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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第3章 妖精大陸探索編
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爺馬鹿と孫

「執政官の一族、セネリア氏族ね……」


 大都市『ロスト・イリジアム』への道中。

俺は馬車に揺られながらギルドマスターの話を思い出していた。

流石に大都市を結ぶ道はきちんと整備されている。

両側には魔物の侵入を防ぐ結界が設置されていて、まるで森を貫く高速道路だ。


 馬車や荷車もかなり見かける事が出来る。

ほとんどが護衛付きなのは主に魔法生物対策らしい。

森に数多く存在する遺跡には、防衛装置として魔法生物が配備されている事が多い。

ゴーレムとかパペットとかあの手の連中だ。

そして、こいつらは時々遺跡の外に出てくることがある。

侵入者を追いかけてだったり、単なる不具合だったりと原因は様々だ。


 厄介な事に、こいつらは厳密にはモンスターではないので結界が効かないのだ。

それに結界を物ともしない強力なモンスターも稀に現れる。

魔獣などが妖獣化したものなどがこれに当たる。

ただの動物が魔獣クラスに変貌するのだ。

元から強い魔獣が妖獣化すれば、その強さは比べ物にならない。


 最も魔獣など元々強靭な生物は歪みに対する耐性も高い。

よって、そう簡単に妖獣化する事は無いのだ。

ただし、なる時はなるので油断はできない。

この国で生きる者達は知っているのだ。

金や労力をケチると命を失う事を。

だから護衛を雇う。


 さて、俺はというと小型の馬車をギルドから貸してもらった。

俺は走って行こうと思ったのだがギルドマスターに止められたのだ。

もちろん現実的な理由がある。

俺には、道を利用する馬車の中に怪しいものが無いかを調べる任務も与えられたのだ。


 まさか白昼堂々と思いがちだが、逆に堂々としている方が気付かれにくいのだという。

断る理由も無いので俺も馬車に揺られているという訳だ。

幸いと言うべきか怪しい馬車は見ていない。

『爛れた牙』が積んであれば、目視しなくても気付けるから見逃してはいないはずだ。


〈長閑ですね~〉


〈……〉


 ちなみに馬車はハウルとリンクスが交代で引いている。

テイムした魔獣に馬車を引かせるのは、そう珍しい事では無い。

実際に俺以外にも何台か見かけた。

今引いているのはハウルで、リンクスは馬車の中で寝ている。


 俺は御者席に座っているが、やる事は全く無い。

ハウルは道なりにずんずん進むし、魔法生物が現れても苦も無く倒してしまうからだ。

暇な俺の頭の上には小型化したフェイが乗り、膝の上にはリーフが同じく暇そうに丸まっている。

森という場を考えると今回のミッションに適任なのは彼らだろう。

シザー? 100m歩く前に駐留所から騎士団が駆けつけるわ。


 まあ、何だかんだでこっちの世界に来てから忙しかったしな。

こんな時間があってもいいだろう。

余談だが、リーフはフェイの口調が非常に苦手だ。

彼にトラウマを植え付ける事になった主犯、某妖精アバターのお姉さんを思い出すからだ。

もしかするとフェイは、本当に彼女の口調を参考にしているのかもしれないし。



 さて、ギルドマスターから聞いた現地協力者の情報をおさらいしよう。

手紙の相手はハイエルフの一族セネリア氏族の当主だ。

ギルドマスターより高齢で、外見が初老に見えるほどの古株らしい。

執政官の職はもう息子に譲って隠居しているそうだが、その影響力はまだまだ大きい。

都市の乗っ取りを目論んだフォーモル氏族さえ、直接手を出す事を避けたというのだから相当だ。


 そのダークエルフの動乱ではフォーモル氏族の要求を突っぱね、内政派閥の中立を守り抜いた。

公式にはそういう事になっている。

だが、当事者でもあったギルドマスターは知っていた。

セネリアの当主が数百年を生きた怪物であることを。


 彼は『ロスト・イリジアム』と己の一族に仇なす者を放ってはおかない。

時間をかけて自身は動かず中立でありながら、周囲をゆっくりと動かしてフォーモル包囲網を構築したのだ。

イルダナ氏族の残党を遠回しに援助し、エルフ以外の妖精族をそちらに付けた。

そして最後の最後で全てのカードを切り、戦力差を覆した。

恐ろしい謀略家だ。


 彼はフォーモル氏族を生かしておく気が無かった。

合法的に犯罪者にしてしまうと裁判が必要になる。

そうなると無罪になる者も出るだろうし罰金で済むものも出る。

全員が死刑になるはずも無く、刑期が終われば出所する。

そして同じことを繰り返すか報復に出ただろう。


 だからイルダナの長男が証拠集めをしている手助けはしなかった。

妨害まではしていないが、フォーモルを滅ぼすための裏工作に専念した。

そして、進退窮まったイルダナが蜂起したところで便乗した。

結果、目論み通りフォーモルの99%を討ち取った。

……ホントにこの人に協力を要請していいんだろうか?


「遺跡調査の第一人者か……」


 そんな妖怪としか思えない当主にも弱点がある。

それは、まだ若木(ハイエルフは幼子をそう呼ぶらしい)と言っていい若さの孫の存在だ。

フォーモル氏族を潰そうと決心したのは孫が巻き込まれる事を危惧したから。

そんな噂が裏で表で囁かれるほどの溺愛っぷりらしい。

で、その孫が当の遺跡研究者なのだ。


 プロフィールだけ聞くと貴族のボンボンを思い浮かべてしまう。

しかし、その孫の能力は本物らしい。

戦闘面では秀でていないが、元よりセネリア氏族は文官一族だ。

その頭の回転と柔軟な発想は、いくつもの遺跡の謎を解明してきたらしい。


 さらに魔法に関しても極めて優秀。

解析、探知など遺跡調査に必須の魔法を個人で揃え、魔力量も一級品。

都市の公的な研究機関のエースを張っているのだとか。


 年上のハイエルフの令嬢の婚約者もおり、将来の栄達は完全に約束されている。

さぞ嫉妬や逆恨みに曝されているだろうと思いきや、そうでも無い様だ。

人当たりが良く穏やかで、インテリ特有の神経質なところが無い。

完璧超人かと思いきや、私生活は結構隙だらけ。

その辺のギャップも魅力らしい。


 ……おい、ギルドマスター、あんたも爺馬鹿の1人かよ。

知り合いの孫の宣伝してんじゃねえか。

あ、そういや本人は独身か。


「って、どうでもいいわ!」


〈?〉 


〈マスター何騒いでるんです~〉


「いや、すまん。なんでも無い」


 考えてみるとヤバイかもな。

謀略の鬼に溺愛する孫を貸してくれって頼みに行くんだろ……。

しかも目的は犯罪者の捜索。

遺跡調査はその手段でしかない。

孫を危険にさらす気か! とか怒られないと良いが。


「シリルス・セネリアか……」


 それが噂の孫の名前。

彼に関しておかしな話は聞かない。

転生者ネットワークでもハイエルフの参加者はいなかったはずだ。

だが、気になるのだ。


 アールヴ時代の古代遺跡の調査が難航しているのは、いくつかの理由がある。

その内の一つが、明らかなオーバーテクノロジーだ。

この剣と魔法の世界であるハノーバスに不釣り合いな技術。

動力や原理は魔力や魔法だが、理論や構造が妙に科学的なのだ。

まるで科学技術を魔法で再現したように。


 これに関してはもう推測する事しかできない。

だが、アールヴ文明は急速に発展し唐突に滅びた。

その経緯を考えると転生者や転移者の存在を疑わざるを得ない。


 個人が水準を押し上げた文明は、しかし大衆が継承する事が出来なかった。

その結果が文明の崩壊だったなら、その個人はアールヴ族にとって滅びを齎した存在と言えるのかもしれないな。

っと、脱線したな。


 要するにアールヴ遺跡を解析するには科学的な知識や発想が必要なのだ。

シリルス・セネリアがそれを持っているのなら


「彼も転生者なのか?」


 だとしたら、なぜ他の転生者と距離を置く?

ギフトを使って派手に行動しない?

調べた限りでは、彼の能力は自前の才能と努力による物ばかり。

ギフトの様に不自然な形跡が無い。

リスクを恐れてギフトを使っていないのか?


「ま、会って見れば解るか。まずは爺馬鹿のお祖父ちゃんからだけど……」


 俺にとっては暴力よりも謀略の方がよっぽど怖いからな。

面倒くささがケタ違いだし。

あー、気が重い。



セコイアとトネリコでセネリア。


次回、妖怪爺との対決。


公私混合良くないよ? お爺ちゃん。

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