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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第3章 妖精大陸探索編
110/216

これなら、まあ・・・・・・

予想以上の食い付きだった……。

やはり華は必要なのか。

だが、しかし……。

 俺は今、かつてない危機を迎えていた。

当事者と傍観者は逆転し、シリルスが安全圏への脱出に成功してしまった。

正直甘かった。

まさか、スイッチを入れた方ではなく充電した方に来るとは……。

いや、それはともかく


「何ゆえ幼女!? いや、その前に何故全裸!?」


「何か問題でも? 周囲に敵性反応は確認できませんが」


「あるわ! 倫理的に!」


 サイズ調整機能付きの服を取り出し投げつける。

倫理観などかなぐり捨てたと思っていたが、俺の元人間という出自は強固だったらしい。

変態野郎の汚名は断固として拒否したい。

そしてシリルス、隠してるつもりだろうが笑いを堪えてるのが分かるぞ。

覚えとけよ。


「構造粒子体が不足しているのです。このサイズが限界です」


「魔力さえあれば複製できるんだろう?」


「情報粒子体の方を優先して複製していますので」


 ぬう、無理を言える状況じゃないか。

まあ、しばらくすれば終わるだろう。

……ん? しばらくってどれくらいだろう?

嫌な予感が……。


「情報粒子体の複製ってどれくらいで終わる?」


「100%のスペックを発揮できるレベルには1ヶ月ほどです」


「それまではその恰好なのか?」


「はい。構造粒子体の不足が深刻なのは事実ですが、優先順位がありますので」


 思ったより長い……。

しかし、敵にアンヘルがいる以上こいつは重要な戦力だ。

性能低下状態はマズイし、どうするか。

いや、まてよ?


「シリルス、他のカプセルは開けられるか?」


「可能ですけど他のアンヘルは……、ああ、なるほど」


「おい、え~っとアリエル」


「はい」


 オール.ラウンド.ELでアリエルか。

たしか、ELってのは『神』を表してるんだったか。

ミカエルとかガブリエルとかも『神の~』って意味らしいし、単純だが上手い名前なのかもな。

それはともかく


「実はお前以外のアンヘルは全滅していたんだ」


「そうですか」


「……ドライだな」


「完成品は私だけですし。彼らは私を作るための試作品であり、パーツのようなものですので」


 なんだ、他のカプセルはテストタイプが入っていたのか。

完成品の量産化は考えてなかったみたいだな。

しかし、こいつのドライな思考に共感できる自分にビックリだ。

俺も人外が板についてきたな。


「だが、情報粒子体が失われただけみたいなんだ」


「なるほど。残った構造粒子体を私が使えばよいと」


「そういう事だ。可能か?」


「当然です」


 ヒュッ  パリン


「うわっ!?」


「シリルス様!?」


 アリエルはシリルスが開けようとしているカプセルの方を向く。

そしていきなり背中の翼を変形させた。

右の翼がドロリと形を崩し、細いワイヤーの様になってカプセルに突き刺さったのだ。

当然、カプセルの傍にいたシリルスはビックリだ。

起動させてくれた相手なのに配慮はゼロかい。


「あ、危な……、おお!」


「ほう……」


 シリルスの抗議の声は途中で途切れる。

カプセル内の濁りが食い込んだ翼に吸い寄せられ、溶液がドンドン澄んでいくのだ。

そしてアリエルの未成熟な身体が僅かに成長する。

回収した構造粒子体を全身に行き渡らせたのだろう。


「次ですね」


「ああ(ふう、一安心か)」


 次々とカプセルから構造粒子体を回収していくアリエル。

見た目もどんどん成長していき、小学生くらいになっている。

何だか早回しの成長記録を見ているみたいだ。

昔、理科の授業で見たビデオみたいだな。


 やがて身体の成長は止まった。

年齢的には10代半ばの中学生くらいだろうか。

犯罪かどうかは微妙な所だ。

……なんで異世界でこんなこと気にしてるんだろう。


「もっと大人の方がいいんじゃないか?」


「いえ、手足は伸び切りましたからスペックは十分です。生物学的な筋力などは私には関係ありませんし」


「そんなもんか……」


「はい。その分の構造粒子体はこちらに回した方が有益です」


 新たなカプセルから構造粒子体を回収するアリエル。

すると、その背に一枚翼が増えた。

そう言えば、手じゃなくて翼を変形させてるんだよな。

そういう仕様なんだろうか。


「ボディは内部で構造粒子体が魔法陣を形成しています。故に安易に変形させると戦闘に支障をきたすのです。よって、変形は基本的に翼のみで行います」


「成程、枚数が多い程有利ってわけか。ん? でも閲覧したデータには2枚翼のアンヘルしか載っていなかったぞ?」


「複数の翼を同時にコントロールできるのは、私か指揮能力に特化したタイプだけです。ですが、タイプ指揮官コマンダーの直接戦闘能力は全アンヘル中最低ランクです。私の敵ではありません」


「お前以外は複数枚にする意味が無いって事か」


「ダメージを受けた際に、補修に回す予備タンクにはなるでしょう。ですが、それならもう一体アンヘルを用意した方が有効です」


 当時ならそうなんだろうけどな。

今は新たなアンヘルが作れないから事情が違う。

まあ、アリエル以外に使いこなせないというなら気にする事は無いか。


-------------------


「ちょっと、いいですか?」


「ん? どうした?」


 施設を調べていたシリルスが声をかけてきた。

何か解ったんだろうか。

取り敢えずメインと思われる端末に向かう。


「まず、この部屋は他の設備とは独立した動力源が用意されています」


「ああ、それでここだけ死んでたわけか」


「普通は予備電源とか用意するんですよ。でも、この部屋の消費エネルギーが大きすぎるんです。施設のメイン動力を食い尽くしてもまだ足りないくらいに」


「そんなエネルギー何処から引っ張ってきたんだよ」


「これを見て下さい。この部屋の動力炉の図です。でもこの構造は……」


「んん? これってデカいバッテリーじゃないか」


 こいつは外部から供給されたエネルギーをチャージしておくだけだ。

これ自体にエネルギーを生み出す力は無い。

じゃあ、どこからエネルギーを引っ張ってきたんだ?

なんか嫌な予感がするな。


「見て下さい。このパイプがバッテリーにエネルギーを供給していたんです」


「だいぶ向こうで切れてるな。これがエネルギー切れの原因か」


「ええ、これを繋ぎ直せばこの施設は復活します。まさかエネルギーが切れるたびに、貴方の魔力を貰う訳にはいきませんし……」


「そりゃそうだ。で、直せるのか?」


「ええ、技術的には。でも不可能でしょう」


「不可能?」


「……やるわけにはいかないというか、なんというか。本当に天才と馬鹿は紙一重なんですね。アールヴ文明が、何故あっさり滅んだのか原因が分かった気がしますよ」


 何やら呆れたように語り始めるシリルス。

技術的には可能だが不可能? 火山か何かからエネルギー引っ張って来てたのか?

いや、でも地熱発電とかあるしな。

さっぱり解らん。


「おい、結局何がエネルギー源だったんだ?」


「……です」


「ん?」


「世界樹ですよ」


「はあ?」


「アールヴの研究者は世界の浄化装置である世界樹の根に、パイプを突き刺して魔力を横取りしてたんです。ええ、それならあの大容量のバッテリーを常時満タンにできますよ。トチ狂ってるとしか思えませんけど!」


 ハアハアと荒い息をつくシリルス。

それはそうだろう。

世界樹にもしもの事があれば世界の危機だ。

そんな重要なものを、電源代わりに使う奴がいるなんて想像できないだろう。


 決定だな。

ギフト云々は不明だが、アールヴの神種は間違いなく転生者だ。

世界が滅ぶわけがないという、根拠のない確信は彼らの専売特許だ。

挫折やショックを経験したシリルスとは違う。

本当にこの世界を遊び場程度にしか考えていなかったんだろう。


「パイプは誰が切ったんだ?」


木人エントです」


「やはりか……」


「ええ、古文書にも残っていない情報ですよ。研究者の死後、この事に気付いたエントは怒り狂いました。そしてアールヴに襲い掛かったんです」


「まあ、そうだろうな」


 個人の暴走です、なんて向こうには関係ない。

重要なのはやったかやらないかだ。

やった以上は有罪だ。

聖域と世界樹の守護者は敵に容赦はしない。


「研究者が死んだことで文明の維持が困難になっていたところにエントの襲撃です。アールヴ文明はあっさり滅び、樹海に沈んでいったそうです」


「この大陸の半分以上が森なのはその影響か……」


 エント族は死ぬと周囲に大量の植物を発生させるという。

自身が死んでも仲間のために地の利を残す。

アリやハチのような群体的な思考。

人間の軍隊なんかよりもよほど恐ろしいな。

禁忌に触れたものの運命はいつも悲惨だ。


と、いうわけで全裸幼女は退場です。

収拾付かなくなりそうで怖いんですよ……。


それはともかく、やっぱりやらかしてたアールヴの神種。

そして次回、アリエル以外のもう一つの秘密兵器の存在が……。

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