情報交換と推測
あんまり引っ張ってもしょうがないんで、一気にフラグ回収と背景説明です。
作者自身もいつまでも謎のまま引っ張られるとイライラするし、複線もなく唐突にポンと話が出てくると違和感を感じてしまうので。
浄化完了後、俺とシリルスはお互いの情報を交換した。
俺は邪神や転生者、そしてギフトについての情報を。
彼は遺跡やフォーモルなどの調査に必要な情報を。
「邪神とギフト……。魂を対価に力を、ただし浸食され正気を……。なら……」
俺から得た情報を吟味するシリルス。
前世は知らないが、今の彼は有能な学者だ。
何か気付いたのかもしれない。
「……やはり鍵は最初の一本か。じゃあ、ゴラーが持っていたのが?」
「おーい、何か解ったのか?」
「! あ、すいません。今、説明します」
声をかけると、ハッとした様子で慌てて説明を始めるシリルス。
うん、こういうところは政治家じゃなくて学者だな。
「まず、疑問点が1つ。なぜゴーダンがクーデターなど起こしたのかです」
「何か不思議なのか?」
「不思議ですよ。彼は本来、高潔で勇敢な人物です。そうでなければイルダナと同等の勢力など保てるはずがないじゃないですか」
「……成程。確かに言われてみれば」
罠に嵌められた先代イルダナの当主。
彼は武人気質ではあったが、決して馬鹿でも間抜けでもなかった。
彼がゴーダンに相談したのはそれだけ信頼していたからだ。
逆に言えば、ゴーダンはそれだけ信頼に足る人物だったという事だ。
ゴーダンが犯罪に手を染めるなど本当に思いもしなかったのだろう。
ハイエルフ達も同様だ。
まさか、あのダークエルフの英雄が暴走するなど予想もしなかった。
だから対応が後手に回り、その間にイルダナが潰されてしまったのだ。
ダークエルフ達にしても予想外だっただろう。
事実、当初はダークエルフの8割がフォーモルに従っていた。
しかし、彼らの横暴を目の当たりにして離反して行ったのだ。
「イルダナ上位という風潮もゴーダンは気にしていなかったんです。表面上だけだったという可能性もありますが……」
「何かのきっかけで変心した可能性もある、か」
「そうです」
次にシリルスは1枚の絵を見せた。
描かれているのは禍々しい長剣だ。
これは『爛れた牙』か?
「これはフォーモルの次男、ゴラーが帯剣している武器です。察しの通り『爛れた牙』です」
「自分で持ってるのか? あ、そうかこいつは」
「はい。ゴラーは呪いに強い耐性を持っています。彼にとってはただの強力な剣だったんでしょうね。本来なら」
「本来なら?」
「ええ」
次にシリルスは名簿のような物を見せた。
これは、そうか。
『爛れた牙』の生贄にされた犠牲者か。
「古い資料ですが、複数の都市と冒険者ギルドが総力を挙げて作成した記録です。当時の犠牲者はこれで全てだと思われます」
「ふーん、うわ、1日3人も生贄にした日もあるのか……」
「で、こちらが鍛冶師の家から押収された資料の写しです」
「これは……『爛れた牙』の作成記録か」
「そうです。で、何か気付きませんか?」
気付くと言ってもな。
俺は警察じゃないんだけど。
どっちかと言うとヒットマンだし。
……ん?
「なあ、最初の1本は誰が被害者なんだ?」
「解りません」
「はい?」
最初の1本の作成日時だけ随分前だ。
そして、その時期に生贄にされたと思われる者はいない。
じゃあ、最初の1本は生贄を使わなかった?
いや、それでは作った武器が『爛れた牙』にならない。
「これは予測に過ぎません。でも、僕はこう思います。最初の生贄は鍛冶師自身だったのだと」
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鍛冶師本人が生贄。
予想外の考えに絶句する俺。
だが、思い返せばシゼムもニクスも教主もギフトに取り込まれた。
アレは確かに生贄のようなモノだったのかもしれない。
「鍛冶師のギフトが鍛冶関連だったとすれば、毎日ギフトを使っているようなものか。それが数十年続けば確かに……」
「ええ、僕も今日あなたから邪神とギフトの情報を得たからこそ考え付いたんですけどね」
絶望し暴走した鍛冶師は、ギフトに飲み込まれた。
では鍛冶師を操った邪神は、なぜ『爛れた牙』を作ったのか。
「生贄の怨念を依代に、ギフトの欠片を組み込まれた邪神の量産型神具。それが『爛れた牙』だと僕は考えます。そして、その性質は当然ギフトと同じ」
「所有者を狂わせ、魂を侵食。そうやって得たエネルギーを邪神に届ける、か」
「当然、『爛れた牙』で殺された犠牲者も邪神の糧になるんでしょうね」
胸糞悪いな。
ん? でもおかしいぞ。
ゴードンと戦った時、あいつと邪神を結ぶ回路なんて無かった。
ニクスの時には感じたんだが。
「その鍵がこの最初の1本だと思います。」
「ゴラーの剣が最初の一本だったのか。でも、これが?」
「まず、フォーモルはこの最初の1本によっておかしくなったんだと思います。ゴラーは呪いに耐性がありますが、ギフトは神力です。長時間抵抗できたとは思えません」
「そうか、そしてニクスの時の様に周囲まで狂わせていったと」
「はい。ゴーダンの変心もこれで説明できます」
バラバラだった出来事が1本に繋がってきた感じだな。
となると、犠牲者の魂を邪神に送っていた方法もヒントがありそうだな。
確かニクスの時は……。
「そうか、最初の1本は中継地点なのか」
「ええ、おそらく。他の『爛れた牙』は全て子機、最初の1本が親機なんです。子機から送られた魂は親機に収束され、邪神へと送信される。そういうシステムなんだと思います」
これはギフトというシステムの簡易版だ。
ギフトと邪神の関係を、親機と子機に当てはめる事が出来る。
つまり
「最初の1本以外をいくら破壊してもきりが無いってことか」
「ええ、そもそも大半が所在不明ですからね。いくらかは大陸外に持ち出された可能性もありますし」
「なら、やる事は単純だな」
「はい。ゴラーの持つ最初の1本を破壊する。これで他の『爛れた牙』は機能を停止するはずです」
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フィオさんとの情報交換で不明だった点がようやく判明した。
祖父達の調査は完璧だったが、邪神やギフトという重要な情報が抜けていたので答えを導き出せなかったのだ。
遺跡を調査してゴラーを見つけ出すという手段は変わらない。
だが、邪神とギフトが関わっている事を知っているかどうかは重要だ。
幸い協力者はギフトを狩る大神の眷属だ。
これまでの実績を考えても、ゴラーを発見してしまえば事は終わるだろう。
元は人間の人格データという妙な出身の彼だが、信用は出来る。
何しろ非人間的なほどに公平公正だからだ。
政治家の家族を持つ僕には解る。
普段はともかく、『仕事』の話になると人格が入れ替わったようになるのだ。
元からそういう人間だったのか、こちらに来てからそうなったのかは解らない。
だが、こういう人物はある意味つき合い易い。
敵対せずに便宜を図り協力すれば、誠実に応えてくれるからだ。
だが、僕には彼に話していない事がある。
それはゴラーの目的だ。
普通に考えれば、復讐だとか都市支配の野望だとかだろう。
だが、祖父から渡されたあるモノには彼の目的が書かれていた。
フィオさんの話から、ギフトは人の願望や欲望を依代とすることを知った。
そこに善悪は無い。
ギフトはただ望みを叶えるのだ。
それ以外の全てを台無しにして。
ゴラーの日記。
そこには彼の苦悩が書かれていた。
彼には思いを寄せる女性がいた。
しかし、それは叶わぬ恋だった。
何故ならフォーモルと彼女の氏族に血縁関係が生まれると、余りにも権力が集中し過ぎるからだ。
お互いがお互いを監視し牽制する。
たとえポーズだろうと、そういった関係をアピールする事で両氏族は身内の暴走を防いでいたのだ。
当然フォーモルの当主であるゴーダンは、息子と女性の結婚など認めなかった。
理性では解っている。
でも感情では受け入れられない。
そして、ある時を境に日記の内容は変化していく。
おそらくギフトに浸食され始めたのだろう。
その後フォーモルはその女性を手に入れる。
しかし、ゴーダンは彼女を戦力として使った。
ゴラーが彼女を望んでも当主の意向には逆らえない。
ゴラーが感染源であるというだけで、ゴーダンとゴラーの力関係は変わらなかったのだろう。
それでもゴラーは粘り強く訴えた。
そして遂にゴーダンは譲歩した。
彼女以外の血縁者を根絶やしにした後、彼女をゴラーに与える。
そうすれば敵対勢力の残党の士気を挫けるだろう、と。
ゴラーは狂喜した。
しかし、事態は彼の思うようにはいかなかった。
彼女は真実を知ってしまった。
もうフォーモルの言いなりにはならない。
そして敵対勢力を滅ぼすどころか、逆にフォーモルが滅ぼされてしまった。
ゴラーの日記には直前に書き込まれたと思われる部分があった。
彼なりの決意表明なのだろう。
どんな手を使っても彼女を手に入れたいらしい。
歪んでしまったとはいえこの愛情と執着、大したものだ。
だが
「残念だけど、メリアは渡さない」
「ん? どうした?」
「あ、いえ……」
残念ながら、もう彼女は僕のものだ。
奪おうとする者は許さない。
こんな時、政界のフィクサーである祖父の血を感じてしまう。
メリアに手を出す奴は
消す
これで話がつながったかな。
そしてまさかの三角関係……というより横恋慕。
片方は転生者じゃないんで北大陸よりはマシかな?
ネットワークで騒いでた連中は北で揉めてる最中です。




