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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第3章 妖精大陸探索編
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眩しい意志

過去の回想終了。

実はいくつかフラグが立っています。


次話はシリルスとフィオの情報交換。

今後の捜査方針が定まります。

 心労のために衰弱してしまった母を、窓越しに見つめる毎日。

私自身も人形の様にただ毎日を過ごしていました。

しかし、そんな空虚な日々も唐突に終わりを告げました。

対フォーモル連合が正式に結成され、全面武力衝突が起こったのです。


 きっかけはやはり私でした。

兄たちはあくまで合法的にフォーモルを断罪しようとしていました。

しかし、私はそのための証拠や証人を根こそぎ消してしまったのです。

もはや他に手段は無し。

遂に兄たちは武力行使に踏み切ったのです。

窮鼠猫を噛むと言いますが、フォーモルは彼らを追い詰めすぎたのです。


 都市を滅ぼしかねない大規模戦闘。

ハイエルフ達は、何とかそれを阻止したかったのでしょう。

兄たちにギリギリまで自制を求めました。

しかし、遂に彼らも決断したのです。

フォーモルを滅ぼすと。


 こうなると事態は急転しました。

今まで武力で押さえつけられてきた者達が各地で蜂起、あるいは合流。

戦力差はあっと言う間にひっくり返りました。

因果応報とでもいうのでしょうか、フォーモルは追い詰められました。


 まるで霞がかかったような感覚でした。

フォーモルの屋敷、いえ規模的には城でしょうか。

そこも大群に包囲され陥落は避けられない状況でした。

でも、私にとっては現実感が無く、まるで人事のように感じていました。


 部屋に入って来るだけなら手出しはしませんでした。

もう、フォーモルのために働く意味は無いのですから。

しかし、母の部屋に入ろうとする者や、斬りかかってくる者は容赦なく排除しました。

刻み込まれた経験というものは恐ろしいです。

私は、ほぼ無意識の内にそれを行っているのですから。


 どれくらい経ったのでしょう。

私を遠巻きに監視していた兵たちが左右に割れました。

そして、現れたのは兄を含む反乱軍の主要メンバーでした。

いえ、彼らは勝利したのですから、もう反乱軍ではないですね。

複雑な表情で私を見ていました。


 私が母を人質に取られている事は知っている。

でも、多くの同志を殺害した仇敵は許せない。

そんなところでしょうか。

そして、兄の発した言葉は私の全てを否定するものでした。 


「メリア、それは偽物だ。母は既に亡くなっている。遺体も見つけた」


 何を言われたのか理解できませんでした。

混乱する私の横をすり抜け、兄は母の部屋のドアを開きました。

その向こうには憔悴した母の姿があります。

しかし


「これは映像記録用の魔法具だ。遺跡で発見したらしい」


 兄が部屋にあった装置を止めると、母の姿は幻の様に消え去りました。

兄は説明を続けました。

私と兄が刃を交えた事を偶然知った母は、心労のあまり衰弱死してしまった事。

ゴーダンは私をせめて敵に回さないように偽物を用意した事。

ゴーダンを始めほとんどのフォーモル一族を討ち取ったが、次男のゴラーだけは取り逃がした事。


 しかし、私はもう返事もできませんでした。

私は現実を拒否するように心を閉ざしたのです。


----------------------


 あっさりと捕縛された私は、ハイエルフの元で保護されました。

イルダナの当主にしてダークエルフの新たなリーダーとなった兄。

彼にとって私は都合の悪い存在でした。

とは言え、情状酌量の余地ありという事で家名剥奪で済んだのは、兄の優しさだったのでしょう。

本来なら処刑されていてもおかしくなかったのですから。


 身柄引受先のハイエルフの元で、私は一般教養とメイドとしての教育を受けました。

相変わらず無気力状態でしたが、それでも何とかなってしまう。

しかし、そんなイルダナの血も私にとっては重荷に感じていました。

もし、私がイルダナでなければ、私が無能だったなら。

意味も無くそんな事を考えていました。


 そんな私の思いとは関係無く状況は動きます。

教育の終わった私は、引き取り先のセネリア氏族の若君が主人に決まったのです。

その主人こそがシリルス・セネリア様でした。


 初めて出会った時の印象は『眩しい』でした。

その瞳は好奇心に輝き、全身から生気が溢れているようでした。

エリフィムという希少種族である事も、天才的な魔法の才も、聡明な頭脳も全ては些事。

その強い意志こそがシリルス様の魅力でした。


 同じ名門氏族の生まれでありながら、まるで対極。

私は見た目はともかく、人形のように無表情。

そして反逆防止のために奴隷紋を刻まれた元暗殺者。

嫉妬する気も起きないくらいの格差です。


 シリルス様はまるで太陽のようでした。

老獪な政治家の当主様も、孫の前では好々爺にしか見えないのです。

また、当主様は私の過去を知ったうえでシリルス様に仕えさせたのです。


 目的は2つ。

1つはシリルス様を守れる手練れが必要だったこと。

もう1つはシリルス様と関わる事で、私が立ち直れるのではないかと思ったのだそうです。

そのご慧眼、実にお見事でした。

私は太陽に照らされるように、心の闇を払しょくできたのです。


 それから時は経ち、私は奴隷紋を解除され正式にシリルス様の側室候補となりました。

もちろん、まだ公にはなっていませんが。

シリルス様は学者、研究者として不動の地位を築き上げました。

政治にあまり興味を持たれないので、父君は心配なさっていましたがご当主様はむしろ全面協力なさっています。

シリルス様の上げる成果は、下手な政治家より上なのですから当然でしょう。


 もちろん有名税とでも言いましょうか、成果が上がるほど敵も増えていきます。

しかし、かつては『血の刃』と恐れられた私です。

襲い来る刺客は全てを返り討ちにして、逆に黒幕を討ち取ってやりました。

流石に、やり過ぎだとご当主さまに注意されましたが。

しかし、私は知っています。

孫を溺愛する祖父は、孫の敵を自分で仕留めたかったのです。


 しかし、私には1つ心配な点がありました。

あまりにもシリルス様は純粋で無邪気なのです。

私が身をもって知ることになった世界の無情。

それを知らぬ事が、いつかこの方に災いをもたらすのではないか?

そう思ったのです。


 私は覚悟を決めました。

たとえ軽蔑されようとも、恐れられようとも。

それがシリルス様のためになるのなら。

自分の過去を全て話そうと。


 とは言え、切り出す事は躊躇われました。

自分の手が血に染まっている事を、愛する人に知られたくない。

当たり前の感情ですが、少し前の自分なら抱く事は無かった感情です。


 結局、私が話す事が出来たのは病床のシリルス様にでした。

熱で朦朧としているところへの長話です。

正直、内容を理解してもらえたのか怪しい所でした。


 翌日以降も、シリルス様の態度は変わりませんでした。

しかし、はしゃぎ過ぎたり浮かれたような様子が少なくなりました。

そして、今までよりも慎重さが身に付き、落ち着かれたような印象が強くなったのです。

それがただの成長なのか、それとも私の過去を知ったためなのか。

何故かそれを聞くのをためらってしまい、未だに聞く事が出来ていません。


「!」


 部屋の結界が解除されました。

シリルス様は無事ですね。

ホッと安堵の息を吐きます。

疑心暗鬼になっているようですね。

でも、あの青年の底知れぬ雰囲気に圧倒されてしまったのです。

ですが味方なら頼もしい。


 敵はフォーモルの残党。

ならば私にとっても他人ごとではありません。

あるいは天の意志なのかもしれません。



己の過去は己の手で清算せよ


今度こそ大切なものを守り抜け



 話し合いが終わったようです。

2人が席を立った気配を感じドアを開きます。


 クールで冷静で無表情。

しかし、それは内面を隠す仮面です。

今の私はもう人形ではありません。


 シリルス様はこの身に代えても守り抜く。

それこそが、ようやく手に入れた覚悟と意志。

もう同じ道は決して歩みません。


シリルスをシルリスと書き間違えてしまう……。


ちなみに、彼の名前は某ゲームの森の神シリルから取っています。

フェノーゼやメリアもモデルがあります。

主に森や木関連で。

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