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失われた記憶の先で、もう一度君と恋に落ちる。聖夜の教会で始まる、切ない恋物語。  作者: 久遠翠


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エピローグ「未来へのプレリュード」

 あの雪の夜から、五年。


 私は冬月雫になった。夫である湊さんが設計した、陽光あふれる家で暮らしている。


 丘の上に建つその家は、大きな窓から陽の光がたくさん入る温かい空間だった。湊さんがコンペで勝ち取った、あの図書館のデザインコンセプトが生かされているのだと、彼は少し照れながら教えてくれた。


 リビングの中心には、吹き抜けの天井まで届きそうな大きなシンボルツリーが植えられている。私たちはその木が季節ごとに表情を変えるのを眺めながら、穏やかな毎日を過ごしていた。


 私は今も駅前の花屋で働いている。店長になって少しだけ忙しくはなったけれど、花に囲まれる仕事はやっぱり大好きだ。


「ただいま」


 夕方、玄関のドアが開く音がして湊さんが帰ってきた。すっかり日本を代表する建築家の一人になった彼は、毎日忙しそうだ。


「おかえりなさい。お疲れ様」


 エプロンで手を拭きながら出迎えると、彼は「ああ、疲れた」と言いながらも、その表情はとても穏やかだった。そして、私のことを愛おしそうに抱きしめる。それが、私たちの毎日の習慣になっていた。


「今日の夕飯、何?」


「ふふ、今日は湊さんの大好物のハンバーグだよ」


「やった」


 子供みたいに喜ぶ彼を見て、私はくすりと笑った。この何気ない日常が、どれほど尊くて幸せなことか。私はそれを知っている。


 失われた記憶は、完全に戻ったわけではない。今でも思い出せないことはたくさんある。でも、もうそれでいいと思っている。湊さんが全部覚えていてくれるから。そして、これから二人で新しい思い出をたくさん作っていけばいいのだから。


 彼の書斎には、あの十五冊の日記が今も大切に保管されている。時々、二人でそれを読み返すことがある。拙い文字で書かれた十歳の彼。思春期に悩む彼。大人になって、私を想い続ける彼。どのページの彼も愛おしくて、胸がいっぱいになる。


「雫」


 食事が終わり、ソファで寛いでいると、不意に彼が私の名前を呼んだ。


「どうしたの?」


「……ありがとう」


「え?」


「君が、俺を見つけてくれたから。俺は、今ここにいられる」


 彼は私の手をとり、その甲にそっとキスを落とした。


「ううん、私の方だよ。あなたがずっと待っていてくれたから。今の私がいるんだよ。ありがとう、湊さん」


 私たちは、どちらからともなく微笑み合った。


 窓の外では星が瞬いている。あの約束の教会は、今もあの丘の上で静かに街を見守っているだろう。


 私たちはこれからも何度も、あの教会を訪れるはずだ。嬉しいことがあった日も、少しだけ喧嘩をした日も。あそこは私たちの原点であり、永遠の約束の場所だから。


 長い冬を越えて、私たちは春を迎えた。そして夏が来て、秋が過ぎ、また新しい冬が来る。そうやって、いくつもの季節を二人で重ねていく。


 それは、未来へと続く、壮大で美しいプレリュード。


 私たちの物語は、まだ始まったばかりだ。


 fin.

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