英雄の帰還
カリスに乗って飛翔するフィオ。
彼は帝国の首都に向かう途中、何度も寄り道をした。
村や町を見掛けては様子を見てみたのだ。
浄化の権能を与えられたフィオは、歪みを浄化し自分の力に変える事ができた。
そして、魔眼は歪みを視認する事ができる。
そんな彼の眼には悲惨な現状が映し出されていた。
町はまだいい(あくまで村と比較すればの話だが)。
問題は村だった。
「搾取されつくした搾りカス」とでも言えばいいのだろうか。
歴史の授業で習った飢饉の様な光景に、思わず立ちすくんでしまう。
餓死者の怨念が渦巻き、人々の嘆きが満ちた空間。
浄化しても一時しのぎにしかならない。
根本的な解決にならないのだから。
富むのは一部の権力者。
生活できるのは中央の民。
残りは搾取の対象。
人が足りないなら奴隷を使う。
その結果がこれだった。
「異世界人達はこの現状を知ってんのかね……」
まともな人間なら何とかしようと思うだろう。
少なくとも協力の仕方を考えるはずだ。
無条件に協力するなど、まずあり得ない。
まあ、情報操作されてるのだろうが。
空の旅は憂鬱なものになっていった。
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「ん? あれは……」
あっちこっちに寄っている内に国境の近くに来てしまった。
すると、そこで結構大規模な戦闘が行われていた。
数は帝国軍の方が多い、というより聖教国軍は撤退しようとしている。
「ちょっと見ていこうかな」
一度カリスを送還し、姿を隠したまま戦場に近付く。
死体を見ても特になんとも思わないか。
うーん、好都合だが複雑な気分だ。
完全に人間やめてるな、俺。
ふと、足元の死体の持つ杖に目が行く。
これって銃か?
ちょっとバラしてみる(腕力で)が、火薬なんかは使っていないようだ。
先端に行くほど細くなる筒みたいになっている。
実際に撃ってみようとすると効果が解った。
これは収束機能に特化した杖なのだ。
例えば直径1mの火球を10cmまで圧縮する。
すると、速度が上がり距離による威力の減衰が少なくなる。
着弾すると元のサイズに戻り、その際に衝撃波が発生する。
実はこれ、上級者が使うバレットの能力だったりする。
だからRWOでは後半でも、初期魔法のバレットが結構バカに出来なかったのだ。
こちらでは高等技術の様だな。
しかし、このデザイン。
技術系の異世界人の作品か?
装備は鉄がメインか。
鋼鉄は高価なのかな?
それとも作成技術がまだないのか?
良く解らんな。
色々調べながら前線に向かう。
何時の間にか、軍のぶつかり合いは止まっている。
そして、2つの軍の中間では2人の男が戦っていた。
決闘かな? 勝敗の決まった戦いで一騎打ちとは帝国側は余裕だな。
ST的には片方は下の中、もう1人は中の下ってとこかな。
ゲームじゃない現実でこの身体能力は大したものだ。
しかし、差が大きい。
こりゃ、直に勝負はつくな。
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ガキィ ギィン
「ぐっ……」
剣を交える2人の青年。
雷を纏う剣を振るうのは、帝国の「英雄」マイク。
業物だが普通の鋼の剣を振るうのは「聖教国天翼騎士団第2部隊長」ウェイン。
技量はほぼ互角だが、武器と身体能力の差がウェインを追い詰めていた。
数日前に勇者隊が所属する第1部隊が撤退し、昨日第3部隊も撤退した。
殿たる自分達第2部隊が時間を稼がなくてはならない。
しかし、奮戦むなしく第2部隊も追い詰められた。
そしてウェインは苦し紛れに一騎打ちを申し込んだ。
すると、意外な事に帝国側は応じたのだ。
最強の手札である英雄が。
「マイク様、貴方は……」
ウェインは10年前の悪魔討伐戦の経験者だ。
当時は一般の騎士だったが、当時の記憶は鮮明だ。
凄惨な戦いだったが、聖教国と帝国が手を組んだ奇跡の様な戦いだった。
「なぜ、戦うのです!?」
当初は聖教国の勇者たちが中心に戦っていたが、主導権を握りたがった帝国は異世界召喚を使用した。
そして召喚されたのは金髪碧眼の少年だったのだ。
戸惑いながらも、傷つく者たちの為に剣を取った少年。
怯えながらも必死に戦った少年。
「帝国に正義など無いのに……」
悪魔が討伐され、人々は2国が手を取り合うと信じた。
実際に和平交渉が行われ、締結された。
しかし、2年前帝国は聖教国へ突然攻め込んだ。
青年となった英雄を先鋒として。
「なぜ帝国の為に戦うのです!?」
パキィ
遂にウェインの剣が折れた。
衝撃に倒れたウェインの胸に、魔剣が振り下ろされる。
ウェインとマイクの目が合う。
英雄の目は揺らいでいた。
追いつめられた子供の様に。
泣きそうな赤子の様に。
その口がポツリと言葉を漏らす。
「帰りたいんだ……」
ウェインの目が見開かれる。
同時に理解の色が浮かぶ。
ドスッ
次の瞬間、その胸に刃が付きたてられた。
「え?」
ウェインは呆然と見上げる。
胸を槍で貫かれたマイクを。
そして、素手でマイクの魔剣の刃を握って止めた黒コートの男を。
その男の握る豪奢な槍を。
「いいだろう」
男が何かを呟くと「英雄」マイク・ハワードは消えた。
後に残ったのは男と男の握る英雄の魔剣。
そして、混乱するウェインだけだった。
次はマイク氏の視点の予定です。
彼も被害者なんですよね。
誘拐の。




