミング的に僕らの不在を狙っていたとみて間違いない。


 実際に浸食され暴れる者が発生しており、警備の兵士はフル稼働状態なのだ。

回収された『爛れた牙』はフィオさんに纏めて浄化してもらっている。

本来ならメリアも鎮圧に参加するべきなんだろうが、それは禁じられている。

これは明らかな陽動作戦だ。

刺客が侵入する可能性がある以上、メリアは護衛に残らなければならない。


「しっかし、どうして利用されるかねぇ? 明らかに怪しいだろうに」


「知ろうとしなければ解らず、見ようとしなければ見えない。そういう事でしょう」


「死ねばそこで終わりなのにな……」


 運び屋は伸び悩んでいる冒険者や傭兵だった。

中級の壁を越えられず、燻っている者はいくらでもいる。

ゴラーはそんな連中を片っ端から運び屋として使っているのだ。


 ある者は捕まり、ある者は抵抗して殺された。

また、ある者は自身が『爛れた牙』に浸食された。

無事に済んだのは数%だろう。

ついでに言えば、僕がゴラーの立場なら連中を放ってはおかない。

金を払うどころか、口封じに殺すか『爛れた牙』を持たせるだろう。


「その辺の勘や嗅覚も、強さの内なのでしょうね……」


「厳しい世界だよ、全く」


 とは言え、僕らが帰還してからは新たな持ち込みはゼロだ。

ラームさん達が対応しているのは、それ以前に持ち込まれた物だけ。

それも直に排除し終わるだろう。

何しろ、この都市には恐るべき番犬がいるのだから。


-------------------------


「よし、そろそろ行こう」


「1人が1つ、この武器を持って行くんだな」


「どれどれ。へえ、良い武器じゃないか」


「おい、抜くなよ? 報酬がパアだぞ」


「解ってるって……ん?」


 呑気に話し合っていた2人は異常に気付く。

自分たち以外、誰も声を立てていないのだ。

50人もの人間が声1つ立てない。

そんな状況にようやく気付いた2人。


 周囲を見渡すと全員が呆けたような表情で、同じ方向を見ている。

恐る恐るそちらを見ると、そこには予想外のモノが存在していた。

ある意味では夜の森にふさわしい存在。

背中に翅を生やした美しい女性が、妖艶な笑みを浮かべていた。


 その全身は淡い光を放っており、宙に浮いている。

イタズラっぽい光を宿した両目から目が離せない。

吸い込まれるような感覚に気が遠くなっていく。

そして2人は周囲の者達と同じく、妖精の虜となった。



〈終わりましたよ~〉


「ご苦労さん」


 気の抜けたような軽い声で妖精が呼びかけると、黒い影がそれに答えた。

当然、フェイとフィオである。

フィオは『爛れた牙』を探知でき、その情報は使い魔達に共有されるのだ。

帰還してからフィオ達は、1度も持ち込みを許していない。

いい加減ゴラー側も在庫切れであった。


「う~ん、駄目だな」


〈同じですか~〉


「ああ、リンクは切れてる」


 回収した『爛れた牙』は当然調査された。

しかし、結果は芳しくなかった。

ゴラーの持つ最初の1本へのリンクが繋がっていれば敵の位置を特定できただろう。

しかし、回収された物は全てリンクが切られていたのだ。


 もっとも、これは予想されたことであった。

ゴードンに食い込んでいた『爛れた牙』もリンクは切れ、魔力と邪気は自己を循環している状況だったのだ。

フィオの存在を警戒してなのか、それとも他に理由があったのか。

そこまではフィオには解らなかった。


 フィオは知る由も無かったが、これは邪神側のトラブルが原因だった。

黒き神に負傷させられた邪神は、傷を癒し探知から逃れるため休眠状態に入っていたのだ。

『爛れた牙』が魔力を送信しようにも受信できない。

そんな状況が続き、遂にリンクが切れてしまったのだ。


 これにより『爛れた牙』を通じてゴラーを見つけたり邪神に干渉する事は出来なくなった。

しかし、逆に言えば邪神からの干渉も不可能となったのだ。

これが吉と出るか凶と出るか。

それは、まだ解らない。


 それから間もなく、持ち込みを謀った者達は全て捕えられた。

回収された『爛れた牙』は浄化の後、破壊された。

都市内の混乱も次第に収まっていった。


 こうしてフォーモル側の第一手は辛うじて阻止された。

しかし、これはまだ前哨戦に過ぎなかった。




爛れた牙は既に邪神とのリンクが切れていました。


では、邪神に送られるはずの力はどこに?


まあ、バレバレでしょうけど……。

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