表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫁ですがなにか?!  作者: 暁
1/40

求婚は突然に。

結婚って、愛情から始まるの?それとも、計算で始まるの?

「深山、俺の嫁になってくれ。」

「・・・・・はあ??」


突然のプロポーズに真っ白になってしまった。

二十八年生きてきて、こんな漫画みたいなプロポーズを夢見た頃もあった。

しかし、そんな都合のいい話は存在しないと理解できる年齢だ。

深山梢みやまこずえ二十八歳は、お盆にお茶を乗せたまま呆然と目の前の男を見ていた。


「深山さぁん、聞いてるぅ?」


大きな掌を目の前でひらひらされ、ようやく我に返る。

自分を覗き込んでいる男は、口元に楽し気な笑みを浮かべている。


柿崎裕一郎かきざき ゆういちろう三十四歳独身。営業成績が常にトップクラスを誇るエリートである。仕事には厳しいが、愛想がよく気が利く彼は、女子社員の憧れの的である。


しかし、梢は例外である。柿崎に対して、何の憧れも興味も持っていなかった。


そんな男が自分を呼び止めた時は、単に飲み物が欲しいのだと思っていたのだ。

思わぬ発言に、梢が呆然とするのも無理はない。


「き、聞いてますが、一体なんなんですか?」


営業部の片隅でプロポーズって…。女の夢を壊すにも程があるだろう。と、密かに苛立つ梢だったが、ふと重要な事を思い出した。自分は柿崎の恋人でもなければ、仕事以外で口をきいた事すらないのだ。


「私、柿崎さんと付き合ってもいないのに、いきなり嫁って何なんですか?」


苛立つ気持ちを口調に乗せないように気を遣いながら、早く仕事に戻りたくてジリジリとしていた。当の本人は、どこか飄々(ひょうひょう)としていて掴み所がない。


「ま。そーだよね。とりあえず、フリでいいからさ、今度の日曜日に俺の両親に挨拶してほしいんだ」


昔のトレンディードラマでこんなのがあった気がする。


「フリでいいんだし、いいよな?」

「お断りします。」

「なんで?!」

「なんでって!!!」


だんだんと声が大きくなるのに気づいて、慌てて声を潜めると、持っていたお盆を傍のテーブルに置いた。


「例えフリでも、好きでもない男の嫁なんて絶対嫌です!!」

「・・・・はっきり言うねぇ」


柿崎は頭を掻きながら苦笑いをもらした。

先輩でもある柿崎には、他の女子社員が持つような憧れもなければ、ハッキリ言って男としての興味すら湧かない。そんな男に求婚されても、嬉しいわけがない。

梢は、困惑した表情で柿崎を見上げた。


「柿崎さーん!三番に電話でーす!」

「おう!今行く!!ーーーとりあえず、話は昼にな!」

「あ!ちょっと!!」


柿崎は早足でデスクに戻ると、電話を取った。

求婚されても、離れた背中を見ても、やっぱりトキメキすら感じない。


短く溜め息をつき、頭を振ると『質の悪い冗談だ』と思う事で、梢は柿崎の話を完全に頭から閉め出した。


課長にお茶を出すと、席に戻ってひたすら仕事を片付けていった。



「深山!飯行くぞ!」


仕事に夢中になって気づきもしない梢の肩を、大きな掌がポンと叩いた。

一瞬『なぜ?』と思ったが、すぐに先ほどの話を思い出し、忌々し気に眉をひそめた。


「・・・・・・・嫌です」

「なんで?」

「柿崎さんと昼食をとる理由がありません。第一、私はお弁当なので食堂にも行きません。」

「・・・・・あっそ。なら、俺もコンビニで弁当買うからさ、とにかく話しだけでも聞いてよ」


嫌だ。

そう口に出そうとした時、柿崎に腕を掴まれ、問答無用で外へ連れ出されてしまった。


他の社員が見てる前で、社内でも割と人気がある柿崎に引きずられている自分・・・


嬉しいよりも恥ずかしさの方が先で、必死になってもがくが、鼻歌まじりで機嫌が良さそうな柿崎は、腕を放す気配もない。


「ちょっと!柿崎さん、腕離してください!!痛いです!」

「だって、離すと逃げるでしょ」

「当たり前です」

「だから、離さないんじゃん」


・・・もう何を言っても無駄のようだ。梢は項垂れて柿崎に引きずられて行った。

翻弄される梢ちゃんは、さらに翻弄される事になります。


加筆しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ