鏡と王妃
王妃様サイド。
鏡のターンもきました。けれど、王子様はまだ。
「鏡よ、鏡。世界で一番美しいあたくしの娘はだぁれ? もちろん、リディアナちゃんですよね?」
あたくし、リディアナ・リア・スノーホワイトの継母となりました、ルティカ・スノーホワイトです。
現在、魔法の鏡とお話(脅迫)しています。
『あ、あぁ! リディアナちゃんであってるよ!毎回毎回脅さなくても、あれほど俺の好み…………いや、おめがねにかなう娘なんていないし!』
「そうですよね?ならばいいです」
安心しました。あたくし、実は可愛いもの、美しいものが大好きなんです。
結果として、自身の容姿も好きなことになりますが…………それのさらに上をいくのが、リディアナちゃん。
可憐で、清楚。なのに毒が好きというギャップがまたいいのです。
「あたくし、国王陛下と結婚できて、幸せです…………!」
『それ、娘目当てで結婚した、アブナイ女に聞こえるからヤメロ。鏡と話してる時点で、結構ヤバいんだからなー』
失礼きわまりないですね!
「あたくしは、陛下のあの可愛らしい童顔も愛しています!」
『結局顔…………?』
薄暗い、紫の紗のかかった部屋の中央においた鏡は、表情こそないものの、光もないのにユラユラと水のように輝きます。
あたくしが譲り受けた、“真実の鏡”。
それに数年前、初めてあたくし以外の人間が写ったことに、初めは激怒しましたが、そこに写っていた少女のあまりの可愛さに、怒りなんて忘れました。
それほど可愛らしかったです!
「そんなリディアナちゃんには、幸せになって欲しいのですが……」
『なんで?』
「勿論、幸せに笑っていたほうが可愛らしいですし、恋する乙女ならばなおイイです!」
『……』
女の子が一番輝くのは、恋をして、幸せな結婚をした時ですから。
だから、幸せになって欲しいのです。
それに、あたくしが初めて愛し、結婚までこじつけた陛下の…………陛下そっくりの継子ですもの。
可愛くないはずないです。
『要するに、娘大好きってことか』
「そうなりますね」
だから、可愛い娘の結婚相手を見つけようと、日々頑張っているのです!
この間は、媚薬を送ってみました。
そのあと、王子様との運命の出逢い! を設定していたのですが、失敗したようですね…………
王子様は案外ヘタレとみました。
けれど、諦めません。
「恋に落ちた二人。だけど、それは媚薬のせい! 悩む二人はやがて、真実の愛に目覚めるのです!」
『おーい、戻ってこーい。その媚薬の時、設定してた相手は死体愛好者の噂がある王子様だから! 生身の人間相手は無理だから!』
「障害があったほうが、恋は盛り上がりますの……!」
そう、愛の試練です!
恋に、試練は必要でしょう?
媚薬から始まって、愛してしまったのに王子様は、死体愛好家。きっと生身じゃ愛してくれない、なんて悩むリディアナちゃん。
そんなリディアナちゃんの悩みや葛藤を見た王子様は、死体だとか生身だとか関係なく愛していると言ってリディアナちゃんを包み込むのです。
素敵でしょう?
『いやいや、王子様の死体愛好家ってのは噂じゃなくて、滅茶苦茶引くレベルだったあげくに、リディアナちゃんに愛しているから死んでとか言ってたよね』
「そこはマイナスポイントですね」
『いや、それはなんか違うから』
鏡の分際で、鬱陶しいです。
「どこが違うのか、簡潔に延べて下さい!」
『全部』
「くぅっ!まとめすぎですよ!」
鏡相手に不毛ですが、話続けます。
可愛さを
とにかく、リディアナちゃんに恋愛は必須なのです。あの可愛らしい容姿を次代に…………っと、本音が出てしまいました。忘れて下さい。
毒が好きなリディアナちゃんのこと、放っておけば一生涯毒だけで終わってしまいます。えぇ、確実だと断言できます。
継母ですもの。
だからあたくし止めはしません。承諾してくれるまで、恋のスパイスと理想の(?)王子様を送り続けます!
『間違ってる…………』
鏡の声など無視です。無視。
所詮、鏡は鏡ですからね。そんな鏡は、リディアナちゃんの美しさとかわいさを認めていればいいんです。
かくして、あたくしのリディアナちゃん理想の王子様との運命の出逢い大作戦は、幕をあげたのです!
絶対に、勝ってみせます!
妙な使命感に燃えながら、あたくしはスタートダッシュをきりました。