高速攻略
ルーターの具合が悪いというトラブルが……。
そんなワケで投稿が遅れてしまいました。
買い替えが必要かな?
数日後、ようやく準備が整った。
俺の予想より人数が多いが、あちらには人員が必要な事情があるらしい。
今、シリルスは見送りに来た婚約者だというハイエルフの少女に捕まっている。
ただ、あくまで俺の勘なのだが彼女は黒い気がする。
あざといというか、なんというか。
所々シリルスの気を引くべく、計算しながら行動しているように見えるのだ。
一方のシリルスはこっち方面では押しに弱い様だ。
まあ、俺には関係ないが。
幸い彼女はメリアに対して含む所は無い様だ。
計算高い貴族の正室と、献身的な護衛の側室。
うん、隙が無くて頼もしいじゃないか。
そして、少し消耗したように見えるシリルスを中心に調査隊は出発した。
俺は先陣でメリアはシリルスの護衛、シリルスは調査隊の中央に配置されている。
どうやら腕利きの大半は、奇襲に備えて後方に配置したようだ。
一番層が薄いのは先頭だ。
俺がいれば他は要らないくらいだろう、と言われれば頷くしかないしな。
さて、未踏破の遺跡はどんな所なんだろうな。
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通路の先に光が生まれる。
その発生源は銃口にしか見えない設置型の魔道具だ。
それが3つ長い通路の反対側からこちらを狙っている。
ピッ ピッ ピッ
信号音のような音と共に青い光が2条、赤い光が1条放たれる。
赤い光は火属性の魔法を圧縮した熱線だ。
金属の盾をも溶かし貫く威力がある。
だが、耐火属性の防壁なら防げないことも無い。
問題は青い光。
これは魔法を使った技術で位相を揃えてはいるが、元はただの光だ。
ゆえに現象としては魔法ではなく物理現象。
耐魔法防壁では防げない攻撃。
こちらの世界の人間では理解困難な攻撃だろう。
だが、俺やシリルスには解る。
これはSFの代表的な武器、レーザー砲だ。
砲台は魔法熱線とレーザー砲を巧みに撃ち分け、侵入者を排除しようとする。
だが、足りない。
人外のスペックを誇る俺を止めるには、威力が足りない。
だが、男解除をやり過ぎると騒ぎになるからな。
周りが納得できる対処の仕方を選ぶ。
「全員伏せろ!」
調査隊はもう慣れたものだ。
返事もせずに全員が伏せる。
死にたくはないだろうしな。
まず通路一杯に水魔法で霧を発生させる。
これでレーザーは拡散し威力を失う。
熱線も水の魔力と干渉し消えていく。
長い通路が逆に仇になった形だ。
本来なら、1列になったところを串刺しにされるデストラップなんだけどな。
次の砲撃が来る前に短剣を投擲。
レーザーで空いた霧の穴を逆走するように短剣は飛翔。
チャージ中の砲身に吸い込まれる。
そして
ボン ボン ボン
3つの砲台は暴発して沈黙した。
損傷の具合はどうだろうな。
実はこれらの防衛兵器も調査対象なんだよな。
できるだけ壊さずに制圧しろとか無茶言ってくれるよ。
「よし、いいぞ」
霧の魔法を解除する。
当初の半分以下に減った調査隊の面々が安堵の息をつく。
彼らにとっては未知の魔法具だからな。
不安にもなるか。
「ここが最深部みたいですね」
「そうみたいだな」
メリアを連れたシリルスが扉に近寄る。
リーフの探知ではもう危険は無いのだが、メリアは警戒を緩めない。
護衛の鑑だな。
「ふーむ、材質は同じか。パスワードも同じパターンかな」
早速シリルスは解錠を試みる。
俺なら強引に破れなくも無いが、それは遺跡の崩壊を意味する。
ここは専門家に任せよう。
「アタリじゃなかったがお宝の気配だな……」
調査員たちが回収している砲台に目をやり呟く。
実はここで遺跡は5つ目だ。
ここを含む3つは未踏破だった。
そして最深部には古代文明の遺産が、そっくり残っていたのだ。
調査員の人数が少ないのは死傷者が出たからではない。
その2か所の調査に人員を回しているからだ。
ちなみにハウルとリンクスにはコッソリ護衛を任せておいた。
フォーモルの間者が現れたら偉そうな奴を捕まえて、残りは始末するように言ってある。
残念ながら連中に先を越されたと思わしき遺跡もあった。
記録では未踏破なのだが、実際には全て解放されていたのだ。
一応調査をしてみたが、目ぼしいものは残っていなかった。
誰かが潜伏していたような様子も無かったので、そこは後回しという事になった。
その後、同じような所がもう1か所発見された。
そして、この遺跡である。
なんと、内部にフォオーモルの調査隊と思われる死体があったのだ。
捕虜を取れるかと期待を抱いて進んだのだが、結果は全滅。
調査隊は1人残らずトラップで死んでいた。
捕虜が取れなかったのは残念だが、実は収穫はあった。
死んだばかりと思わしきダークエルフに、まだ僅かに魂が残っていたのだ。
俺はコッソリとプルートを呼び、情報を引き出す事に成功した。
と、言ってもゴラーの情報を引き出せたわけではない。
引き出せたのはこの遺跡の情報だ。
「よし、開きました」
「ディノ様、一応お願いします」
「はいよ」
先頭は俺のポジションだからな。
敵性反応が無いのは、魔法生物が休眠状態なだけの可能性もあるからな。
慎重すぎても損は無い。
ここはそれ程の遺跡なのだ。
引き出した情報によると、ゴラーは幾つかの遺跡から強力な遺産を得たらしい。
だが、それらは全て試作品であり欠陥も抱えていたようだ。
ゴラーの調査の結果、周辺の遺跡の研究結果は全てこの遺跡に集められていた事が分かった。
つまり、この遺跡こそが本命の研究所。
完成品があるとしたら、この遺跡なのだ。
当然、ゴラーもそれを手に入れようとした。
しかし、この遺跡のトラップはあまりにも強力過ぎた。
魔法生物は強すぎた。
何度調査隊を送っても返り討ち。
危険すぎてゴラー自身が来るなど論外だった。
だが、諦めきれずに未だに調査隊を派遣しているのだという。
でも、それって死刑宣告だよな。
今回の調査隊は特に進んだ方だったようだ。
3分の1位までは進んだわけだからな。
そんな精鋭を使い潰すなんて、もったいない事するよな……。
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「ここは?」
「管制室ですね」
たどり着いたのはファンタジーとはかけ離れたSFチックな部屋だった。
無数のモニターにコンソール、調査隊も戸惑っている。
シリルスだけがさっさとメインと思わしき端末に近づいて行く。
流石と言うかなんと言うか、欲しいんだろうな。
ここの遺産が。
途中で回収した防衛兵器は、この遺跡で開発されていた遺産ではない。
他の遺跡で得たデータが本当なら、あんな砲台など目じゃないくらいの強力な代物だ。
そう、他の遺跡には現物は存在しなかったが実験データは残っていた。
ゴラーの踏破した遺跡は保管庫のようなものだったらしい。
運が良い奴だ。
さて、この遺跡に存在するはずの遺産。
それは
ピピッ ヴン
電子音と共に正面のモニターが点灯した。
さらに部屋の隅にあった扉が開く。
お宝はあそこか。
シリルスは勇んで突撃していき、メリアが慌てて後を追う。
不用心だとは思うが落ち着けという方が無理だろう。
モニターに目をやるとお宝のデータが表示されていた。
『マジック・ナノマシン・セルロイド』
これがアールヴ文明の末期、アールヴの神種が開発していた物の正体だ。
アールヴの魔法技術によって作り出した、細菌のような極小の群体魔法生物。
これらをコアによって統制し、擬似的な生物となす。
通常のホムンクルスとは明らかに違うコンセプト。
シリルスが好きそうな男の浪漫兵器であった。
「お約束なら美少女型とかなんだろうが……」
モニターの画像に移るのはディフォルメされた人型。
その背には鳥のような羽が生えている。
「『マジック・ナノマシン・セルロイド Typeアンヘル』ね」
アンヘルとはエンジェル、つまり天使の事だ。
さてさて、どんな天使が待っているのやら。
さあ、天使ドールを手にするのはシリルスかゴラーか、それともフィオか。
……問題になってませんね。




