毒入りのお茶会はいかがですか?
甘いアプリコットに、刺激的なジギタリス。スパイダーリリーはちょっと危険な薫り。スノーフレークはくらくらするような妖しさが魅力的。
「あぁ、幸せですわ」
色彩鮮やかな毒が植えられた温室で、わたくしはほぅっと息を吐きました。
わたくしは今、作業用のシンプルで実用的な黒いドレスを身につけ、薄い手袋をはめて、趣味に勤しんでいる最中なのですわ。
「アルカロイドをたっぷり含んだ毒…………なんて甘美な響きですの!」
含み笑いが隠せませんわ!
ちなみにアルカロイドとは、有毒植物に含まれる、窒素を含んだ有機物のことですの。
医療にも、暗殺にも使える優れものですわ。
ふふふ、今日のお茶会でお出ししようかと思いまして、こうしてわたくし直々に採取しにきたのですわ。
そう、言い忘れておりますたけれど、今日、この温室で継母殿とのお茶会があるのですわ。気分はのりませんが、そこは王女ですもの。
割り切っておりますわ。
しーかーしー、頭では分かっていても、心では納得できないのが、人間というものでしょう?細々とした細工はさせていただきますわ、勿論!
が、一筋縄ではいきませんのね…………わたくし、唯今それを痛感しておりますわ。
「…………継母殿?」
「なんですか、リディアナちゃん。ママと呼ぶ決心でもつきましたか?」
「いいえ、違いますわ」
「ではなぁに?」
「これ、なにかいれましたわね?」
のんびりとした口調で話す継母殿に、わたくしは琥珀色の紅茶の注がれたカップを指差しながら、言いました。
ふふふ、侍女は騙せてもわたくしは騙せませんわ!
「あら、ばれましたか・・・・・・残念」
優雅に紅茶を口に含みながら、継母殿は首をわたくしを見て残念そうに、言いました。
「なんの媚薬ですの?」
「“妖精の悪戯”です」
なんて厄介な!
妖精の悪戯は、媚薬の中でも即効性と持続性に優れ、一度含めば、妖精の悪戯か運命のようにただその相手だけしか見えなくなるという一品ですの。
「なぜそれを継母殿が持っていらっしゃいますの?」
ですが、それと同時に貴重で手に入りにくいものでもありますの。一国の王妃といえど、それは同じですわ。
いぶかしみながら、聞けば、その答えは別の方向から聞こえてきました。
「それはね、私がお義母様にそれをお渡ししたからですよ」
あぁ、また厄介なことになりましたわね…………!
わたくしは、颯爽と現れた人物を見て、天を仰ぎ嘆息しました。
やっと出てきた王子様。
まだまだ、継母殿の企みは続きます。