ヲタク青年とヤンキーちゃん
平成初期に尾形市からそれ程遠くない鬼出村で四名の学生が行方不明になる事件が起こった。
港湾大学のサークル、伝奇研究会に所属する三名の男女と、尾形東女子短大の女生徒が一名の計四名。
地元警察の調べに依ると最後の目撃者は尼寺、妙庵院の庵主で有る妙庵尼(52)
彼女の証言では四人の学生達は地元に伝わる鬼に関する伝説を調べており、庵主の話を聞いた後に裏山に有る史跡、【鬼出の泉】に向かったらしい。
途中の山道で食事を取った形跡が有り、彼らの目的地で有る鬼出の泉の周囲には学生らの足跡と思わしき靴跡が残っていたのだが…そこでプツリと足跡は途絶えていた。
警察の見解では熊等の野生動物に遭遇した線が濃厚で有る…との事であったが、令和の現在に至っても遺留品の一つも見つかっておらず、今でもネットのそこかしこに消えた四人の学生がどうなったのかの考察や、現地の動画映像などが数多く有るが、いずれも的を得ているとは言い難い代物ばかりである。
この物語は夜の駐車場にいた四人のアウトローガールの一人…
行方不明になってしまった四人の学生の一人でも有る…
伊藤美咲が世界から消失する少し前の物語で有る。
◆ ◆ ◆
高桑に連れられてやって来た港湾大生、彼の教育係になったのは伊藤美咲だった。
「伊藤!アンタ確か同じ中学出身ってたよねぇ!田中君に色々と教えてやって!」
「はぁ〜い、りょーかい」
メイド長、主任にそう言われたなら仕方無い、別に拒否する理由も見当たらない、適当に返事をして引き受けた。
初めて会った時は随分驚かれた。
同じ中学出身との事だったらしいが、正直…全く憶えていなかった。
度の暑い黒縁眼鏡に、伸ばし放題の長髪を真ん中分けにして、チェックのシャツはズボンの中にインしている…典型的なオタク学生、背丈も美咲とほぼ変わらない小男。
あまり好みのタイプでは無い、恋愛対象外、そんな彼は実咲に対して従順だった。
いつも顔を赤くしながらハイハイと指示を聞いていた。
「田中君…あんさぁ〜飲食だよぉ〜?その長髪は無いんじゃ無い?短くした方が良いんじゃね?暗く見えるし…お客さんも清潔感?とか見てるらしいからさ〜」
「え?あ、あ、そう?伊藤さんがそう言うなら…」
次の出勤日には髪を短く切り揃えてきた英二がいた。
「へぇ~随分変わったじゃん♪うんうん、悪く無いよ♪清潔感ある、ふぅ〜んこうして見ると結構可愛い顔してんじゃん♪でもな〜黒縁眼鏡は無いわ〜なんかぁ〜もっさりして見えるんだよね〜銀縁とかにしてみたら?何かちょっとオシャレで頭良さげに見えるかもよ〜」
「可愛い?!そ、そうかなぁ…なるほど…銀縁…」
適当に何気無く言った一言…そして次の出勤日…
「あれ?メガネ変えたの?なんで?あら…」
「あ…うん…ど…どうかなぁ…」
「あ〜そうねぇ…うん良いんじゃない♪頭良さげに見えるよ♪でもなぁ〜そのメガネだと…アニメキャラのシャツとチェッククのシャツは止めた方が良いかも…合って無いし…何か臭そう…」
「く…臭そうに見えるんだ…そっか…臭そうなんだ…そっか…」
そんなやり取りを繰り返している間に彼…田中英二はどんどんと変化していった。
その容姿から服装までガラリと変わった頃…突然彼から告白された。
「中学の時からずっと好きでしたぁ!ここで…このバイトで出会えたのも運命なんです!俺と…俺と付き合って下さい!俺の彼女になって下さい!大事ににする…幸せにしてみせるから!」
最初は驚いたが…改めて今彼を観てみれば…面食いの美咲から見てもそう悪く無い、勿論、元彼の山川の容姿とは比べるべくも無いが…ただ彼には無かった誠実さを感じる。
背丈はもう少し欲しい所だが、いつだったか忘れてしまったが占いおばさんに言われた一言が脳裏に蘇る。
(好きな人より…愛してくれる人がとかなんとか……うん、それでも良いのかなぁ?)
「う〜ん…まっ…いっか…OK♪じゃぁ〜お試しで付き合っても良いよ♪そんなに言うなら今日から田中君…ん、英二の彼女になってあげる♪だから英二もアタシの事は美咲って呼んでね♪」
そう…最初はそんな軽い気持ちで合わなければ別れてしまえば良いと、何も考えずにOKを出した。
初めてのキスは当然…ぎこちなくて違和感しか無かった。
「う〜ん…そんなに緊張されてたらさぁ…なんか…こっちが緊張しちゃうんだよね〜もっとムーディーにさぁ〜」
「ムードが大事…う、うん頑張るよ…」
わがまま放題の美咲、デートコースなどでも、ああでもない、こうでもないと…
そして、初めての…
◆ ◆ ◆
※R18要素に付き削除致しました。約千文字程度です…
気になる方はノクターンノベルスのアウトローガールズ☆【犀角】オマケエピソード、【伊藤美咲の消失】をご覧下さい。
R18要素以外の内容は同じです。
◆ ◆ ◆
この経験で、初めて英二と向き合えたのかも知れない、目が開いたと言うべきか?
考えてみれば適当な感想を言っただけなのに、全て改善して来た事から始まり、一切逆らわないのを良い事にダメ出しをし続けていた自分に初めて気付いた。
(なんで…アタシ酷い事しか言って来なかったのに…なんで英二は…この人本当にアタシの事が好きなんだ…愛しているから?…あぁ…これが彼の愛…)
◆ ◆ ◆
ここから少しづつ美咲は変わって行った。
表面上は騒がしく、よく喋る女のままであったが、本人が気付かないうちに少しづつ…
彼に友達を紹介された。
「元ヤンだって?ふぅ〜ん…俺…周囲を恫喝して歩くあの手の人種って好きになれないんだよね…えっと美咲ちゃんだっけ?まぁ…君はそうは見えないけど…さ」
「おい!正人!初対面の女の子にそんな言い方は無いだろう!謝れよ!」
英二は怒ってくれたが、実の所全く気にならなかった。
背の高いオタク学生、彼は不良が嫌いらしく美咲に風当たりが強かった。
この地方の文句も散々聞かされたが、以前であれば怒っていたであろうが、美咲はそんな事を言われても全く頭に来なかった。
自分でも不思議なくらいに落ち着き、スルー出来るようになっていた。
多分…幸せだったから。
愛され求められる事で承認欲求は満たされ、英二と過ごしているだけで、幸福を感じ、大抵の事では不満も抱かなくなっていた。
満たされている人間は他人が、どうあろうと怒りを抱かない、逆に満たされて居ない人間程、他人の行動が気になり一々、下らない事で目くじらを立てる。
最初こそ何となく付き合いはしたが、いつの間にか美咲の方が夢中になり、合わなかったらすぐに別れるなど言う考えは消え失せていた。
英二は小柄なオタク青年ではあったが、最初に言った告白の言葉を違える事無く、常に美咲を優先しプリンセスでもあるかの様に扱ってくれる。
全く不満が無くなってしまった美咲にも…多少悩みらしきものは有る。
東女子短大は通常は二年制で有る、伊藤美咲は21歳になろうとしていた。
つまり…特別研究生と言う名の三年目の短大生…進路が決まらなかった。
とは言え、然程気に病んでは居ない。
(あ〜もう、このままウェイトレスで良いかなぁ〜居心地良いし、今じゃ正規の人以外はアタシが一番古株になっちゃったし…なんだったら英二が卒業するの待ってお嫁さんになっちゃう?ウフフ♪…それも良いかも♪)
そんなある日の事…店で仕事の打ち合わせをしていたであろう客から声を掛けられた。
頭の禿げ上がった初老の男性、彼はタウン誌の編集長、美咲の話を聞いて彼は…
「良かったらウチでインターンをしてみないか?」
などと誘って来た。
当然、それだけでは無い事も分かっている。
ウェイトレスも三年近くなれば、客にナンパされた事も数限りない、彼の魂胆は分かっている。
だから…上手いこと利用してタウン誌の編集部に、就職先を決めてやろうと、ほんの少し…邪心を抱いた、彼の事は適当にあしらえば良い、その程度のスキルは身に付けている。
美咲は占い師の忠告などすっかり忘れていた。
【あんた頭良くないんだから、あんまり考えたり、策を練っちゃダメだよ?裏目に出るから…】
◆ ◆ ◆
出来る限り英二と一緒に居たい。
この頃になると英二のサークル活動に付き合ってフィールドワークなども一緒にする様になっていた。
約一名…ヤンキー嫌いの代表は苦い顔をしていたが、美咲は嫌味を言われても一切取り合わずスルーしていた。
元々不思議な話や変わった話が好きでもあり、オタク学生達の活動に付き合うのも楽しく、その都市伝説めいた話を集める中で…高校時代の自分の行いに疑問を抱く様になった。
この地方は…山間は何かがおかしい…中学時代は普通の生徒だった。
確かに第二高校は学力格差で人を選別するエリート志向の強い学校で、ドロップアウトした者にはつらい環境ではあった。
だが、何故自分はあんなにも荒ぶっていたのか?
あのエリート達は何故あんなにも人を貶めて、居丈高に振る舞っていたのか?
田舎であれ、そこそこ人口は多い都市ではあるが、何故あんなにも荒れていたのか?
疑問は尽きない…
そんな中、知り合いになった編集長の尾形が、かつてはこの地方を治めていた大名の子孫で有る事を知った。
しかも…英二達が調べている伝説に関わりが有る、貴重な古文書を持って居る事も…
◆ ◆ ◆
「ハイ♪ダーリン♡食べれそう?」
美咲から差し出されたサンドウィッチをやや疲れた表情で…それでも出来る限り明るく頬張る英二。
「勿論!美味しいよ…絶対に…残さず…食べきる!」
そんな二人の様子を見て長髪の男がぼやく…
「やれやれ…お熱いこって…腹立たしい…」
「うわ〜正人君…やっかみとかみっともないから止めた方が良いデス…見苦しい…ホントダサい…」
髪を適当に纏めた…恐らくは高校時代に使っていたと思わしき緑のジャージを着た、化粧っ気が皆無の引っ詰め髪の女…鈴本涼夏がサークルの代表に嫌味を言う、先程の考察の論戦で負けたのが悔しかったのかもしれない。
そう言えば朝に駅でも長髪の男、円谷正人に何か言われた気がする…美咲はすぐに英二の後ろに隠れて、英二が怒って、正人が不貞腐れながら引く、そんなやり取りが日常になって来ていた。
今日は先日四人で会った尾形のススメで、山間東部から私鉄に揺られやってきた。
今は先程、下の尼寺で聞いた村の史跡、鬼出の泉を訪ねる途中で有る。
最近の美咲は、英二に甘やかされ、守られ、愛され、すっかり変わってしまった。
何か有れば直ぐに英二の影に、隠れる様にさえなっていた。
そこにかつての【爆弾娘】と呼ばれていた頃の面影は無い…
そう…穏やかになったと言えば聞こえは良いが、すっかり弱くなっていたのかも知れない…
「さて!もう充分休んだろ!目的地はすぐそこなんだ、英二も大丈夫だよな?」
サークルのリーダー正人が出発を告げ、一行は山頂の泉に向かって再び歩き出す。
目的地の泉は、鬼出村の由来ともなった、鬼が湧き出る泉らしい…尾形の話によればこの辺で鬼と言うのは背中から羽根が生えた小鬼、天邪鬼の事を指すらしい。
◆ ◆ ◆
泉の近くに人間の気配がし、彼は何か貰えるかも知れないと様子を伺う。
連中の食べ物は美味い。
下の尼寺には人間のメスが多く、彼が近づけば大体は…
「あっ狸だ!可愛い〜♡」
などと言われエサをくれる事が有る。
オスも二人いる様だが…危険は無さそうに見える。
泉を覗く人間のメスに駆け寄ろうと茂みから出た所で、名もなきタヌキ(二歳)は立ち止まる。
何かがおかしい…何かは分からないが本能が告げる…今あの場所に近づくのは不味いと…
様子を伺い再び注視する。
何の前触れも無く…彼の目の前で唐突に四人の人間が消えた。
◆ ◆ ◆
尾形市中央区アーケード街…
【占い館】
「ふぁぁぁぁ…暇ねぇ…あぁ…まだこんな時間…そろそろ洋画が始まる時間か…今日は何やんだっけ…」
自称尾形の母、ホステス件占い師の月代はテレビのチャンネルをカチャカチャと変える。
映画の前にニュースの時間らしく…
【………警察の発表では熊などの野生動物に襲われた線が濃厚であるとの見方で…付近の猟友会が総出で…遺留品などは見つかっておらず……引き続き捜査は続けるとの……】
「ん?…この娘どこかで…東女子短大………ああ!…あの子!……可哀想に…随分酷いカードが出てたけど…やっぱりねぇ……ん?…悲惨だったけど…死神は逆位置だった記憶が…ちょっと見てみようかね…」
月代はガードをシャッフルして並べ、一枚づつめくって行く…
「……違う…力…戦車……法王…運命…生きてる!……でも!一体どこで?…だって…二ヶ月も一体どこで生きてるって言うのさ…四人全員…」
それは、ここでは無い何処かでの…奇妙な物語の始まりであった。
十八歳以上の方は是非、昭和アウトローガールズ☆犀角も宜しくお願いしますm(_ _)m




