表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第3章 妖精大陸探索編
109/216

アンヘル

 さて、ここにいても手伝える事は無さそうだ。

データにもざっと目を通したし、暴走研究者の所に行くとしよう。

珍しい発見する度にアレじゃ、親も心配するわな。

気にしない祖父は大物だよ。

護衛兼メイドも慌てた様子無く付いて行ったし、何時もの事なんだろうな。


 先程見たデータファイルから、この遺跡にあると思われる遺産『アンヘル』についての概要が解った。

まず、外見は天使そのもののようだ。

と、言っても羽の生えた人型でしかないのでフリューゲルと被るように思える。

ただし、人型部分の外見はアールヴをモデルにしているらしい。

画像はディフォルメされていたので、この辺は実際に見てみないと解らない。


 次に構造だ。

アンヘルは従来の『個体』ではなく『群体』の魔法生物だ。

群体を構成する極小の魔法生物を『粒子体』と呼ぶらしい。

サイズは生物の細胞とほぼ同サイズで、『情報粒子体』と『構造粒子体』の2種類がある。

情報粒子体は人間の神経細胞、構造粒子体は万能細胞に当たるようだ。

ただし脳や脊椎、心臓のような神経系、循環器系の中枢は必要ない。

つまり、急所がないのだ。


 単細胞生物のスライムですら核と言う急所を持つのだ。

これだけでも恐るべき兵器になる。

不死身の兵士の軍団なんて笑えない話だ。

まあ、さすがに全ての粒子体を破壊されれば機能は停止するようだが。

ここで重要なのは、破壊するのは情報粒子体だけで良いというところだ。

構造粒子体は単体では機能を維持できないのだ。


 もちろん、情報粒子体だけでも機能は維持できない。

だが、情報粒子体が複製の指示を出せば、周囲の魔力や物質を吸収し粒子体を作り出す事が出来る。

重要なのは情報粒子体の方なのだ。


 そして、アンヘルの性能だ。

情報粒子体は全身にほぼ均等に広がっており、全粒子体の動きは完全に同調している。

つまり、本物の天使や悪魔のような超常の反応速度を実現できるのだ。

そして、構造粒子体はあらゆる武器や魔法を再現できる。

粒子体を並び替えれば、剣だろうと盾だろうと何でも作れる。

粒子体で魔法陣を作れば、あらゆる魔法を使用できる。


 消費魔力が回復量を上回らなければ、外部からの魔力供給も不要。

損傷してもすぐに粒子体を複製して再生する。

量産されてたらアールヴが世界を征服していたかもしれないな。

まあ、開発者にその気は無かったようだが。


 アールヴの神種と思われる研究者。

転生者である可能性も高いが、ギフト絡みかは不明だ。

だが、直接ギフトを与えられていた可能性は低いと考えている。

もし持っていればもっと早く、何百年も前から事件が起きていただろうからな。


 ともあれ、彼は作ることに熱心で、あまり使う方には熱心じゃなかったようだ。

アンヘルにしても「性能、外見、全てがパーフェクトの作品を作りたい」とかが動機だったみたいだしな。

それが遥か未来で火種になってるんだからはた迷惑ではあるのだが。


 話を戻そう。

アンヘルの性能は情報粒子体依存らしい。

と言うのも、試作体を含めて全ての個体は構造粒子体が同一規格なのだ。

まず構造粒子体が完成し、その後情報粒子体を開発したって事なんだろうな。


 そして、攻撃用、防衛用、あるいは近接戦用、遠距離戦用といった様々な情報粒子体を作成し、データを収集した。

ゴラーが回収した試作アンヘルはこれだ。

データ収集が終わり、保管庫に眠っていたプロトタイプやテストタイプというわけだ。

単体では使いにくいかもしれないが、チームを組ませれば恐ろしい性能を発揮するだろう。

まったく面倒な事だ。


 で、ここにあるアンヘルは、それらのデータを基に作られた完成品だ。

詳しい原理は知らないが、あらゆる状況に高レベルで対応できて指揮能力も高い。

スペック的には試作型アンヘル10体以上を単体で相手にできる様だ。

……目覚めさせて大丈夫なんだろうか? 暴走とかしないよな?


------------------


 シュン


 自動ドアか。

元の世界なら普通だが、こっちの世界だと凄い違和感だ。

たどり着いた部屋には、幾つもの等身大のカプセルが並んでいた。

中は濁った液体で満たされている。

部屋の薄暗さもあり、SFの冷凍冬眠装置みたいだ。

なんだコレは?


「あっ! ナイスタイミングです!」


「はい?」


 興奮した声を上げてシリルスが駆け寄ってきた。

目が爛々と輝いているな。

あんまり良い予感はしないんだが。


「なんだよ、お宝はあったのか?」


「何言ってるんです? 周りにあるじゃないですか」


「周り?」


 周囲を見渡す。

在るのは濁った液体の入ったカプセルだけだ。

よく見ても中には何もない。

いや、まてよ……。


「もしかして、この液体がアンヘルなのか?」


「そうです! 彼らは構造を維持できなくなっているんです!」


 カプセルの中に入っているのは、アンヘルの細胞とも言える粒子体らしい。

カプセルのエネルギー切れで、構造を維持できなくなってしまっているのだ。

まあ、古い遺跡だからな。

遺跡そのものは生きていても、どこかが損傷していてもおかしくない。

エネルギー供給パイプかなにかが断裂しているんだろう。


「どうだい? メリア」


「駄目ですね。シリルス様と私の全力でも1割に届きません」


「そうか。でも彼なら大丈夫さ」


「丸投げかい。ふむ、このパネルに手を当てればいいのか?」


「そう。そのパネルは非常用の魔力供給装置なんですよ」


 モニターを見るとカプセルはアラートで埋め尽くされていた。

何時からこの状態なのか知らないが、これって大丈夫なんだろうか。

大丈夫と言えば、シリルスは何の躊躇いも無くアンヘルを起動させようとしたようだな。

危険かもしれないとか考えなかったんだろうか。


「おお、凄い! ドンドン機能が回復していく!」


「部屋も明るくなってきましたね」


 実験室自体の機能はほぼ回復している。

だが、まだ50%だ。

膨大な魔力は、注ぐ端からカプセルに送り込まれて消えていく。

凄い容量だ。


「ん~、残念。生きてるカプセルは1つですね」


「壊れているのか?」


「いえ、おそらく情報粒子体が全滅してしまったんでしょうね。データによると、情報粒子体の方が維持に魔力を使うんですよ。逆に言えばエネルギー切れに弱いんです」


 ピー ピー ピー


「満タンだな」


「……どういう魔力してるんですか、貴方は」


 呆れ顔のメリアさん。

まあ、いいじゃないか。

役に立ったんだし。


「おお、見て下さい!」


 シリルスの興奮した声に目をやる。

すると、彼はカプセルの1つに張り付いていた。

溶液が次第に澄んでいき、代わりにカプセルの中心に何かが現れていた。

それはアメーバのように蠢きながら徐々に人型を形成していく。


「よし! アンヘル起動!」


「おい!?」


「シリルス様!?」


 やるかもとは思っていたよ?

でも、まさか本当に何の調査もせずにいきなり起動させるとは。

安全だという確信はあるのかもしれないが、せめて事前に説明が欲しい。

メリアも慌てて駆け寄り、シリルスを背中にかばう。


 ゴボゴボゴボ……


 カプセル内の溶液が排出されていく。

残された物体は蠢きながら大きくなっていく。

おそらく供給された魔力を素に、粒子体が自己複製を繰り返しているのだろう。


 プシュウ……


 そして遂にカプセルが左右に開いた。

ディフォルメされた人形の様だったアンヘルが、見る見る人間と変わらない姿に変わっていく。

長いプラチナブロンドの髪、エメラルドグリーンの瞳、そして尖った耳。

これが在りし日のアールヴの姿なのだろう。

ただし、その背には一対の純白の翼が存在した。


 あれだけ執着していたシリルスが呆然としている。

それはそうだろう。

彼は名家の御曹司だ。

醜聞のネタは欲しくないだろう。


 コレを連れて行けば、ありがたくない誤解を撒き散らす事は確実だ。

何故なら


 アンヘルは5歳くらいの幼女の姿をしていた


 シリルスに目をやると、向こうもこっちを見ていた。

何故かお互いの意志が読み取れる。


(え? コレがアンヘル? マジっすか)


(良かったな。お目当ての超古代文明の遺産だぞ)


(え? え? これ僕が持ち帰るんですか?)


(欲しかったんだろ?)


(いや、僕にも立場ってものが……。〇リコンの汚名はちょっと……)


(放置もできんだろう? まあ、頑張れ。性能は確かみたいだしな)


(……ゴラーの回収したタイプも同じだったんですかね)


 現実逃避を始めるシリルス。

他人事の様に励ます俺。

未だにフリーズしたままのメリア。

だが、当のアンヘルはカプセルから出ると真っ直ぐ歩み寄ってくる。

そして


「初めまして、マスター」


「は?」


「え?」


 アンヘルは起動させたシリルスではなく


「私は天使型マジック・ナノマシン・セルロイド、アンヘル。万能型タイプ オールラウンダー、コードネーム『アリエル』と申します」


 やや無機質な声と口調で


「起動の際に供給された貴方の魔力パターンを、マスターとして登録しました。以後よろしくお願いします」


 他人事の様に見ていた俺の前に跪いた


「「何ィ!?」」



ついに出ちまった……。


大丈夫、次話でフォローがあるから。


主人公はロ〇コンではない!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ