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誤字をしてきしてくださったまいさん、ありがとうございました!



 白羽の校舎内では、本日最期の授業を学んでいる白鳳の生徒たち。中には天羽もいるが、言わずもがな真面目に授業を受けているものなどいない。教科書は準備しているが落書きで文字が見えない。そんな生徒たちの中に、彼のお目当ての人物はいた。

 退屈そうに頬杖をついて、ボーッとしている、美貌の彼。興味がないのか、天羽とは違う意味で授業を聞いていない。

 そして、その彼を遠い校舎の屋上から双眼鏡で見ているのが彼――月見里聖。



「うーん、やっぱり顔だけは最高なんだよねえ……。完璧を具現化した、みたいな? 性格は本当に最悪、ってか、天羽の番長みたいな……。いや、番長はあのモノクロヘッドなんだけど……」

 いろんな意味でなんとも言えねえ。



 聖は彼を、なんと呼ぶか悩んでいた。初日に永倉が悩んだように、名前ではどれでも呼びにくいのだ。

(取り敢えず法堂先輩って呼んだけど、これから親密になる予定なのに他人行儀すぎるっていうか……。でも行き成り七夜先輩とは、ないよねえ。こういうための呼び名なんだけど……)


 聖は呼び名に困ったとき、自分で相手に呼び名をつけていた。慧はそのままだが、天羽側三年トップの笹本和真の呼び名は、独特な頭の色からモノクロヘッドと呼んでいた。本名から笹本先輩と呼んでもよかったのだが、聖は一度彼(の頭)に嘲笑を浮かべながら言ったことがある。



『ププッ、〝笹本和真〟って! 肉食のくせに笹! まったく本人平和じゃないのに、真とは和とか! 先輩のご両親もよくそこまで真逆の名前をつけれましたよねフハッ!』

 ――しかも、初対面で。



 聖自身も、聖という名前を持ちながらまったく聖者らしくないことを差し置いて、そう言ったのだ。その時の笹本が浮かべた憤怒の表情は、慧がどこからともなく現れて慌てて止めたほどだ。慧は頭脳しか対抗するものがなく、そういった肉弾戦は聖の仕事でいつも割り込んでは来ないのだが、まだ入学したばかりの聖は笹本の怖さを知らなかったため、決死の覚悟で止めに入った。ちなみにそのことを、呑気な聖は今でも知らない。



「やっぱりダメもとで七夜先輩って呼ぶにするかな……」



 聖はそう呟いた。

 あと、誤解のないように言っておくが、まだ聖は双眼鏡から目を放していない。ずっと美貌の彼を見ながら考えていたことである。一時も話していない。初対面が初対面なだけに、素晴らしい執着が見える。


 ちょっと休憩しようかと聖が思っていた時。ずっとボーッとしていた彼、法堂七夜に動きがあった。溜息を吐いた後、ゆっくりと窓の外に目線を向ける。その目線。双眼鏡から覗いている聖の目を、――ハッキリと、目を合わせた。そして、――笑った。効果音がつくなら、必ずニヤリとついていたことだろう。一瞬、目が赤く光った幻覚も見えた。



「え、え!?」



 流石の反応に、聖は困惑する。

 言わなくとも分かるだろうが、聖がいる屋上から七夜のいる教室まで、双眼鏡を用いるまでの距離があるのだ。普通なら気付くはずはない。



「ちょ、冗談だろ。まじ人外……! どれだけ距離あると思ってんだよ!」

 ふざけんな、と叫びぎみの聖。



 見えているのなら、と思い聖は引きつった笑顔で手を振った。まさか冗談だよな、やら、偶然だろ、と思っていながらも目が合ったためにドキドキがとまらない。

 聖の偶然であってほしいという願いが届いたのか、七夜は興味を失ったように目を背ける。だが、ほっと肩を下したのも束の間。

 七夜はもう一度聖の方を向き、眉間に皺を寄せゆっくりと――中指を立てた。

 聖へ向けて、確実に。



「ひいッ!?」



 偶然でないことを確実にされ、聖は驚いて双眼鏡から目を離す。

 見つからない場所として屋上にいた聖は急に怖くなり、屋上から飛び出て行った。その後ろ姿を、一つの人影が見ていたことに気付かずに。






(暇だなあ……)

 七夜は文字通りに暇を持て余していた。

 授業に出てはいるが、まだ習って完璧に分かっているところ。転入二日目でまだ慣れてないと思っているのか、教師はボーッとしながらも聞いていると思っている七夜を注意しない。それどころか振り返るたびにその美貌に惚け、顔を見るだけでも精一杯で名前を呼ぶことが叶わないのだ。


 が。今はそんなこと、七夜にもどうでもいいことで。

(暇だよおお……)

 大事なのはあまりに余った時間を持て余していることである。

 七夜としては、今の時間で寮の部屋の整理をしたいところだが、いくら法堂家が権力あると言っても、そんな小さいことで使ったりしない。使ったら驚きだ。そもそも七夜は家の権力をあまり理解していないため、使う前に出来ないことだと思っている。


(何か楽しいことないかなあ……)

 普通の青春どころか青春をしているかも疑問な生活を送っている七夜が、まるで普通の高校生のようなことを思い始めた。はっきり言ってしまえば、七夜は青春していないのだが。勿論伝説作りならしているが。


 娯楽がないかと、七夜は窓の外を見上げた。少し眩しい太陽が顔を出している。丁度屋上のあたりで、太陽と目が合って睨むように目を細めてしまう。眉間に皺が寄ったが、その後飛んでいる鳥を見て、

(あーいいなあ、俺も空飛びたいなー)

 なんて微笑ましそうに笑みを浮かべる。だが結局、窓の外を見ても娯楽が見つからなかったために、意味がないと視線を机に戻す。

(つまんない……った、?)

 その時、指に痛みが走った。中指から血が出ている。中指立てて傷をみるかぎり、どうやら紙で切ってしまったようだ。隣の榛原に絆創膏持っているかとノート書いて聞き、持っているらしく貰って張って治療する。


(もうすぐで授業終わる……。部屋ってどれくらいかな? 早く終われ……)

 微かに時計を睨む。早く早く、と急かす。

 その様子を見ていた隣の席である榛原正志が、アイツが何したんだよと溜息をついたと同時に目を光らせるのは三秒後のことであった。目線の向こうは、さっきとかうって違いガタガタ震えている教師である。







 放課後。

 それぞれ理由は違うが、天羽も白鳳も、ほとんどの生徒がまだ学園内に残っている。

 一晃もその内の一人だった。と言っても、根が真面目だからという、何か勉強しようとかいう理由で残っているわけではない。毎回、お前が一番問題を起こしているんだから、と教師の永倉に何かを手伝わされるのだ。



「まったく……毎回いい迷惑だ」



 そう苦々しくそう呟いても、答える者はいない。一晃は七夜の前でこそ優しいが、その本性は『右腕』と呼ばれるほどの通り魔ならぬ殴り魔なのだ。二年のトップは伊達じゃない。話しかけられるのは、三年トップの笹本か七夜。そして情報通の榛原に(反応に楽しんでいると言う意味で)聖。あとは三年の笹本の知り合い二人と、聖の従兄弟である慧ぐらいだ。勿論、その中に一晃を扱き使っている当人、永倉も入る。


 天羽の生徒は教師の言うことなどに従わないが、そこは白鳳と天羽の生徒どちらからも人気な永倉の人柄がある。元トップであることで憧れているものもおり、お願いを無視するものは、いないというわけではないが多くはないだろう。一晃も渋々と言っても、手伝うくらいには好意があるのだ。

 ただ、その所為で自分の主人である七夜に会うのが遅れるため、不機嫌なのには変わらない。


 そんな不機嫌な一晃が今向かっているのは、七夜の教室である二組。毎回、来るたびに室内が静かになることに少々呆れながらも、今日も七夜を迎えに行って――そして、怒り狂った。それは言うまでもなく七夜へではなく、日頃から一晃が鬱陶しく思っていた存在への、怒り。



「――――は?」

「だ、だから、その……法堂さんは、慧くんと一緒にもう帰って行ってしまってます……」

 一晃に声をかけられ、可哀想なくらいに震えた七夜のクラスメイトが、そう言った。

「……………………………………は?」

「そそそそれじゃあ、僕呼ばれているので……」



 震えながら、その白鳳の生徒は去って行った。

 その場に残された一晃はと言うと――



「また、アイツかあッ!」



 叫んでいた。それこそ『右腕』と呼ばれた男の顔。凄い形相で一晃が走って向かうのは、言わずもがな、七夜とその他の寮であった。







「わあ……」



 小部屋にシャンデリア。広いベッドがありながらスペースの余りすぎるその部屋は、七夜の目を輝かせるのには十分だった。

 元より七夜はあの法堂家の人間であるため自分の部屋は大きかったが、それよりも目の前の画面であるものに興味があった。



「これ、は……」

「あー、壊したりしないでね。新しいのを買えばいいけど、データとかも消えちゃうんだから」



 七夜が今持っている、それ。それは、世に言うぴーえすぴーなるものであった。

 今まで軟禁状態で外にもろくに出してもらえなかった七夜。その七夜が娯楽にしていたのは、莫大な量の本だった。ゲームを一度見たことはあったが、悪影響なのだと言われ、使ったことは一度もなかった。そんな、(七夜にとっては)凄く珍しいゲーム機を見て目を輝かせる。そんな七夜の様子は分かる人は分かるが、会って一日目の慧には異常に目を輝かせている七夜が何かを企んでいるようにしか思えなかった。



「七夜くん、ベッドどっちがいい? 右が嫌なら変えてもいいよ?」

「……どちらでも」

「本当に? じゃあ僕は左のままだけど、本当にいいの?」

(? ベッドってどっちも同じだよね……? 何かあるのかな)

「あのね、左ならベッドで眠ったままテレビが見えるんだけど……それでもいいの?」

(あ……)



 言われてみれば、そうだ。二つあるベッドでは、部屋の中にあるテレビとの距離と方向が違う。慧の言うとおり、左からなら寝そべりながらテレビを見られる快適があるが、右からはまったく見えない。

 本当なら、七夜も左側のベッドがよかった。寝る直前までテレビが見たい。そんな願望もあったわけで。

 でも、目の前で目をキラキラと輝かせている慧を見て、今更やっぱりそっちがいいのだと、そんなことを言う勇気を七夜は持ち合わせていない。



「………………いいよ」

(ちょっと名残惜しいけど、まあ、仕方ないか)

「――あ、今子供っぽいって思ってでしょ、法堂くん」

「え?」

「まあ、確かに法堂くんからしたら、どうでもいいことかもしれないけどさあ……」

「うん?」

「やっぱり……」

(なんか……、話、噛みあってない?)



 慧と言えば、七夜のことを悪人と見ているため、了承の前の沈黙を呆れと取ったのだが。勿論、七夜にそのつもりはない。本当は嫌だったため、渋々と言った感じが勘違いされただけだ。きっと、その呆れの理由もそんなことか、と思われたと思ったのだ。そして、裏付けるように疑問符のついた言葉が、見事に肯定とされた。



「じゃあ、荷物入れようか。……そういえば、どうして使用人とかに頼まなかったの?」

「…………」

(なんて、答えよう?)



 七夜の寮のイメージは、とても小さなものだった。まさか自分の家じゃあるまいし、個々に与えられる部屋がここまで大きなものだと思わなかったのだ。想像するは小さな部屋。そこはこれからのプライベートルーム。その場所に、ゾロゾロとあまり使用人を入れたくないし、そもそも大人が大人数行き来するのを想像してなんか騒がしくなるのは嫌だった。任せたままでも、終わるまでの時間は暇。そんな理由だったわけだけど。慧は部屋に入ってあまり驚かない七夜を当たり前として受け止めている。

(そのまま言ったら……馬鹿にされるかなあ?)

 ただでさえ、自分は世間知らずだと言うのに。



「……自分で出来ることは、自分でやるのは当たり前だと、思っているから」

「へえ……なんだ、忠犬に何でも任せているのかと思ったよ。案外、しっかりしているんだねえ」

「忠犬……」

「分からない? 真中くんのことだよ」



(マナカくん……あ、一晃のことか)

 七夜は一晃の事を一晃と呼び、その一晃の父のことを真中と呼ぶため、苗字に君付けされた「マナカくん」が一瞬分からなかった。

 その沈黙を、また慧は勝手に解釈する。



「沈黙は肯定なり、ってね。やっぱり君もそう思っているんだね?」

「(!? 沈黙って肯定なの!?)……いや、(別に肯定しているわけじゃないし)違う(か)な」

「……別に貶しているわけじゃないよ? いいじゃないか、犬。そもそも、彼が犬じゃなかったら、何?」

「一晃、は――」

(一晃は、なんだろ……)



 すぐに出てきたのはリスとカンガルー。可愛い小動物。それでいて、頼れる憧れの人。昨日、初めて透に会った時の態度や口調から、ライオンやトラも出てくる。いや、と七夜は首を振る。七夜の知っている一晃は、ライオンのほうに乱暴ではなく、リスのように可愛いだけではない。カッコいい、それでいて乱暴ではなくどっちかと言うと、冷静――。

(あ……)



「ええっと、法堂くん? 真中くんが、なんて?」

「一晃は、狼だ」

「お、狼……。ああ、成程。確かに、法堂くんがいなきゃ一匹狼って感じだしね。――まあ、やっぱり法堂くんがいると忠犬だけど」



 やっぱり譲れないと言った風に慧が言うと、さっさと部屋の外へ出て行った。外には七夜の荷物と共に、事前に頼んでおいた慧のオモチャが届いている。七夜も自分の荷物を取りに行った。







 どうするか。

 一晃は305号室と名前がプレートに書いてあるのを見て、顔を顰める。自分の主人と気にくわないやつが同室とは、名前が並んでいるのを見るだけで不愉快だ。

 いや、今それは関係ない。それよりも一晃が悩んでいるのは、入ってどうするか、というもの。

 月見里慧は従兄弟である一年トップの月見里聖とは違い、頭脳派である。今入って口論で勝てるはずもなく。だが暴力を振るえばいいってことでもない。立場が邪魔しているのが、どうももどかしい。



「――は肯定――、って――。――――君―――思っている――ね?」

「いや、――な」



 さっきから、少しだけ聞こえてくる中の声。慧と七夜の声だ。

 少し躊躇ってから、ドアに耳を当てる。さっきまで途切れ途切れだった声が、ハッキリと聞こえてきた。どうやら、七夜とその他はドアの近くにいるらしい。でなければ、ここまで聞こえたりはしない。



「……別に貶しているわけじゃないよ? いいじゃないか、犬。そもそも、彼が犬じゃなかったら、何?」

「一晃、は――」



 途中から聞いた一晃には、何の話題か分からなかったが、大体この二つで予想は着く。犬、彼、その次に〝一晃〟という自分の名前が来たならば、誰を示すかを。

(アイツ、いつ殺そうか……)

 犬呼ばわりした相手に殺気立つ。が、次の瞬間には思わず神だと思ったことを、後々後悔することになるのだ。



「一晃は、狼だ」

 ガンッ、と近くの壁に頭をぶつける。ドアにぶつからないだけ、まだよかった。



(やっぱいいわうん許すそんくらい犬とかどうでもいいしてか七夜さん狼だとか褒めてるよね褒めてるよな絶対心なしか声がほんわかしているのは俺の気のせいかいや気のせいじゃないもう嬉しすぎるだろ……!)



 そして、挙動不審になった一晃と、例えの話題を振った慧が遭遇するまで。また、会ってから七夜が困惑するまで。

 あと、どれくらいか。



一晃→わんこ

和真→敵対(?)

永倉→兄貴

慧→爽やか

聖→腹黒

森坂→苦労人

神崎→完璧人間


 で、行こうと思ってます(笑)


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