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嫁ですがなにか?!  作者: 暁
16/40

星空の露天風呂。

午後九時を回った大浴場は他に客の姿はなく、嬉しそうな樹理亜の声が大きく響いた。


梢は、すっかり自分に懐いた樹理亜の小さな体を優しく洗い、シャワーで泡を落とすと美奈子が次いで髪を洗った。

それが済むと、今度は樹理亜が梢の背中を一生懸命に洗ってくれた。

梢は、そんな一生懸命な樹理亜が可愛くて、思わず抱き締めて「あらえないでしょ!」と叱られた。



大浴場には、梢と美奈子達だけでなく、他のイトコ達や登紀子などが顔を揃えていて、まさに柿崎家の貸し切り状態だ。



お湯は少々熱く、樹理亜は危なっかしく爪先をお湯に浸しては、しきりに「あちゅい!」と言って顔をしかめ、皆の笑いを誘う。

大きなガラスの壁の向こうには、岩を組んで作られた露天風呂があり、そちらなら樹理亜も入れるかもしれないと、梢は美奈子たちを誘って外に出た。



「じゃあ、お先に。」

登紀子たちはそう言って、特に長湯することもなく早々に引き上げて行った。





山間は夜の静けさと川の流れる音、そして微かに虫の声が夏の終わりを告げている。

壁が高いため、見事な景色を見ることは敵わないが、代わりに見事な星空が頭上に瞬いていた。


屋内よりやや温度が低い温泉は、とても気持ちがよかった。

長距離ドライブや初対面の義母との一件で、疲れ切っていた心までも一緒に解れるような気がした。



岩風呂に滔々と零れ落ちる湯は、無色だが温泉の成分で岩は赤茶け、肌にとろりと絡み付くようなそれは、肌をすべすべと滑らかにしてくれる。



梢は、肩や腕にお湯をかけながら、ぼんやりと空を見上げる。その脳裏には、柿崎のどこか寂しそうな後ろ姿が浮かんで、なかなか消えてくれない。

『・・・私はどうすれば良かったの?』梢は顎が浸かるほど湯に体を沈め、小さな溜め息を着いた。




「・・・・・どうかした?」

「・・・・・・え?」


隣で星空を眺めていた美枝子が、空を見上げたまま梢に訪ねた。

物思いから引き戻された梢が美枝子を振り返ると、優し気な瞳と目が合った。


どことなく後ろめたい梢は、美枝子の目を見ていられず、視線をそらした。




他に客がいない露天風呂は、樹理亜にとってはプールのようで、美奈子に支えられ楽しそうに泳いでいる。

娘と遊んでいるようでいて、時折、梢に気付かれないように美奈子も気遣わし気なに視線を向けた。


「な、なんでもないよ。この温泉すごく肌がすべすべになるのね!」

「・・・そうだね」


悟られないように無理に明るく振る舞う梢に、姉妹はそれ以上何も訪ねることはしなかった。


美枝子の部屋で寝てもいいかと訪ねてきた梢の顔は、仲睦まじい新妻には見えなかった。

始めは美枝子も、ちょっと喧嘩でもして飛び出してきたのだろうと思っていたのだが、さっきまでと明らかに違う梢の様子に、美枝子は奇妙な違和感を持ったのだった。


しかし、すぐに訪ねることはせず、美枝子はにこっと笑って「すべすべになって、裕にぃも喜ぶんじゃない?」と、わざと冷やかすように言ってみた。


一瞬、何かに怯えるように梢の肩が竦んだ。美枝子の違和感はさらに深まる結果になった。


「・・・な、なに・・・いって・・・」

「やだなぁ!なに照れてんの?!」

「べ、別に・・・照れてるわけじゃ・・・」


言葉に詰まり狼狽える姿に、美枝子は確信めいた直感が働き、あえてからかう言葉でその場を濁した。


「お姉ちゃん、梢ちゃん、樹理亜がのぼせちゃうから、先に上がるね」

「じゃ私も。梢ちゃんは?」

「あ・・・私はもう少しここにいる」

「・・・そっか、じゃあお先に」


姉妹が笑顔で行ってしまうと、梢は再び星空に目を向けた。







「梢ちゃんと裕にぃ、何かあったのかな?」


樹理亜の髪にドライヤーを当てながら美奈子が傍らの姉に話を振った。

美枝子は化粧品で肌を整えながら、梢の様子を思い出していた。


「・・・何か、言えないことがあるの・・・かな?」


美奈子は樹理亜の髪にブラシを当てながら、何か自分に出来ることはないかな?と、理由も分からないのに心を痛めていた。


「・・・飲ませちゃおう。」

「・・・それしかないね。でも、樹理亜はもう限界だよ・・・」


髪を梳かれる心地よさと興奮した疲れから、樹理亜はすでに半分夢の中にいた。


「いいよ。二人で飲もうって言えば、話してくれるかも」

「・・・それでも話さないときは?」

「潰すまで。」


美枝子はきっぱりと言い切り、美奈子もニヤリと笑うと「悩みがある人は、飲ませて潰すのが一番だよね!」と、恐ろしい持論を堂々と言い切った。


ちなみに、この姉妹は方々で蟒蛇うわばみの異名をもち、柿崎さえも敵わない酒豪なのである。

当然、梢などひとたまりもない。


何も知らず着替えを済ませた梢に、「部屋で一杯やろ!」と誘うと、美枝子の異名を知らぬ梢は二つ返事で快諾した。




そして、あっさりと美枝子の罠に嵌ってしまった梢は、彼女にひたすら飲まされ、大きな座卓に突っ伏す頃にはいろいろと白状させられていた。


「・・・ったく。裕にぃにも困ったもんだね・・・」そう呟いて、美枝子は携帯でどこかへ電話をかけた。




「かきざきの・・・ばか〜」寝言でさえ呂律の回らない梢は、座卓に突っ伏したまま眠ってしまった。


 

 

美枝子姐さんと呼ばせて下せぇ!(笑)

梢ちゃん、柿崎家の巧みな罠にハマりまくり?

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