イルダナの落日
女っ気が無いせいか、たまに登場すると反響が大きいですね。
っていうかフィオって、RWOだとヘビーゲーマー、RCWだとワーカーホリック。
主人公としてどうなんだろう……。
自分の運命を左右する客人。
そう、主人より説明されていたのは奇妙な雰囲気の青年でした。
具体的に何が、と聞かれても説明はできません。
だた、『違う』と本能で察知していると言えば良いのでしょうか。
やはり『何が違うのか?』と聞かれても答えられませんが。
あえて言うなら根源的な部分で、といったところでしょうか。
暗殺者として、人として道を踏み外した私ですが、それでも人である事は変わりません。
ですが、彼は人の姿をした何かのように感じるのです。
彼は私の監視には明らかに気付いているのに、平然としていました。
私など脅威でも何でもないのでしょう。
かつて、ロスト・イリジアムを震撼させた殺戮者である私が。
しかし、主人は全く警戒も心配もしていませんでした。
自分達の敵ではない、と確信を持っておられました。
そして私を退室させ、2人だけで話し始めたのです。
防音の効いた部屋ですが、私にはある程度の状況が解ります。
元暗殺者の護衛、屋内戦闘のプロなのですから。
と、突然客人が何処からか武器を取り出しました。
手出しは無用と言い含められていましたが、とっさに殺気を放ってしまいます。
しかし、次の瞬間、主人自らが結界を張り、手出しを禁じてしまいました。
私はただ待つことしかできません。
やがて、結界が解除されました。
主人と客人は既に腰掛けて話し合っているようでした。
真面目な表情から本題に入っていることが解ります。
今回の一件、実は私も関係者と言えるのです。
そして、主人が乗り気な理由の一つでもあります。
私を完全に過去と決別させたい。
客人が訪れる前に、主人はそう仰りました。
まあ、遺跡発掘がしたいというのもあったのでしょうが。
主人は最高クラスの遺跡研究者です。
しかし、遺跡発掘は危険と隣り合わせです。
当主様も主人のご両親も、主人自らが遺跡に行くことを大変心配しております。
いざという時はその身を挺してでもお守りする覚悟ですが、守り切れるとは限りません。
過去には遺跡に封印されていた魔道兵器が暴走し、大惨事が起きたこともあるのです。
しかし、主人は客人が協力してくれるなら安全だと断言していました。
ならば大丈夫なのでしょう。
『爛れた牙』、そしてフォーモル氏族の残党。
己の罪は己の手で清算せよという神の采配なのでしょうか。
今の私はかつての無知で愚かな小娘ではありません。
そう、フォーモルの道具として、兄を狙ったあの時とは。
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大都市ロスト・イリジアム。
その武を支えるダークエルフの両輪。
それがイルダナとフォーモルでした。
イルダナはあらゆる能力に優れ、フォーモルは異能の使い手を輩出する名門。
しかし、いつからか両家の間には格差が生まれていました。
フォーモル氏族の異能には統一性がありません。
有効なモノもあれば使いにくいモノもあります。
一方でイルダナはハズレがありません。
突出した能力こそ無いですが、全てを万能にこなせます。
安定して優秀なイルダナと能力にバラつきがあるフォーモル。
いつしか人々はイルダナをフォーモルより上位に見るようになりました。
当然フォーモルは面白くありません。
使いどころが限定されるということは、その得意分野では他の追随を許さないということです。
彼らへの評価は不当なものと言っていいでしょう。
現にイルダナはあくまで対等にフォーモルと付き合おうとしていました。
しかし、こういう問題はしばしば当事者を置き去りに動いていくものです。
周囲の評価がイルダナ上位に固定された時、それが悲劇の始まりでした。
フォーモルはイルダナを追い落とし軍を掌握、最終的に都市を手中に収めることを計画したのです。
そして当時の当主である父は、フォーモルの野望に気付くことができませんでした。
父は優秀な人物でしたが善人過ぎたのでしょう。
盟友であるフォーモルが自分を追い落とし、都市を乗っ取ろうとしているなど想像できなかったのです。
フォーモルは密かにクーデターの準備を始めます。
当然のように不明瞭な物資や金の流れが生まれます。
しかし、首謀者は取り締まる側のフォーモルです。
全ては表に出ることなく静かに、着実に進行していきました。
しかし、遂にその尻尾がイルダナの手で見つかりました。
調べる程に大規模な計画。
父はよほどの大物が首謀者と考え、調査は秘密裏に行わせました。
気付かれると証拠の隠滅などが行われると考えたからです。
しかし、その全てをイルダナだけで行うのは限界がありました。
だから父は協力を求めたのです。
事もあろうに黒幕のフォーモルに。
その瞬間イルダナの運命は決しました。
気が付いた時にはクーデターの首謀者はイルダナという事になっていました。
フォーモルは計画を変更し、イルダナを反逆者として追い落とす事にしたのです。
父は優秀な人物ではありました。
しかし、清廉潔白で高潔な武人であったがゆえに、他者の悪意や謀略の臭いに疎かったのでしょう。
父は反逆者として捕らわれてしまいました。
当然周囲からは疑問視する声が上がりました。
しかし、イルダナが当主を囚われ動けない今、フォーモルを抑える事が出来る勢力は存在しませんでした。
フォーモルはイルダナの親派を次々と捕えてしまいます。
そして十分に勢力を伸ばしたところで父を含む有力者たちを処刑してしまいます。
さすがに政治を司るハイエルフ達も黙ってはいられませんでした。
しかし、軍は既にフォーモルの物。
武力において対抗できる勢力は存在しませんでした。
そしてフォーモルは計画の第2段階を実行に移します。
即ち都市をフォーモルの手で掌握するクーデターを実行に移したのです。
ところが、クーデターは思うように進みませんでした。
まず、ハイエルフ達の抵抗が思ったより激しかったのです。
彼らは武力においては劣っても、政治力と経済力を武器にフォーモルに対抗しました。
剣だけでは都市を維持する事は出来ません。
フォーモルとてそれは理解していました。
予定ではハイエルフを従える形で、実際の運営は彼らにやらせようとしていたのです。
しかし、ハイエルフは頑なにフォーモルを拒絶しました。
仕方なくフォーモルはハイエルフ達と不可侵協定を結び、とりあえずの手打ちとしました。
彼らにはハイエルフと揉めている余裕が無かったのです。
なぜならフォーモルに当主を殺された親イルダナのダークエルフ達が結束し、レジスタンスを組織したからです。
フォーモルは形振り構わず彼らを殲滅しようとします。
人質、暗殺は当たり前。
酷い時にはあえて民間人を巻き込み、助けようとしたレジスタンスを狙いました。
密かに集めていた『爛れた牙』を使い始めたのもこの頃です。
民間人に持たせて暴れさせ、止めようとして現れたレジスタンスを殺しました。
捉えたレジスタンスに持たせてアジトに帰し、仲間を殺させました。
倫理を無視すれば『爛れた牙』は非常に有効な道具だったのです。
ただし、当然のようにフォーモルの評判は地に落ちました。
さらにレジスタンスのリーダーが、イルダナ氏族の生き残りだと判明します。
殺されたイルダナの当主には息子と娘がいました。
兄も妹も行方知れずだったのですが、レジスタンスのリーダーがその兄だったのです。
都市の人々のレジスタンス支持は確たるものとなりました。
フォーモルは新たなイルダナの当主を暗殺しようと手を尽くしますが、上手くいきませんでした。
彼はまだ若木でありながら、既に父に匹敵する英雄に成長していたのです。
人の良さが弱点だった先代と違い、彼は冷静に冷徹に物事を見極めました。
彼はフォーモルを倒すために修羅となる覚悟を固めていたのです。
しかし、フォーモルには秘策がありました。
成程、確かにレジスタンスのリーダーは強敵だ。
ならばイルダナの相手はイルダナにさせれば良い。
フォーモルは密かに先代イルダナ当主の妻と娘を確保していたのです。
そして、娘には洗脳教育と暗殺者としての訓練を施していました。
彼女の精神制御はまだ未完成でしたが、戦闘技術はほぼ完成していました。
兄は確かに実力者でした。
しかし、当主として政治、経済、軍略、様々な事を学ぶ必要がありました。
一方で妹は全ての時間を、ただ人を殺す技術につぎ込みました。
よって、単純な戦闘力では妹が兄を超えているのは当然でした。
そしてフォーモルの殺戮人形と化した妹は、兄を殺すために解き放たれました。
その刃は都市をレジスタンスと無辜の民の血で染め上げる事になります。
恐怖を込めて付けられた通り名は『血の刃』。
無知で愚かだった、かつての私です。
シリルスくんのゲーム気分をふっ飛ばした、メリアさんの重い過去。
結末は次回。




