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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第3章 妖精大陸探索編
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先祖返りの妖精

 馬車に揺られること数日、特にトラブルも無く目的地に到着した。

しかし、アールヴ文明というのは凄まじいものだったんだな。

都市はSFのような金属製の防壁で覆われている。

こんなの現実では初めて見たぞ。

まあ、平和な地球の日本ではこんな防壁創る意味は無いんだけど。


 そもそも、地下シェルターでもなければ空中からの爆撃は防げないしな。

そう考えると、この都市も上がガラ空きで大丈夫なんだろうか。

飛行モンスターとか襲ってこないのか?

それとも防衛設備とか充実してるんだろうか。


〈行かないんですか~〉


〈キュイ、キュイ〉


 おっと、そうだった。

要らん事を考えてないでさっさと行こう。

え~っと、都市中央だったな。





「儂の可愛いシリルスを貸せだと? ラーマスめ……」


 剣呑な声で文句を言う初老の紳士。

彼こそがセネリア氏族の宗主であるフェノーゼ氏だ。

ふむ、なるほど。

ギルドマスターはラーマスという名前なのか。

知らんかった。


 どうも、そういうところに気が向かないんだよな。

無関心なつもりは無いんだが。

ブツクサ言ってはいるが真剣に手紙を読むフェノーゼ氏。

まあ、内容が内容だからな。

お? 読み終わったかな。


「お主、ディノと言ったか」


「はい。当主殿」


「フェノーゼで良い。偶々巻き込まれただけのようだが、お主も災難だな」


 おう、同情されてしまった。

まあ、傍から見れば貧乏くじ引いたようにしか見えないのかもな。

こっちとしては当ても無く一人で探すよりずっと楽なんだが。


「いえ、実際にアレを見れば知らない顔は出来ませんよ」


「そうだろうな。あんなモノを堂々と使うような奴らなど……」


 彼は言葉を切ったが続く言葉は想像できる。

必要無いとか滅びるべきだとか、そんな感じだろう。

やっぱ怖い爺さんだな。


「フォーモルの残党に関してはこちらも調査はしていたのだ。だが、有力な情報は無かった。いや、正確には気付けなかった」


「情報はあったという事ですか?」


「ラーマスは奴らが遺跡に潜んでいる可能性を疑っておる。そして調べてみると攻略者不明の遺跡がかなり存在するのだ。遺跡調査には莫大な予算とリスクが付物だ。故に国や都市、あるいは大規模なギルドでもなければ攻略は難しい」


「なるほど、そういった勢力が関与していないケースがある、と」


「そうだ。そして攻略できたとしても、次は回収した技術やアイテムの解析が待っておる。全てを単独で行える者など我らセネリア、いや我が孫くらい。現実的ではない。通常は専門家と情報をやり取りして解析する」


「う~ん、フォーモルの残党にそんな力があるとは考えにくいですね」


「そうだな。だが、新たに力を得た可能性は0ではない。冒険者なら解るな?」


 冒険者の夢。

それは成り上がり、一攫千金。

もし、落ち延びた残党が偶々遺跡を無事に攻略できたとしたら?

そこで偶然、とんでもない技術を手に入れたら?

絶対に無いとは言い切れない。


「さて、事情は分かった。協力しない訳にはいかないだろう。だが、」


 現在、俺は丸腰だ。

槍は預けたし連れているのもフェイとリーフだけ。

見た目だけなら彼らはマスコット、強そうには見えない


「我が孫は我が家だけでなく、この都市の宝石なのだ」


 天井に2人、空洞の柱の中に2人、計4人か。

それなりの実力者だな。

殺気は感じないが、戦意は感じる。

伏兵ならもっと抑えようよ。


「守れるだけの実力がお主には」


 俺の真上の天井がスライドする。

太い柱の隠し扉も開く。

中々ハイテクだな。


「あるのか見せて……何っ!?」


 天井に開いた2つの穴。

それを1つはリーフの結界が、もう1つはフェイの氷の膜が塞いでいる。

飛び降りようとした2人は塞がれた穴の上で棒立ち状態だ。


 柱から飛び出した伏兵2人。

一直線に俺に突っ込んできたが、2体の獣がそれを阻む。

俺の影から飛び出したハウルは伏兵に、カウンター気味にタックルを食らわせた。

鎧はひしゃげ、真横に吹っ飛ぶ伏兵。

死んでないだろうな……。


 同じく飛び出したリンクスは、伏兵の剣を噛み砕いてしまう。

長い尻尾がヒュルリと伏兵の首に巻き付く。

直後、バットのスイングのような勢いで尻尾は振り切られ、兵は真横に吹っ飛ぶ。

首、イカレちゃってないといいな……。


 そしてフェノーゼ氏の眼前には槍が突き付けられていた。

もちろん槍は神槍で、突き付けているのは俺である。

封印でもしてあるならともかく、離れただけなら呼び戻す事など容易い。

そうじゃないと投槍なんてできない。


「いかがです?」


「……十分だ。謝罪しよう」


「いえ、ポッと出の冒険者を信じろっていう方が難しいですよ」


 アレコレ聞きたそうなフェノーゼ氏だったが、そうのんびりもしていられない。

幸いぶっ飛ばした兵士さんは無事だったしな。

お孫さんに向けて紹介の手紙を書いてもらい、屋敷の場所を教えてもらうことに。

個人で屋敷持ちというと、ボンボンめ! とか思うだろう。

だが、実際には屋敷の大半は研究室であり、居住スペースは僅からしい。

ザ・研究者って感じだな。


-------------------------


「あれか、確かに目立つな」


 シリルス氏の屋敷は目立っていた。

何故なら石造りだからだ。

エルフの住居は木材中心の建築様式だ。

森だらけなので石材より木材の方が豊富だからな。

山に住んでるドワーフは石造りらしいし。

 

「ん? お出迎えか?」


 すでに連絡が行っていたのだろう。

正門の前に1人のメイドさんが立っている。

銀色の髪に赤い瞳、そして褐色の肌。

ダークエルフだ。

それもグラマラスな美女。

野郎どもが泣いて喜びそうな、ファンタジードリームの塊だな。


 しかし、彼女のStには非常に物騒なモノが記されている。

職業は【メイド】【護衛】【暗殺者】、称号には【咎人】【血の刃】。

え~、これはあれか? 元凄腕の暗殺者で今は要人の護衛ってやつか。

どこまでもパーフェクトな設定のお嬢さんだな。

いや、1歳未満の俺よりは間違いなく年上だろうけど。


「お待ちしておりました。ディノ様ですね」


「え? ああ」


「お話は伺っております。ご主人様がお待ちです」


 うーん、クールだ。

でも、俺がおかしな行動を取れば、一瞬にして猟犬に早変わりするだろう。

あのメイド服も無数の暗器が仕込まれてるみたいだし。

今も目は向けていないが気配察知で俺を監視している。

兵士の警備を突破しても、最後に待ち受けるのは凄腕のカウンターアサシンか。


「こちらでございます」


 案内されたのは応接室だった。

広いには広いが貴族の屋敷ほどではない。

妖精族の感性か屋敷の主人の方針か。


 だが、飾ってある調度品は趣味の良い物ばかりだ。

帝国の貴族の金ピカのガラクタ箱とは大違いだな。

ソファを進められたので大人しく座って待つことにする。

メイドさんは主人を呼びに出て行ってしまった。

俺が泥棒だったらどうするんだよ。

……あ、殺される?



「お待たせしました」


 エルフの芸術品を鑑賞していると、クールなメイドさんが戻ってきた。

相手はハイエルフの王子様みたいなものだ。

失礼にならないようにって、あれ?

ハイエルフ? じゃないのか?


「初めまして。祖父から連絡は受けています」


 穏やかに微笑むのは、まだ少年と言ってもいい外見の青年。

その髪は緑、瞳も緑。

ハイエルフではありえない色だった。


 エルフは金髪に青眼、ダークエルフは銀髪に赤眼、ハイエルフは白金髪に緑眼。

有りえないはずの森緑の髪の彼は一体。

戸惑う俺に青年、シリルスが笑いかける。

彼にとっては恒例の反応なのだろう。


「驚くのも無理はありません。僕の種族はハイエルフではないんです。僕の種族はエリフィム、アールヴの末裔にしてエルフの祖先。僕は非常に稀な先祖返りなんです」


 妖精種は全て古妖精アールヴの末裔。

だが、いきなりアールヴからエルフやドワーフなどに枝分かれしたわけではない。

エルフ族の祖先にしてアールヴに近き妖精種。

それがエリフィム。


 だが、先祖返りでエリフィムが生まれる確率は、数世代で1人程度らしい。

代わりにエリフィムはハイエルフ以上の魔法適性を持つ。

今この大陸に公式に存在するエリフィムは彼1人。

フェノーゼ氏が過保護に守ろうとするのも納得であった。


「では、お話を……と、その前に。メリア」


「はい」


 ダークエルフのメイドさん、メリアさんが退室してしまった。

え? いいの? 護衛なんでしょ?

困惑する俺をよそに、シリルスは真面目な顔で語りかける。


「最初に一つお願いがあります。貴方にとっても有益な事です」


 そして気付く。

彼から極僅かに漏れ出す力に。

それは紛れも無くギフトの邪気だった。


と、いうわけで転生者はシルリス君でした。

バレバレでしたが。


次回、彼の事情が語られます。

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