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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第3章 妖精大陸探索編
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エリフィムの事情

「……何が目的だ?」


「やはり解りますか」


「微かにだがな。大した隠蔽だ」


 ギフトの気配。

つまり、こいつは転生者だ。

だが今一こいつの意図が読めない。


 こいつは明らかに俺が転生者狩りの実行犯だと知っている。

どうして知っているのかも疑問だが、なぜ平然としているのか。

状況的に会わざるを得ないのは事実だが、むしろ会おうとしていた節もある。

俺を逆に倒そうとでもいうのか?

悪いが、いくらあのメイドが凄腕でもそれは不可能だ。

何がしたいのだろう。

 

「隠蔽じゃないですよ。僕のギフトは未覚醒なんです」


「何?」


「『ポケット・クリーチャー』って知ってます?」


 なんだ、その某有名人気ゲームみたいなのは。

ボールでモンスター捕まえる系の新作か?

あ、いや、俺と同じ世界とは限らないのか。


「そのものは知らんが、似たようなものは知ってる」


「おお、通じた。こういうのって全世界共通ですね。じゃあ、『マスター・カプセル』は」


「捕獲成功率100%か」


「その通りです」


 転生者は様々な世界から連れてこられたと聞いている。

中には当然、俺の元の世界に近い世界もあるだろう。

こういう文化は似るものなんだな。


「これって普通どう使います?」


「1体しか現れない捕獲が困難なボスに使うな」


「普通はそうですよね。でも僕は取っておくんです」


「コレクターか」


「似たようなものですね。1個しかない物を使うのがもったいないんですよ」


 ふむ、確かにそういう奴はいる。

別にマスターを使わないと捕獲できない訳じゃないからな。

最強のボスを市販の最低性能のボールで捕まえたーって自慢する奴もいたし。


「つまり、お前はギフトを覚醒させるのがもったいなかったと」


「ええ、とにかく環境に恵まれてたもので。ギフトが無いと生きられないとか、そんな状況にもなりませんでしたし」


 この大陸は国という枠組みが存在しない。

古代ギリシャのポリス国家の様に、1つの都市が一つの国として機能している。

大都市ロスト・イリジアムの名門の嫡男と言う立場は、王族クラスの大貴族に相当する。

加えてエリフィムという希少種族は魔法の天才だ。

そして凄腕で美人の護衛兼メイド。

ギフトなんぞ無くても不自由はしなかっただろう。


 これだけ聞くと嫉妬に狂う奴もいるだろう。

だが、ニクスはともかくシゼム辺りはこいつと大差は無かった。

肉体スペックは知らないが、政治的センスは十分だったと思う。

だが、彼はギフトを使い裏社会に踏み込んだ。

そして破滅した。


「必要無いと思うと不思議なもので、疑問を抱き始めたんです。僕らの出会った神に、そしてギフトに。アレは本当に神なのか? そしてギフトとは何なのか? こんな都合の良い力が何のリスクも無く使えるのか? 限がありませんでしたよ」


「いや、ある意味当然の疑問だな」


 ゲーム風に言えば未鑑定のレアアイテム。

なんとなく使う気が無くなったシリルスは、むしろギフトを活性化させないように気を付けたという。

ギフトは欲望や願望に反応して活性化する。

ならばと欲望を溜め込まず、しかし羽目を外さないように生きてきたという。


 並行してギフトについての情報収集も行ったそうだ。

情報元はもちろん転生者ネットワークだ。

自分からは書き込まなかったので、他の転生者は彼の事を知らない。

だが、彼は他の転生者の事をよく知っていた。


 そしてネットワークに転生者を狩る者の存在が書き込まれる。

さらにギフトの危険性を指摘する者も現れた。

シリルスは家の力を使って直接調査を始めた。

そして、すぐ隣の都市で転生者と狩人の接触があった事を突き止めた。

凄まじい情報の速さだ。


「ギフトの浸食が浅ければ悪影響は無いんですよね? こんな爆弾、サッサと取り除いて欲しいんですよ」


「大したものだな」


「ええ、まあ。この世界がゲームみたいに優しくないってのは良く解ってるんで……」


「?」


「あ、いえ。こっちの事です。じゃあ、お願いします」


 シリルスは立ち上がると俺の前に立ち手を広げた。

俺も神槍を呼び出し、浄化の力を纏わせる。

と、その時、扉から刺す様な殺気が俺に叩き付けられた。

これは


パンッ


 シルリスが手を鳴らすと部屋全体が結界に包まれた。

速いし精密な見事な術式だ。

同時に殺気が収まる。

なるほど、手を出すなって伝えたのか。


「良い従者だな」


「ええ。護衛であり、従者であり、姉である。大切な女性です」


「惚気はいい。いくぞ」


 突き出された切っ先はシリルスの胸を貫通する。

しかし、傷は無く血の一滴も流れない。

代わりに切っ先には濁った神気が刺さっていた。

それも蒸発するように消える。

呆気ない程の無抵抗だ。


「終わったぞ。覚醒していなければこんなもんか」


「……うん、何だかスッキリしましたよ。ありがとうございます」


 シリルスは満足そうに頷くと、再びソファに腰を下ろした。


-------------------------


「しかし、よくまともに生きてこられたな」


「そうですか?」


 転生者達は、ほぼ例外無く前世での事情を抱えている。

それらが生き方を縛り、時に歪ませる。

シリルスの様に恵まれた環境であっても、それはそれで歪むものだと思うのだ。

だが、こいつは先ほど言った。

この世界はゲームのように優しくないと。


 普通に考えれば、何かそう思わざる得ない事を体験したのだと推測できる。

だが、そんな経験をすればギフトに頼りたくなるのが人情だ。

怪しかろうがリスクがあろうが、他に手が無ければ頼らざる得ないのだから。

そうなるとシリルス自身ではなく、他の誰かという事になるのだろう。

そして思いつくのは


「聞きたいことがある。さっきのメイドの事だ」


「何ですか? メリアは僕のものです。上げませんよ」


「違う。なぜダークエルフの重鎮の一族がメイドなんてやってるんだ?」


 先程鑑定した彼女の名前は『メリア(・イルダナ)』だ。

何故か剥奪されているが、軍部のトップであるイルダナ氏族の令嬢なのだ。

更に魔力を観察すると奴隷紋が解除された形跡もあった。

つまり彼女は解放奴隷なのだ。

称号やスキルも出自に似合わない。


「……」


 シリルスは黙って目を閉じた。

そして話し出した。

彼女の過去を。


「彼女が僕に与えられたのは、僕が苗の頃でした」


 妖精種は幼児、青年などの代わりに苗や若木などと呼称する事がある。

彼が数十年を妖精種として生きてきた事を実感させる。


「当時の僕はまだゲーム気分が抜けていない状態でした。そこに所有物としてあんな美人が与えられたんです。まあ、有頂天になってしまいましたね」


「まあ、男だしな」


「でも、当時の彼女はクールっていうより空っぽな人形みたいでした。訳ありな感じでしたしね」


 彼女は不自然なほどに無知だったが、驚くような速さでものを覚えていった。

その優秀さは、イルダナ氏族の出だと聞いてようやく納得したほどだったそうだ。

シリルスが若木となる頃に、ようやく感情らしい感情を見せてくれるようになったらしい。

誠実にシリルスに尽くし、奴隷からの解放も許された。


「そんなある日、僕は流行り病に倒れたんです。彼女はこちらが心配するほど献身的に看病してくれました」


 熱で朦朧としていたシリルスはつい尋ねてしまった。

彼女の過去を。

それは壮絶な過去だった。


「……重いな」


「ええ、この話を聞いて、まだゲーム気分でいられるほど僕は図太くなかったんです」


 程なくシリルスは快癒し、メリアの献身は大いに評価された。

同時に彼女はシリルスにとって、ただのメイドではなくなっていた。

言い寄って来る名家の令嬢たちが目に入らなくなるほど。


 そして彼女はシリルスの夜伽も任せられた。

出生率の低い妖精種にとっては性教育はかなり重要なんだとか。

妊娠すれば、そのまま妾となるのだ。

シリルスの夜伽はさぞ倍率が高かっただろう。

彼には幼馴染の婚約者がいたが、それはそれという事らしい。


「僕も彼女も初めてでしたが……」


「ストップ。惚気はそこまででいい」


 脱線し過ぎだ。

まあ、振った俺が言うのも理不尽だがこいつの食い付きも半端ない。

むしろ彼女との馴初めを聞いて欲しいんだろうな。

悪いがさっさと本題に入らせてもらおう。


 

惚気を聞かされてうんざりのフィオ。

やはりシリルスは一度刺されるべきなのか?

だが、それを阻むのは他でもないメリアさん。


次回シリルスの目を覚まさせたメリアの過去が明らかに。

メリアの独白という形で紹介しようかと。



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