エピローグ.金鳳花―Ranunculus―
同日ほぼ同時タイミングで前話が投稿されています。
というか、間が空きすぎていますので、もしも、読んでおられるのでしたら最初からの方がよいと思われます。
俺と高宮が付き合ってたのが、それなりに前の話になり、高校受験も終わった。
俺は花についてもっと専門的に学びたいから農業高校に進学を決めた。余裕があれば農大か農業大学校に進むつもりでいる。そして、平行して花言葉についても個人的に勉強を進めている。
花に思いを託して、誰かに届ける。
それを分かりやすく実現したい。その一心だ。
高宮はというと、お金はかかるけど東京に出て私立の音大の付属に行くのだそうだ。生活は寮があるらしくてそこに入る予定らしい。
「春馬はさ、東京に出ようと思わないの?」
「あんまり。園芸家とか言って肩書きを持つつもりもないし。家の花屋を継ぎたいから」
で、高宮とは付き合っていない代わりに、お互いの店で話し込んだりすることは多い。今日も、高宮のほうの店で話をしていた。
ある意味では、付き合っていたあの1週間以上に仲はいいと思う。
「俺は、この場所で、自分にできる形でやっていきたいんだ」
江田なんかにはまだ付き合ってるんじゃないかと勘繰られたこともある。
そういえば、その江田にはこの間告白された。正直、苦い記憶ではある。
『ずっと、春馬を見てきたの。春馬が好き。高校違うけど、家は近いし、会えなくなるわけじゃないし、付き合えない?』
なんてことを言われた。
当然、俺も男だし、江田は可愛いから嬉しくないわけなかった。でも、あの日、教会で山川さんと話したことは嘘じゃないし、あの1週間が特別だったから、俺は自分が子どもであるって自覚のあるうちは誰かと付き合おうとは思えなくて。
だから、断った。
『ごめん。江田の気持ちは嬉しいけど、俺は自分がガキだって自覚があるし、江田をそういう目では見れない』
江田は泣いてたけど、こればかりは仕方がない。高宮には後で思いっきりからかわれた。きっと、そうやって慰めてくれてるんだろう。
ふられると傷つくってのは何となく想像できてたけど、ふるのも傷つくんだなって、つくづく思った。高宮とのことで色々思い知ったつもりだったけど、まだまだ甘かったみたいだ。
「春馬。あんた、今、他の女のこと考えてたでしょ」
「別にいいだろ。彼女でもないし。というか、お前も彼女なんかじゃないだろうが」
「目の前にいい女がいるんだから、それが赤の他人だろうが元カノだろうがその人のことだけ考えてればいいの」
うん。まだまだ甘かったみたいだ。女を嘗めてた。
「明日が卒業式か」
「そうね」
「明日、式が終わったらすぐに発つんだったな」
「そうね」
高宮は、明日にはここからいなくなる。きっと、よほどのことがなければ帰ってこないだろう。
「明日、きっとそんな時間はないだろうから、先に準備してきた」
俺だって、高宮のために他の関係全部投げ捨てられるほどに軽くはない。だから、ほんとは明日にしたかったけど、今しかないから、準備してたものがある。
「軽く困らせてやろうとも思ったから、けっこうな大物にしてやった」
あくまで、俺らしく。
「今回は、ラナンキュラスとカスミソウで花束だ」
意味は、カードを添えて。
君はとても魅力に満ちていて、そんな君に出会えたことに感謝をしてる。
俺も、お陰で自分の道をしっかりと定めることができた。
「ありがとう」
拙いお話でしたが、読んでいただけたのでしたら幸いです。