序章
昔々、ある王国に、毒姫と呼ばれる姫がおりました。
「ふふふ・・・笑いが止まりませんわ!なんてお馬鹿な方でしょう」
高らかな笑い声と共に、わたくしは手の中の林檎を弄びました。
林檎の中には、遅効性の媚薬。
毒々しいほどに真っ赤なそれからは、明らかに林檎のものではない、甘ったるい香りがします。
「継母殿も学習いたしませんわね」
これで何度目でしょう。継母殿から“毒”が送られてくるのは。
わたくし、この国の王女である、リディアナ・リア・スノーホワイトですわ。
その父である国王が再婚したのは、ついこの間のこと。わたくしが、16歳になった頃でしたの。
妖艶で、美しいプラチナブロンドの継母殿は、わたくしと同じ漆黒の瞳と長い髪の清楚で、可憐なお母様とは正反対の美女でしたの。
まぁ、複雑でしたけれど、反対はしませんでしたわ。
わたくしの趣味さえ理解してさえくれれば、あとはどうでもよろしいのですもの。
「わたくしの、毒と戯れる時間さえ邪魔をしなければよかったものの・・・・・・」
なにをとちくるったのか、縁談なんて・・・。
わたくしは、毒の開発と研究をできればそれでいいと言っておりますのに・・・・・・。
周辺国の王子の姿絵を見ているより、トリカブトやジギタリス、アトリンなどの毒素を抽出しているほうが、よっぽど有意義ですのに、継母殿もわかっておりませんわねぇ。
実際、送られてきた林檎に仕込んであるのは、毒は毒でも、速効性のある媚薬。
継母殿は、なんでもわたくしに恋を知り、幸せになって欲しいらしいのだそうですわ。
妖艶な顔とスタイルに似合わず、夢見がちで、天然がはいっていらっしゃるの、継母殿は。
あれですわ、見かけ倒しというやつですの!
けれども媚薬から始まるものなんて、まっとうな恋愛ではないのは確かなので、ずれてるとも言いますわね。
けれども毒の愛好家に、毒を送る辺り、つめがまだ甘いのですわ!
「目には目を、歯には歯を、毒には毒を!」
思い知らせて差し上げますわ! 媚薬だって、使いようによっちゃ毒にしかならないのですから!
そこのところを、夢見がちでずれている継母殿に教えて差し上げないと、わたくしの理想の生活が壊されてしまいますもの。
かくして、わたくしと継母殿の攻防がはじまったのです!