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第0話

 今日、妹が死んだ。






 いきなりそんな暗い話をしなければいけないのはなんとも心苦しいし、誰もそんな話を望んでなんかいないだろうが、どうかどうか聞き入れて欲しい。

 これは、ある種の罪の告白であり懺悔なのである。

 いや、それでもやはり、これは俺が俺に対して展開する、自己満足によるものにすぎやしないのだろう。

 愚かな失敗を繰り返した救いようのないこの俺、国友徳利の告白なのである。


 出来ることなら俺にしたって、こんな誰も得もしないし気分だけが憂鬱になるような、憂鬱な気分を他人に押し付け無理矢理強要するような真似はしたくはないのだが、これからの俺の失敗の物語を騙っていくに際してどうしても必要な一番始めの大失敗なのだ、赦して欲しい。


 その物語にしたってこれもまた、懺悔にさえなりはしないかもしれないのだが、何もせずに終わることはできやしない。


 鼻で笑って、一笑に付してもらってくれてもいっこうに構いやしない。

 むしろ、こいつはなんと愚かなのだと蔑みながら、こうはならまいと反面教師にするつもりで見ていくのがいいのかも知れない。


 同じ過ちを、誰かに繰り返してもらいたくはない。

 人間は知ってさえいれば、過ちを繰り返したりしないと信じている。


 それでも俺と同じ道を通る人がいるなら、気をつけてくれ。


 その選択肢は何より過酷なのだから。


 血反吐すら吐けないほどに、気が付いたら身動きひとつとれなくなってしまうだろう。

 最初は希望に見えたところで、結局最期には裏切られてしまうのは、世の常だということを忘れてはならない。


 すがりついて救い上げられることはあまりにも期待できない。


 ただ。

 可能性はゼロではなかったとだけは、本心から皆に教えることが出来る。


 残酷な現実ばかりが全てではなかったのも、これまた事実だ。


 それでは、前フリが少し長くなってしまったが、プロローグを語り始めよう。


 六月六日のその日は、実に梅雨らしくジメジメと、そしてシトシトと夏の到来を予期させるような雨が朝から降っていた。


 最早それが梅雨の義務であるかの如くもう一週間もの間、二十四時間無休体制で一睡もすることなく雨が降り続けているのは、さすがに俺でなくとも辟易してしまう。

 梅雨にも労働基準法が適応されればいいのに。

 雨雲だっていい加減酷使されすぎて、過労死寸前にまで追い込まれてしまっているはずだ。

まったく、政府は何をしているのだ。


 俺でさえそうなのだから、洗濯をする主婦や主夫の皆様の怒りはそうとうなもの、怒髪天を衝く勢いだろう。

 それとも、プロの洗濯家にでもなると梅雨との闘いかた、戦争のしかたも自然に身につくものなのだろうか?

 俺は雨が降って体調が悪くなるだとか偏頭痛がするだとかはしないし、むしろ何時もより調子が良くなったりするのだが、日本人の多くがそうであるように、傘を差さなくてはいけないというあまりにもありきたりすぎて、平凡さが滲んでくるような理由で、雨が嫌いだった。


 雨にネガティブな感情を抱いたり、雨が降ると人間が傘を差したりするのは、雨が人間の汚れた心を無理矢理にでも洗い流してしまうからでありその暴力性のために人間は雨を嫌うなんて、それこそ思春期の少年たちが考えるような中身もなければ意味も不明な詩的表現をしてみたものの、フツーに言い訳にしか聞こえない。

 高温多湿が嫌いな、ただの十七歳の高校二年の男子生徒の精一杯の言い訳である。


 天の恵みに対してそのような感情を抱いて無意味に反発してしまうあたりで、俺の人間性のしょぼさが伝わることだろう。

 俺は普段どおりの通学路を、普段どおりのルーティン(と言えば聞こえがいいだろうが、変化のない日常を送っているだけ)で、普段どおりに学園へ向かっていた。

 学園に着くまでの道のりは、なだらかな上り坂になっているため、水が高い方から低い方へと流れていっている。

 俺は何時から長靴を履いて雨の道を歩くのを辞めてしまったのだろうか。

 あの頃は、雨を楽しんでさえいたようなしないような………。


 まばらではあるが、同校の生徒や葵の中学校の生徒も傘を差しつつ登校しているようで、結構カラフルな感じの傘が多いため賑やかに感じる。


 しかし、そこでたいして教科書やらが入っていないカバンがいつにもまして軽いということに疑問を覚えた。

 傘で片手がふさがってしまっているため、太ももを地面に対して水平にしることにより、台を作ってその上にカバンを置いて中身を確認してみる。


 しまった・・・弁当を忘れちまったか・・・。


 まあ、しくじったとしか言いようが無いし、言い訳の一つも思いつかない。


 弁当はいつも共働きで忙しい両親の代わりに、妹の葵が作ってくれているのだが、この状況ではあいつの存在が厄介になる。


 国友葵・十五歳の中学生にして職業は俺の妹。

 背は中学三年生女子の平均ど真ん中で、家族のよしみでしょうがなく褒めてやると、かなり可愛い系の女の子である。

 スイミングスクールに通っていたため、髪の毛は塩素によって色素が薄くなったような茶髪ではあるが、それが健康さと明るさを演出している。

 誰に対してもフランクな性格(目上にもフランクなのだが何故かウケがいい)。

 極めて自然に人の輪の中心に居座るタイプのカリスマを有している。

 あとは、兄に対する敬いがでてきてくれさえしたら完全版妹と言えただろうが、残念ながら備わっていないようだしこれからも備わる予定は皆無らしい。


 俺が高校生になってからだから、かれこれ一年以上毎朝毎朝学校がある日は創作活動に励んでいるわけで、時間に比例するように、それなりに上手くなっている。

 そこまでしてくれるなら、もう少し兄を尊敬して欲しいと言ってやりたいが、言ったら二度と作ってくれなくなりそうなので、言い出せない。


 そして、葵曰く、


 「妹の作ったお弁当を食べるのはおにいちゃんの義務だよ。だから感謝していますぐ土下座しつつ感涙の涙を流しつつあたしの靴をなめつつあたしに年貢を納めなさい」

 だそうで、俺としてもおいしくいただかせて頂いているし、実際に感謝と土下座までは実行した。

 つーかやらされた。

 俺の尊厳を完璧にへし折った挙げ句、二つで許してあげたんだから、とそのことにまで感謝させられたうえに金品まで要求してきやがった。

 どんな妹だ。

 やることなすこと両極端すぎて、どうしたらいいのか露ほども分からない。


 帰ったら文句言われそうだなあ・・・。

 かといって今から家に取りに帰る訳にも行くまいし・・・。


 妹の愛兄弁当(?)をわすれるなど、お兄ちゃんの沽券にすら関わってきてしまうことを、まさか世界一のお兄ちゃんを自任しているこの俺がしてしまうなんて・・・、まさか組織が裏で手を引いているのだろうか?などと、自己弁護を展開していると。


 ふと。

 ズボンのポケットからバイブ音が聞こえた。どうやら、携帯にメールが届いたようだ。

 俺はすぐに、携帯を開いてメールの中身を確認したところ、それは葵からのメールだった。


 『おにいちゃんお弁当忘れてる!!今から届けに行くから待っててよね!!待ってなかったら・・・明日のお弁当のおかずがおにいちゃんの挽き肉ハンバーグだからね!!』

 あいつは常日頃から、ややテンションが高めではあるが、メールや電話などの媒介を通すとさらにテンションが上がっていく。

 メールはまだいいが、電話越しにあいつと話をすると堪ったものではない。


 うざいなあ。

 まあまあしかし、どうやら葵が弁当を持ってきてくれるようだ。

 ここだけ切り取ると、本当に良く出来た妹である。


 妹だからこそ今の関係があるとはいえ、妹じゃなかったらどんなことをしても俺の義妹にしていただろう。

 しかし、あの妹は嘘も冗談も照れ隠しもしない性格だから、ヤルと言ったことは必ず殺るのでここで忠告を無視した場合、明日のお弁当には、人類史上稀に見る猟奇的なおかずがラインナップに並ぶ弁当が出来上がることになるのは、間違いようのない事実だ。

 果たしてそのお弁当が誰に差し出されるのかも甚だ気になるところだろう。

 まさか、例の彼氏君に渡すのだろうか(昨今の女子中学生がそうであるように、葵にもごく当たり前のように彼氏がいるが、まだ彼は葵に手作り弁当は振る舞われていないらしい。ざまあみろ)


 いくら俺の学園とあいつの中学が近いからといってわざわざ届けにきてくれるとは、俺もなかなかに幸せ者だと思う、いや思い込もう。

 中三にもなって未だ兄のためにわざわざ早起きしてまで弁当を作ってくれる妹も珍しい、というかプレミアがつくぐらいの希少価値があると言えよう。


 それとも餌付けされているだけなのかもしれない。

 だとしたら俺はどういった見返りを求められるのだろう?


 そうこうと、取り留めもなくシスコンと勘違いされかねないような危険なことを考えているうちに学園へと続く大通りへと出た。


 ………いまさらだけど、学園学園と多くの小説やらなんやらで言っているが、そもそも学園と高校の違いってどこなんだ?

 中高一貫や幼稚舎がある学校を学園と呼ぶのだろうか。

 いや、それなら普通に附属と付ければいいだけじゃなかろうか。

 それとも附属には附属で、また別の意味が存在しているために分けて考えられているのかもしれんな………。

 うーん。

 テレビとかに出ている学者たちの言うように、語彙力の乏しい俺では見当もつかないのが口惜しい。

 葵ならそういう知識を溜め込んでいるから正しい回答をしてくれるのだろうが、そんなことを俺の口から尋ねようものなら、鬼の首を取ったように馬鹿にされるのは目に見える。

 あいつは俺を馬鹿にしたいがために、無駄知識をどこからともなく吸収しているのだ。

 いや、ホントに。

 だってあいつの口から聞いたことだもん。


 さっきからずいぶんゆっくりと歩いてはいるが、流石に葵が追いついてくる気配はしない。

 この辺りでストップしておこう。

 まだ死ぬわけにはいかないのだ。


 俺の目の前の信号は赤。

 俺は十字路を通って反対側の歩道へと行くため信号待ちをしている。

 するとそこに走ってくる人影が左手に見えた。妹だ。

 

 やれやれ、どうやって言い訳をするかな・・・。

 お兄ちゃんは妹の家来だか奴隷だと信じて疑わないあの十五歳の妹をどうやったら説得し、かつお兄ちゃんに奉仕するような非実在的で献身的な妹に改良出来るだろうか、これからの科学の進歩に期待をしていこう、きっと脳細胞を変化させることぐらいできるはずだ、うん。


 などと、そんな人権とは程遠いことを益体もなく考えているうちに葵は近いてくる。


 妹の目の前の信号は青。

 そう、青だったのだ。


 しかし―――――


 「えっ・・・」


 葵の声がやけに新明に聞こえてくる。

 家族にさえ弱みを見せようするのを良しとしない葵が、普段は決して見せないような不測の事態に心底焦るような表情、いや、ようなではなく明らかにそれは焦りの表情を浮かべる。


 葵の右側からはトラックが一台。

 信号を無視して突っ込んできていた。


 事故の際、撥ねられそうになった人は車の動きがスローモーションに見える、否、見えてしまうといった話は良く聞くが、目撃者もどうやらそうらしい。

 今まさに、俺の眼は世界をスローモーションで映し出している。

 雨さえも俺にはマトリックスよろしく、一滴一滴がハッキリと識別できているのに。

 スローモーションのくせに、頭で状況を理解することもできないし、ましてや身体が反応してとっさに葵を突き飛ばして助けるという、今では使い古されてあまり漫画でも見なくなった救助方法までとることができない。


 まるで、神様が台本を用意して、俺達がその『運命』と言う名の台本どおりにこの瞬間を演じているような錯覚さえ覚える。

 それは錯覚なのだろうけども。


 身動き一つとれない俺も。まるで人間を轢き殺すために爆走しているトラックも。

 降り続く雨も。

 そして葵も。

 滞りなく。

 すべてが。

 完璧に。

 そして―――――







 今日、妹が死んだ。

このようなそれこそ、何番煎じだよ!という小説を見ていただいてありがとうございます。

ペーペーの初心者なので、お見苦しい表現があるかもしれませんがどうか生暖かい眼で見守ってください。

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