教え方
ガールドさん……ローリーを紹介されてからの日々は楽しく流れていった。
二人は学園祭準備で忙しくしていて普段は教室にいない。だが帰りは一緒に帰れる。
俺は放課後、教室でローリーとユーヴェンを待つのが日課になっていた。
――どうせ待つならやっぱ学園祭委員に立候補すりゃよかったな……。
そうすれば待たずともローリーとついでにユーヴェンとも一緒にいられるのだ。
――来年もユーヴェンは立候補するだろうし…ローリーも王宮文官になりたいって言ってたから立候補しそうなんだよな。俺も来年は立候補すっか。
そうすれば三人で楽しく学園祭の準備ができそうだ。忙しいのは忙しいだろうけど。
忙しそうだけれど楽しそうに委員でのことを話すローリーを思い出す。その思い出の中に俺も一緒にいたいと思う。
――ローリーと一緒にいんの、楽しいんだよな。やっぱ女性への態度に疲れてんのか……。
女性への態度を見直すべきだろうか。しかしローリー以外にはわざわざ素で話そうと思ったことがない。それに全員に同じ態度で接すればいいから楽、という部分も少なからずある。
――ローリーが特別なのか……?エーフィに似てっから妹みてぇに思ってんのかな……。
エーフィと同じような御守りを昔作ったと言っていたし、ローリーのお兄さんは7歳上らしい。俺はエーフィより6歳上だから年齢差も似ている。
――ローリー可愛いからお兄さんも溺愛してるっぽいしなー。
大きくなったエーフィのような子、という目でローリーを見ているのだろう。
しかしあまり妹扱いし過ぎるのはローリーとローリーのお兄さんに失礼だから気をつけなければいけない。
トントンと机にペンをつけながら目の前のノートを見る。さっきから何も書いていない。
――勉強……しねぇとな……。
一番上のクラスに入ったのだ。そこから落ちる訳にはいかない。
ローリーと……ついでにユーヴェンとも学園生活を一緒に過ごしていきたい。
――よしっ!二人が来るまで勉強!
そう気合を入れて教科書とノートに向き合った。
暫く頭を悩ませながら復習と予習をしていると、廊下から楽しそうな声が聞こえてきた。
その聞き覚えのある声に顔を上げて教室の入り口を見る。
扉を開けてユーヴェンとローリーが入ってきた。
「アリオン、委員終わった!帰ろーぜ!」
ニカッと笑うユーヴェンに呆れるように笑う。
「元気だな、お前は。わかったよ」
そうして俺は机の上を片付け始める。
「アリオン勉強してたの?」
ローリーが机を覗きながら聞くのでふっと笑う。
「おう、お前らを待ってる間暇だったからな」
「流石ね、アリオン」
感心した声で言われて少し目を逸らす。
――流石……って言われるほどは……できてたかわかんねぇな……。
「アリオン、学園入ってからなーんか変わったな。いつも勉強面倒臭がってたのに」
「え、そうなの?」
ユーヴェンの言葉にローリーが蒼い大きな目を瞬かせる。
――ユーヴェンめ……余計なこと言いやがって……。
しかし知られたからには仕方ない。どうせ遅かれ早かれわかることだと、ユーヴェンを責めたい衝動を抑えながら口を開く。
「……勉強を面倒臭がってたのは事実だな。ただまあ……やっぱり一番上のクラスだし、勉強しねぇとって思ってな」
「ふふふ、そうなんだ」
笑うローリーに羞恥が湧き上がって頭を掻く。やはりユーヴェンは余計な事を言ったと思う。
***
その数日後。
早く学園に行って予習復習をするというユーヴェンに付き合った俺は欠伸を噛み殺しながら机上の教科書とノートを見ていた。
ちらりと後ろの方に目を向ける。
俺を誘った張本人はさっさと予習復習を終わらせて登園したクラスメイトと話していた。
――誘ってきたくせに自分だけとっとと終わらせやがって……。
まあユーヴェンは元から勉強が得意だ。苦手である俺とは違う。
――それにあいつにわかんねぇとこ聞くわけにはいかねぇし……。
ユーヴェンに説明されてもわからないのだ。わからないどころかユーヴェンの発言内容に疑問が生じて更に意味不明になる。聞いたら時間を無駄に浪費してしまうだけだ。
――自分自身の力で終わらせねぇとな……。
そうしてなんとか予習復習で授業の理解を深め終わる。これで今日の授業もしっかりついていけるだろう。
それに安堵したところで後ろから声がかかった。
「おはよう、アリオン」
ふわりと花が綻ぶように笑うローリーに自然と頬が緩む。
「おう、おはようローリー」
ローリーは俺の返事に嬉しそうに笑うと、俺の横まで来る。肩が跳ねた。
いつもの帰りより、距離が近い。
ローリーは気にすることなく手に持っていた紙を出す。これは今日提出の課題だ。
「ねえ、アリオン。今日の課題のこれ、わかる?」
首を傾げ聞くローリーに目を瞬かせる。
「え?……俺?」
勉強が苦手な俺に何故聞くのか分からず、首を傾げ返す。
綺麗な碧天の青い瞳が俺の言葉に不思議そうな光を宿した。
「?うん……。わかんない?」
少ししょげたような顔をするローリーにハッとする。
「あー……いや、ちょっと見せてくれ」
とりあえず見てみようと手を差し出した。俺も課題はやってきている。姉に聞いたところもあったが大体理解して解いた。問題なく答えられると思う。
ローリーは俺の言葉に安心したように顔を緩めた。
「これ」
ローリーの綺麗な指が指し示した箇所は姉にしっかり教えてもらったところだ。……スパルタだったとも言う。
「ああ、これならわかるな」
答えられそうなことに安堵する。理解するまで何度も叩き込まれ……教えて頂いたのでローリーにも教えられそうだ。
俺の返事にパアッと顔を明るくするローリー。
「ほんと?」
「おう、ここがな……」
「うんうん」
ローリーの返事をよく聞きながら、姉に教えてもらったことを丁寧に説明する。
眉を寄せていたのでわからない箇所を聞き出し、その部分を特に説明すると目を輝かせ頷く。
「……わかったか?」
「ええ、わかったわ!ありがと、アリオン」
弾けるように笑うローリーに微笑み返す。俺の説明で理解してくれたことが嬉しい。
「でもなんで俺に聞いたんだ?ユーヴェンのが頭良いぞ?あいつ入学試験首席だったからな」
疑問に思ったことをローリーに聞くと、目をパチクリとさせる。
「え、そうなの?」
驚いたようなローリーに俺も驚く。どうやら知らなかったらしい。
――そういや俺もこの前、勉強苦手とは言わなかったな……。
ただ勉強を面倒臭がっていたことをユーヴェンに暴露されただけだ。
それに入学試験の結果は公表はされていないし、俺達が通う学園の総代は首席であるユーヴェンではなかった。また別の基準で選ばれたのだろう。
自身の入学試験の順位は教えてもらえるのでユーヴェンが首席だったことを俺は聞いていた。だがローリーは知らなかったのだろう。
ユーヴェンではなく俺をローリーが頼ってくれたことが、とても嬉しい。思わず笑みを漏らした。
「おう。あー……でも、首席だからってあいつには聞かねえ方がいいぞ」
そうローリーに注意しておく。
「?何かあるの?」
コテンと首を傾げたローリーに苦く笑いながらユーヴェンの悪癖をバラす。
「あいつ教え方独創的なんだよ」
「どくそうてき……?」
青い目をパチパチさせるローリーが可愛くて口端が緩む。ローリーのきょとんとした顔を見ながら俺は目を細めた。
「だから俺でわかる事なら俺が教えるし、わかんなかったら一緒に考えっから俺に聞け」
俺の言葉に一瞬目を丸くしてから、ローリーは笑みを溢す。
「ふふ、わかった」
そう頷いたローリーに、俺も微笑み返した。
周年記念と言っていたのに更新が遅くなってすみません。
これからもこちらも『好きな人を友人に紹介しました』も読んでもらえると嬉しいです。
ただこちらはやはり更新かなりゆっくりになると思います。
これからもよろしくお願いします。




