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嫁ですがなにか?!  作者: 暁
18/40

法事を終えて。

どっかで聞いたタイトルだなぁ(^^;

 

 



長い読経どきょうおごそかな雰囲気を醸し出し、やがて全員の足が感覚を失った頃、その長い法要が終わった。

亡くなった祖父と友人だったという住職は、その息子達と思い出話しをして、次の法要があると行ってしまった。


イトコ達はそれぞれ遠方のため、早々に帰り支度をしている。

小部屋を二部屋借り、それぞれ着替えをした。


飛行機に乗るもの、新幹線に乗るもの、もちろん自動車で帰るものもいた。

電車や飛行機組は、時間に間に合うかどうか気掛かりそうにしきりに時間を気にしている。


本堂の方から、タクシーが到着したと声がかかった。

荷物を抱えた美枝子が大きな声で返事を返し、美奈子は樹理亜じゅりあに靴下を履かせ終えると、梢に向き直った。


「梢ちゃん、私たち神奈川に住んでるの。いつでも遊びにきてね!」

「樹理亜も喜ぶから、今度はうちに泊まって!今度は私も一緒に飲むからさ!」

「あ、お酒は止めます・・・でも、遊びに行きますね!」


迷惑を掛けてしまったと、朝からしきりに美枝子に謝っていた梢がそう言うと、姉妹は顔を見合わせてから大爆笑し、梢をきょとんとさせた。



本堂に戻ると、すでに男性陣は着替えを済ませ準備万端整えていた。


「そんじゃ!裕一郎またな!たまには札幌にも顔出せや!」

「梢さん、またね!」

「気をつけてな!」


それぞれがタクシーやレンタカーに乗り込むと、樹理亜が駆け寄ってきた。


「こじゅえちゃん!」


樹理亜が半べそ顔で梢の足にしがみついた。後ろから美奈子が追ってくる。


「樹理亜ちゃん、元気でね」

「じゅいあ、まらこじゅえちゃんとあしょびたいー!」(訳/樹理亜、まだ梢ちゃんと遊びたいー!)

「大丈夫よ、うちに遊びにきてくれるって!樹理亜の宝物見せてあげなきゃね!」

「う・・・しゅぐきてね・・・」(訳/すぐ来てね)


とうとう泣き出した樹理亜を、梢はぎゅっと抱き締め、遊びに行くからね。と約束し姉妹が乗ったタクシーを見送った。



柿崎と梢は、手にたくさんのお土産を抱えて去って行くイトコ達を最後まで見送くると、車の方へと踵をかえした。



「さて、俺たちも帰るか。」

「ずいぶん眠そうでしたけど、運転は大丈夫なんですか?」


あまり寝ていない柿崎は、読経の間何度かうとうとしては、梢に肘で小突かれていた。

法要が終わった途端、大きなあくびを連発して登紀子に叱られていた。


「坊主のお経ってのは、なんでこんなに眠くなるんだろうなぁ…」


二人分の荷物を車に運び入れ、帰り支度をしながら、柿崎はさらに大きなあくびをした。


「さっきはいびきをかくんじゃないかと冷や冷やしましたよ・・・」


あまりに盛大なあくびをする柿崎に、梢は呆れたように見上げている。

荷物を車に積み終えてドアを閉めると、傍らにいる梢を眠そうな目で見下ろした。


「・・・・誰かさんのお陰で寝不足なんですが?」

「・・ぅ・・・す、すみません・・・」

「なら、梢の膝枕で昼寝させてよ」

「ええ!」


赤面させ素っ頓狂な声を上げる梢を、面白いものを見るように柿崎が見下ろす。

こんな会話も、すっかり慣れてしまった。


「裕一郎の頭に花が咲いてるわ、真さん。」

「新婚さんだからねぇ」


背後から真と登紀子の声が聞こえた。


「あ、お義母さん・・・えっと、お世話になりました・・・」


これで【嫁】の役は終わりなのだ。梢は居心地が悪そうに視線を落とした。

一応、付き合うことになったものの、もともと自分は柿崎と正式に婚姻をしている訳ではないのだ。

優しく迎えてくれた親戚中を、自分は騙してしまったのだという現実が、梢の胸を締め付けた。


「お義母さんとは呼ばない約束でしょ?!」

「あ、そうでしたね・・・登紀子さん。お世話になりました」

「また遊びにいらっしゃい」

「あ・・・はい。ありがとうございます」


私は、裕一郎さんの妻ではないんです。一瞬そう告げそうになったが、思いとどまった。

いろいろあったにしても、登紀子も真もとてもいい人だったから。

浮かない顔をしている梢に、真が顔を寄せ小さな声で囁いた。


「例え籍が入っていなくても、梢ちゃんは、うちの立派なお嫁さんだよ。」

「ーーーーーえ?」


驚く梢が何も言えずにいると、背後から柿崎が声をかけた。


「梢!そろそろ行くぞ!」

「え・・・あ、はい!・・・あ、あの」

「気をつけてね。」

「裕一郎をお願いしますね、梢さん」


二人は全部知っていて、それでも自分を嫁だと紹介してくれたのだ。梢は涙が溢れてきた。

顔を覆って声を殺して泣く梢の肩を、登紀子が優しく撫でた。


「酷い事を言ってごめんなさいね・・・貴女が望まない結婚を強いられたのなら、何とかしてあげたかったの・・・」

「あ・・あの・・」

「でも・・・その心配はいらなかったみたいね」

「・・・え・・・」


二人は優し気な笑みを浮かべる、梢の肩を登紀子から奪い取るように、大きな手が包み込んだ。


「・・・人を犯罪者みたいに言うなよな。」

「いえ、訴えられたらアウトでした。」

「まったく、血は争えないねぇ」

「え?」


ホントね~と、暢気に笑いあう夫婦は、さらりと言ったが、前にも・・・?


「父さん、それどういう意味?」

「ん?ふふふ、ナイショ♪ねぇ登紀ちゃん?」

「ねぇ、真さん?」


ふふふふと仲良く笑いあう二人に、息子は不思議そうな顔をしたが、梢は何となく分かった気がした。

登紀子も自分と同じ経緯を辿って結婚したのだろう。でも、あの登紀子が大人しくしているとも思えなかった。梢はもしかすると、真が罠に嵌った方なのかもしれない。その方がしっくりくるなぁと、小さく笑った。


「梢ちゃんは勘がいいね♪」

「あ・・・すみません・・・」

「いやいや♪」


梢の考えを見透かした真の言葉に、やっぱり・・・と、思わず笑ってしまった。


「真さんってね、とてもモテたの。っていうか、今もモテるのよ」

「え〜そんなことないよ〜」


憮然とした表情の登紀子と、ニコニコと登紀子の肩を抱く真を見て、経緯が手に取るように分かった気がした。それでも、仲睦まじい二人を見ると、自分もそうなるのかしらと、ちょっと複雑な心境だった。


「ま、いいや。じゃあね、父さん母さん!」

「お元気で。」


笑顔で見送る二人が、背後に遠くなって行く。

たった一泊二日だったのに、すごく長く感じた。



山並みが背後に流れて行く。

昨日見た景色と、なんだか違って見えるなぁと梢は思う。


これでやっと肩の荷が下りた。と、梢は晴れやかな顔だ。

そっと指輪をなぞり、これも返そう。それでとりあえずリセットしたい。梢はそう思っていた。


柿崎は、チラリとその様子を見て口を開きかけたが、あえて何も言わなかった。






帰りは渋滞に遭遇し、梢のアパートについた時には午後の九時を半分過ぎていた。



柿崎が荷物を部屋まで運んでしまうと、明日も早いからと部屋を出た。



梢は、見送りに下りると、車に乗り込もうとしていた柿崎が梢を振り返った。


「お疲れさん、明日寝坊すんなよ?」

「だ、大丈夫です!柿崎さん・・・あの・・・これ・・・」


梢は指輪を外そうとすると、大きな手が優しく包み込んだ。


「・・・返さなくていい。」

「・・・でも・・・」


柿崎の腕が伸びて梢の頬にそっと触れた。大きな掌は梢の唇まで覆う。

親指が頬の柔らかさを楽しむように撫でる。



触れられたところが熱い・・・胸もドキドキしてなんだか落ち着かない・・・

彼の手はこんなに心地よかっただろうか・・・?梢はぼんやりと柿崎の顔を見詰める。


街灯を背に立っているため、表情はよく分からないが、視線が痛いほど感じる。

その視線に耐えかねて、梢は俯いてしまった。



街灯を背に受けていた柿崎には、梢の表情がよく見えていた。

赤らむ頬に震える瞳までも・・・だが、いまはその顔が伏せられている。



上を向かせようとしたが、やはり自分の意思で顔を上げてほしかった。


「・・・梢・・・顔を見せて?」

「・・・・・・・・・・・・・」


梢の体がピクリと震え、少し躊躇ってからゆっくりと顔を上げた。



柿崎の顔を確認する前に、彼の熱い唇が押し付けられた。


「ーーーーっ!」


一瞬だけ息を飲んだ気配がしたが、柿崎は構わず片腕を伸ばし華奢な背を抱き締めた。

梢の頬を覆っていた掌は、後頭を包み込む。



強張っていた体はすぐに解け、細い指が柿崎のシャツに縋り付いた。

そんな梢を愛おし気に抱き締めると、さらに口付けが深まった。




一つに重なる二つの陰は、時間を忘れていつまでも寄り添っていた。




 

 

 

やっと法事が終わりました。

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