雪山で拾った子供の正体は――
俺はスノーモービルで雪山を走り回っていた。
前方に、小さな影が見えた。
五歳くらいの子供だ。
「危ない!」
慌ててハンドルを切り、俺は横転した。
雪を払いながら立ち上がり、子供に声をかける。
「お父さんとお母さんは?どこから来たんだ?」
子供は何も言わず、ただ、雪山の奥を指差した。
こんな場所に一人でいるなんておかしい。
放っておくわけにもいかず、俺はその子を連れて帰ることにした。
だが――
スノーモービルは、何度エンジンをかけても動かなかった。
辺りはすでに薄暗くなり始めている。
どうしたものかと見回すと、雪の向こうに小屋が見えた。
「……仕方ない。今日はあそこだな」
近くに見えたはずの小屋は、なぜか遠かった。
歩いても歩いても、なかなか辿り着かない。
ようやく辿り着いた頃には、日が落ちていた。
小屋には灯りがついていた。
中に入ると、かまどには薪がくべられ、スープの匂いが漂っている。
テーブルにはパンが置かれていた。
朝から何も食べていない俺の腹が鳴る。
だが、勝手に食べるわけにはいかない。
ふと見ると、子供はいつの間にかベッドで眠っていた。
その時――
扉の外で、音がした。
次の瞬間、吹雪とともに女が入ってきた。
銀色に輝く髪。
透き通るような白い肌。
真っ白な着物。
その美しさに、息を呑む。
同時に吹き込んだ風で、かまどの火が消えた。
「すみません、道に迷って……勝手にお邪魔しました。明日の朝まで休ませてもらえませんか」
女は、やわらかく微笑んだ。
「ええ、どうぞ。ゆっくり休んでいってください」
そして、子供を見て言った。
「あら、“雪”も帰っていたのね」
俺はほっとして言った。
「あなたのお子さんだったんですか。よかった……」
女は微笑んだまま、
「ええ」
とだけ答えた。
「よかったら、スープとパンをどうぞ」
見ると、スープはすっかり冷めていた。
だが、空腹には勝てなかった。
俺はそれを一気にかき込んだ。
――そのあと、記憶がない。
朝日で目が覚めた。
体を伸ばそうとして――気づく。
動かない。
指も、首も、何もかも。
(なんだ……これ……)
そのとき、体がふわりと浮いた。
昨夜の女が、俺を持ち上げている。
視線だけを動かし、周囲を見る。
小屋の外――
そこには、氷の彫像が並んでいた。
人の形をした、氷の像。
「ママ!またパパが一人増えたね!」
昨日の子供が、はしゃいでいる。
俺は理解した。
(……俺も、あれになるのか)
女は俺を外へ運び、並べた。
そのとき気づく。
彫像たちの目が、動いている。
全員、意識がある。
「やめろ……助けてくれ……!」
声は出ない。
ただ、見えるだけ。
感じるだけ。
動けない。
冷たいまま、永遠に。
雪山で子供を見つけても、連れて行ってはいけない。
どんなに腹が減っていても、
スープには手をつけるな。
今日もまた、ひとつ――
彫像が増えた。
「このパパ、いらない」
「そう」
女は静かに頷くと、躊躇なく斧を振り下ろした。
鈍い音。
彫像は砕け、白い雪の上に赤が広がる。
砕けた顔の目だけが――見開いたまま、動かない。
俺は、目を閉じることもできず、
ただ次に呼ばれるのを待っていた。
――次は、あなたの番かもしれない。
雪山で子供を見つけても、連れて帰ってはいけない。




