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雪山で拾った子供の正体は――

作者: 影野 紡
掲載日:2026/04/14

俺はスノーモービルで雪山を走り回っていた。


前方に、小さな影が見えた。

五歳くらいの子供だ。


「危ない!」


慌ててハンドルを切り、俺は横転した。


雪を払いながら立ち上がり、子供に声をかける。


「お父さんとお母さんは?どこから来たんだ?」


子供は何も言わず、ただ、雪山の奥を指差した。


こんな場所に一人でいるなんておかしい。

放っておくわけにもいかず、俺はその子を連れて帰ることにした。


だが――


スノーモービルは、何度エンジンをかけても動かなかった。


辺りはすでに薄暗くなり始めている。


どうしたものかと見回すと、雪の向こうに小屋が見えた。


「……仕方ない。今日はあそこだな」


近くに見えたはずの小屋は、なぜか遠かった。

歩いても歩いても、なかなか辿り着かない。


ようやく辿り着いた頃には、日が落ちていた。


小屋には灯りがついていた。


中に入ると、かまどには薪がくべられ、スープの匂いが漂っている。

テーブルにはパンが置かれていた。


朝から何も食べていない俺の腹が鳴る。


だが、勝手に食べるわけにはいかない。


ふと見ると、子供はいつの間にかベッドで眠っていた。


その時――


扉の外で、音がした。


次の瞬間、吹雪とともに女が入ってきた。


銀色に輝く髪。

透き通るような白い肌。

真っ白な着物。


その美しさに、息を呑む。


同時に吹き込んだ風で、かまどの火が消えた。


「すみません、道に迷って……勝手にお邪魔しました。明日の朝まで休ませてもらえませんか」


女は、やわらかく微笑んだ。


「ええ、どうぞ。ゆっくり休んでいってください」


そして、子供を見て言った。


「あら、“雪”も帰っていたのね」


俺はほっとして言った。


「あなたのお子さんだったんですか。よかった……」


女は微笑んだまま、


「ええ」


とだけ答えた。


「よかったら、スープとパンをどうぞ」


見ると、スープはすっかり冷めていた。


だが、空腹には勝てなかった。


俺はそれを一気にかき込んだ。


――そのあと、記憶がない。




朝日で目が覚めた。


体を伸ばそうとして――気づく。


動かない。


指も、首も、何もかも。


(なんだ……これ……)


そのとき、体がふわりと浮いた。


昨夜の女が、俺を持ち上げている。


視線だけを動かし、周囲を見る。


小屋の外――


そこには、氷の彫像が並んでいた。


人の形をした、氷の像。


「ママ!またパパが一人増えたね!」


昨日の子供が、はしゃいでいる。


俺は理解した。


(……俺も、あれになるのか)


女は俺を外へ運び、並べた。


そのとき気づく。


彫像たちの目が、動いている。


全員、意識がある。


「やめろ……助けてくれ……!」


声は出ない。


ただ、見えるだけ。


感じるだけ。


動けない。


冷たいまま、永遠に。




雪山で子供を見つけても、連れて行ってはいけない。


どんなに腹が減っていても、

スープには手をつけるな。


今日もまた、ひとつ――


彫像が増えた。


「このパパ、いらない」


「そう」


女は静かに頷くと、躊躇なく斧を振り下ろした。


鈍い音。


彫像は砕け、白い雪の上に赤が広がる。


砕けた顔の目だけが――見開いたまま、動かない。


俺は、目を閉じることもできず、

ただ次に呼ばれるのを待っていた。

――次は、あなたの番かもしれない。



雪山で子供を見つけても、連れて帰ってはいけない。


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