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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第3章 妖精大陸探索編
104/216

血濡れの令嬢

重い話が続きますがメリアの過去は次回で決着。


作者は自分で読むときは暗い展開が苦手なんですよね。


でも今作はダークな展開が多い……。

 あの日、父の処刑が強行された翌日。

私達の住まうイルダナの屋敷に襲撃がありました。

いくら1人1人が強いと言っても多勢に無勢です。

イルダナの兵達は次々に打ち取られ、私達は徐々に追い詰められていきました。


 兄は父の後継者として頭角を現しており、母もまた名の知れた魔法使いでした。

2人が必死に指揮を執る中、私はと言うと隠し部屋で震えていました。

私もイルダナの直系、才能では兄に負けていないと言われていました。

しかし、明確な目標も定まった意志も無い私は、その才能を引き出そうとしませんでした。


 私1人の力でどうこうできる状況ではない事は解っていました。

それでも私は無力な自分が許せなかったのです。

後悔してももはや遅い、無力な私に出来る事は無かったのです。

そもそも私は何故、誰が襲撃しているかすら理解していなかった。

そして、その無知が私に愚かな行動をとらせたのです。


 母は兄と僅かな腹心を、隠し通路から脱出させました。

その時、兄に誓わせたそうです。

例え母や妹が人質に取られようとも迷ってはいけない、と。

兄は若木になったばかりでありながら、一族の当主として立つ覚悟を決めざるを得なかったのです。

そして母は私を逃がし、自分は死ぬまでフォーモルの私兵を足止めする覚悟を決めました。

しかし、それは叶いませんでした。

 

 隠し部屋に隠れていた私は、隠し窓から外の様子を窺っていました。

最初に訪れたのが母だったなら私の運命は変わっていたでしょう。

しかし、現れたのはフォーモルの当主ゴーダンだったのです。

そして無知な私は、未だにゴーダンを父の盟友と思い込んでいました。

愚かな事に隠し部屋を自ら抜け出し、仇敵に助けを求めたのです。


 ゴーダンは歓喜で私を迎えました。

私はその喜びの意味を理解できませんでした。

彼は私を自分の私兵に預け、母への人質としたのです。

私は、ゴーダンが私兵を引き連れて助けに来てくれたと勘違いしていました。

結局、母は降伏して捕えられてしまいました。

そしてゴーダンは母も保護したと話し、私はそれを信じてしまいました。


 父が死に、兄が行方不明となった事で母は情緒不安定になった。

そう言ってゴーダンは母との接触を制限しました。

当然、母は私に真実を話せないよう制約魔法をかけられていました。

そうとも知らず、私はゴーダンを恩人として慕ったのです。


 母以外の家族を失った私は力を欲しました。

母と恩人を守る力を求めました。

それが自分の意志だったのか、誘導された結果だったのかは解りません。

しかし、当時の私にはそんな事はどうでもよかったのです。


 ゴーダンは私の申し入れを受け入れ、高度な戦闘訓練を施しました。

ただ、ひたすらに人を殺すための技術と知識を学びました。

1年と経たずに教官を超え、私はフォーモル最高の暗殺者となりました。

暗殺者に必須の、感情を殺す精神制御がまだ80点でしたが、それを差し引いてもです。


 女の暗殺者は時に己の身体を武器にします。

しかし、私はそんな必要も無く、そんな訓練も受けませんでした。

イルダナ直系の血、その力は圧倒的だったのです。

そして、遂にその時が来ました。


 父を罠にかけ、家を襲撃した勢力と現在抗争状態にある。

父と兄の無念を晴らすため、フォーモルとロスト・イリジアムのために戦って欲しい。

そう、ゴーダンに持ち掛けられた時、私の心は歓喜に震えました。

もう私は無力ではない、正義のために手を汚す覚悟も決めた、今度こそ。


 この時の私は気付いていませんでした。

自分は無力ではなくなったが無知のままである事に。

相変わらず愚かである事に。



 敵の構成員を殺した。

敵の協力者を殺した。

敵の拠点を焼き払った。

敵の持つ情報資料をかく乱のため燃やした。


 私の活躍は味方でさえも驚愕するものでした。

私は誇らしく思いました。

ようやく自分は誰かの力となれたのです。

しかし、私は母が悲しげな目をしている事に気付けませんでした。

力に酔い、正義に酔った私には何も見えていなかったのです。


 しかし、真実は唐突に私の幻想を、世界を打ち壊しました。


---------------------


 その日の任務は特に重要なものでした。

何故なら反乱勢力のリーダーの居場所が判明したのです。

今まで居場所を悟らせなかった敵のリーダー。

そんな彼が突然姿を見せた。

明らかに罠でした。


 おそらく標的は私。

しかし、私はこのチャンスを逃すつもりはありませんでした。

敵のリーダーは、自身を囮として私をおびき寄せるつもりです。

ですが、それは諸刃の剣でもあります。

敵の罠を食い破れば、逆にこちらがチェックをかけられるのですから。

私は出来る限りの手練れを連れて決戦に挑みました。


 私たちは敵のアジトを強襲し、乱戦に持ち込みました。

立ち塞がる者を全て斬り伏せ、遂に私はリーダーに刃を届かせたのです。

私は覆面に黒装束、相手は兜に全身鎧。

お互い顔も分かりません。


 しかし、知る必要などない。

お互いただ相手を倒すのみでした。

私は自分の力に自信を持っていましたが、相手も凄まじい手練れでした。

これだけの実力を持ち、組織の長としても有能。

恐るべき敵でした。


 ……何故、気付かなかったのでしょう。

自分と互角の実力者など、あの人以外にありえないのに。

彼の振るう剣術は父があの人に教えたものなのに。


 攻防は徐々に私の優位に傾いて行きました。

重い鎧を着けている分、彼の方が体力の消耗が激しかったのです。

さらに対人戦闘に限って言えば私の方に分があるようでした。

長期戦は不利と悟った彼は、捨て身とも言える攻撃を繰り出しました。

私はそれをカウンターで迎え撃ちました。


 彼の剣は私の覆面を切り裂き、私の短剣は彼の兜を切り裂きました。

お互いの必殺の一撃はぶつかり合い、軌道が変わってしまったのです。

僅かな疑問、何故2人の必殺の一撃が同じ軌道だったのか。

この突きは父の得意技であり、イルダナの技なのに。


 精神制御が完璧でなかったのは幸運でした。

もし完璧だったなら、私は取り返しのつかない事をしていたでしょう。

今更ではありますが。


 軽い短剣と重い長剣が互角。

やはり、分があるのはこちらです。

私は次で決着がつくと確信しました。


 ですが、一度距離を取り、再び構えた私はそこで動きを止めていました。

何故なら目の前の人物は、最大の敵と思っていた人物は……。


「お兄様?」


「メリア?」


 気が付くと私は反乱軍のアジトを脱出し、薄暗い路地裏に座りこんでいました。

敵であり悪であるはずの反乱軍。

そのリーダーは死んだはずの兄だった。

何故?


 一つの疑問を皮切りに、今まで目をそらしていた疑問が噴出しました。

思えば、おかしい点はいくらでも在りました。

しかし、私はそれら全てから目を逸らし、耳を塞いでいたのです。


 イルダナの優秀な頭脳はすぐに真実を導き出しました。

父を追い落としたのも屋敷を襲撃したのもフォーモル。

私は母に対する人質。


 フォーモルはこの都市を武力で支配しようとしている。

私は彼らの先兵として、彼らにとって都合の悪いものを排除してきた。

反乱軍はフォーモルの横暴に対抗する者達で、兄はそのリーダー。


 私の殺した反乱軍の幹部は兄の部下や友人。

そう、思い返せば見覚えのある顔も確かにあった。

私は、幼いころ顔を合わせたはずの者まで殺したのだ。


 敵の協力者とはフォーモルの犯罪を知る証人や証言者。

兄は彼らと共にフォーモルの悪事を公にしようとしていたのだ。

私は罪の無い一般市民である彼らを、いや、フォーモルの被害者たちを殺して回ったのだ。

口封じのために。


 焼き払った資料はフォーモルの犯罪の証拠。

法を担当するハイエルフの元に提出されるはずだったそれを、私は焼き払った。

関係者を皆殺しにされた今、もう合法的にフォーモルを排除する事は出来ない。


 私は父の仇たるフォーモルのために、その手を血に染めていた。


 私の行いに正義など無かった。


 それを自覚した瞬間、全ては反転しました。

私の世界はあっけなく崩れ落ちたのです。



 どれくらい呆然としていたでしょう。

私はのろのろと動き出しました。

向かう先はフォーモルの屋敷です。


 この期に及んでまだ私は認めたくなかったのです。

だからゴーダンに直接問い質す。

その後の事など考えてもいませんでした。


 否定されたとして、彼の言葉を信じられるのか?

おそらく無理でしょう。

では認めたらどうするのか?

私に兄のような覚悟があれば、刺し違えてでもゴーダンを殺したでしょう。

では、私にそれができるのか?



 私にはできませんでした。

母を殺されたくなければこのまま従えと言われ、頷いてしまったのです。

母は監禁され、結界で守られた部屋に閉じ込められてしまいました。


 さすがに真実を知り、不安定になった私を信用する気は無かったのでしょう。

私は母の護衛という名目で監禁部屋の前に配属されました。

窓越しに見る母は、以前よりさらに生気を失っていました。

私の所業と兄と殺し合った事実が、母の心を追い詰めてしまったのです。


 妖精種はヒューマンや獣人より長命です。

それは存在の比重が、肉体より精神に傾いているからだとされています。

しかし、寿命が長い反面精神的なダメージに弱く、容易に寿命を縮めてしまうという弱点があるのです。


 母はいつまで持つか判らない。

ならば動くべきだと理性では解っていました。

でも動けない。

私も母と同様に精神が追い詰められていたのです。


 私は強くなどなっていなかった。

私は変わらず無知で愚かで弱いままだったのです。

燃え尽きた松明のように燻る日々が続きました。


 そして遂にフォーモルが滅びる日が来たのです。

それは同時に、私と言う罪人が裁かれる時でもありました。



メリアさんは卑下してますが、人間でいうと小学生に謀略を見抜けって方が無理ですよね。


その後にしても教育による洗脳ってのは強力です。

嘘だって数年間も真実として教えられれば信じちゃいますよ。

隣に2,3そういう国がありますし。


一度信じてしまうと難しい。

真実を知ってもそれを嘘と断じ、明確な証拠もねつ造と決めつける。

彼らのお家芸ですね。


それに比べればメリアは立派な方かと。

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