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紹介


「はあ......」


 俺は廊下の窓から青い空を見つめながら大きく溜め息を吐いた。


 入学してから一ヶ月半。

 俺はガールドさんとまた話すことを楽しみにしていたのに、まだそれは叶っていない。

 入学して一ヶ月経った10月初めから学園祭の準備期間に入っているが、一年次である俺達はそれほど忙しくない。......学園祭委員以外は。


 振り返って教室の中を見る。クラスメイト達がほとんど揃っているが、二人程足りない。


 その二人は俺の友人であるユーヴェンと......ガールドさんである。


 俺は眉を寄せて再び空に目を向けて溜め息を吐いた。


 ――俺も学園祭委員に立候補すりゃよかったな......。


 ユーヴェンとガールドさんは学園祭委員に立候補して見事選ばれたのだ。

 だから二人とも忙しそうにしていて今も教室にいない。


 学園祭委員になったユーヴェンは楽しそうにこう報告してきた。


 『一年次で学園祭委員になったの俺と()()()()だけでさー、だからよく話すんだよ』


 へらへらと笑うユーヴェンを何故か思い切り叩きたくなった。


 ――あいつなんでガールドさんをすぐ名前で呼んでんだ!距離詰めんの早すぎなんだよ!


 名前を呼んでガールドさんの話をするユーヴェンが羨ましくて妬ましい。


 ――俺もガールドさんとまた話してぇのに……。


 また溜め息が出る。


 もっと学園祭委員に興味を持っておけばよかったと後悔ばかりしてしまう。

 そうしたら俺も学園祭委員になって、今頃ガールドさんとまた話せていたはずだ。


 ――……こんなにも話したいって思うのは……ガールドさんが……エーフィに似てるような……気がする、からか?


 この間話した時に妹だと言っていた。同じようなお守りを兄に渡したとも話していたし、エーフィのような妹なんだなと思ったのは事実だ。


 しかしそれだけなのだろうか。


 ――女の子に対する接し方、苦ではねえけどやっぱ少し疲れてんのかな……。


 成り行きでガールドさんには素で接していたから、もしかしたら疲れていて素で女の子と接したいとでも心の奥で思っているのかもしれない。


 けれど……ガールドさん以外には素で話そうとも思わない。


 その事を不思議に思いながら、再び教室の中に視線を戻す。


 あの綺麗な碧天のような青い瞳と、さらりとした亜麻色の髪を視界に捉えられないのはなんだか寂しい。


 ――……また、ユーヴェンの話大人しく聞くか……。


 お喋りなユーヴェンは色んな事を俺に話してくる。最近はガールドさんと学園祭委員で一緒だからガールドさんの話も多い。

 だからユーヴェンからガールドさんの様子を聞くのが最近の楽しみになってしまっている。……ユーヴェンが名前で呼んでいるのは気に入らないが。


 ――……ユーヴェンにエーフィの事も呼び捨てすんなって言ってるから……そんな気持ちなのかもしれねえな……。


 ガールドさんのお兄さんも、きっと可愛いガールドさんを溺愛しているはずだ。

 だから同じく妹を溺愛する兄として、こんなに簡単に男が近づいている事が許せないのだろうと思う。


 教室を見ていると、クラスメイトの女の子と目が合った。反射的に優しい微笑みを浮かべると、その女の子は頬を染める。その子が他の女の子と話すと全員こちらを向いたので優しい微笑みのまま手を振った。するとみんな頬を染めて楽しそうに喋り始めた。


 ――やっぱ女の子はみんな可愛いな。


 だからこうやってなるべく喜ばせるように対応している。


 なのに、ガールドさんには素で接してしまった。そしてそれを直そうとも思わない。


 ――別にガールドさん俺が素でも気にしてねぇし、直す必要ねぇもんな。


 窓の外の青い空に再び視線を向ける。


 綺麗な碧天の空は、ガールドさんの瞳に似ている。


 ――会いてぇな……。


 窓の縁を掴んでいた手に力を入れて、息をつく。


 ――次ガールドさんに会ったらぜってぇ話しかけよう。


 やはりガールドさんと話したい。


 いつもは俺が素で話しかけると目立ってしまうとか変に考えてしまうのと、ガールドさんに話しかけようと考えると妙に緊張してその機会を逃したりしていた。

 でもこんな風に後悔するくらいならさっさと話しかけるべきだ。


 ――よしっ!ぜってぇ話す!


 そう気合を入れた日の放課後。


 俺はユーヴェンの学園祭委員が終わるのを待っていた。

 別に先に帰ってもいいのだが、エーフィは母の職場に一緒に行っているので今家に帰っても誰もいない。姉もユーヴェンと同じく学園祭委員をしているし、ならユーヴェンを待っておこうと思ったのだ。

 母の職場には子供を預かる施設が整っていて、そこで幼年学校レベルの勉強も教えてもらえるので母も利用している。姉や俺もそこで勉強していた。

 ユーヴェンは幼年学校に通っていたので、ユーヴェンの方が知り合いは多い。このクラスにもユーヴェンは知り合いがいたみたいだった。


 ――まあ......あいつは人懐っこいからすぐに人と仲良くなるんだが......。


 だから知り合いがいないとしてもユーヴェンならすぐに友達を作っていただろう。今もクラスメイトの男子はほぼ友達になってるみたいだし。


 そしてその人懐っこさでガールドさんとも友達になったユーヴェンを思い出して少し眉を寄せた。


 ――......早く会えねぇかな......。俺、今度こそはガールドさんに話しかけて......。


「アリオーン」


 考えていると間の抜けた声が聞こえた。この声はさっきまで思い出していた奴の声だ。


「終わったのか、ユーヴェン」


 振り向きながらそう言って、ユーヴェンの方を見たと同時に目を見開く。ガタッと音を立てて座っていた椅子から立ち上がった。


 ユーヴェンの後ろには、肩まである亜麻色の髪をさらりと流し、碧天のように綺麗な青い瞳を俺の方に向けているガールドさんの姿があった。


 あの綺麗な碧天の瞳が、また俺を映している。

 ふわりと微笑まれて、息を呑んでしまった。


 ――やっぱり……ガールドさんって、すげえ綺麗で可愛い……!


 こんなに綺麗で可愛い子を見たのは初めてだからか、見るたび変に緊張しているのだ。


 ――そりゃ母さんも姉さんも綺麗だし、エーフィはすっげえ可愛いけど!


 家族以外でこんなにも綺麗で可愛いと思った事はない。


 ――ユーヴェンの母のアンナおばさんも綺麗だけど……家族に近えし……。


 なんだかガールドさんを前にすると心臓の鼓動が大きくなっている気がする。


 ユーヴェンはそんな俺をひとつも気にすることなく、ガールドさんと一緒に俺の方へと近づいてきた。


「アリオン!アリオンに仲良くなったローリー紹介しようと思って連れてきた!」


 にっと屈託なく笑うユーヴェンにこれほど感謝したことはないかもしれない。


 ――いや、話しかけようとは思ってはいたけど......でもたぶん紹介してもらった方が......早く仲良くなれそうなんだよな......!


 いつもユーヴェンは俺に自分の友達を紹介してくるが、まさかガールドさんまで連れてくると思わなかった。


 ――だって俺だったらこんなに綺麗で可愛い子ユーヴェンに紹介なんてしねぇし!


 だからユーヴェンには試験日に会ったガールドさんのことは言わなかったのだ。


 ユーヴェンはくるりとガールドさんの方を向くと俺の方に掌を向けた。それによって、ガールドさんの碧天の瞳が俺を真正面から映す。その真っ直ぐな青い瞳に心臓が変な鼓動を刻んだ。


「ローリー、こいつが俺の親友のアリオン・ブライト!」


 明るく俺をガールドさんに紹介したユーヴェンは俺に向き直る。榛色の目が楽しそうに細まった。


「それでアリオン、委員で仲良くなったローリー・ガールドさん。同じクラスだから見たことあるだろ?」


「そりゃ、もちろん」


 ――当たり前だろ!俺の方がユーヴェンより先にガールドさんのこと知ってたからな!


 なんの対抗心なのかそんなことを心の中でユーヴェンに返す。


 ガールドさんは俺の返事に綺麗な青い目を細めて笑った。その笑みに俺は静かに息を吐いた。


「ふふ、ユーヴェンの友達だったのね。ブライトくん、よろしく」


 可愛らしい声で紡がれた俺の名。それが嬉しいはずなのに......物足りない。軽く深呼吸をしてから、俺は口を開いた。


「……あー……ユーヴェンの友達なら……名前で呼び捨てでいいよ」


 首を掻いて少し目線をガールドさんから外してしまった。けれど、ユーヴェンと同じように俺の事もそう呼んで欲しいと思う。

 俺よりも少し低い青い目を伺うように見ると、不思議そうに瞬いている。


「そう?じゃあ……アリオン?」


 ガールドさんが確かめるように俺の名前を呼んだ。


 俺の名前がガールドさんの声で紡がれたことに、一瞬息を止めそうになった。


 ――やべぇ。なんだか知らねぇけど......すっげぇ嬉しい......!


「うん、それでいい。よろしく、ガールドさん」


 嬉しさに顔を緩めながら頷いて返すと、ガールドさんはおかしそうに笑いを零す。


「ふふ、私もローリーでいいわよ。そっちだけ名字でさん付けとかおかしいでしょ」


 ガールドさんの言葉にまた顔が緩んだ。

 名前を呼んでいいと言われた事が嬉しかった。


「そっか……。じゃあ、よろしく……ローリー」


 可愛くて綺麗なその名前を紡ぐと、ガールドさん......ローリーも嬉しそうに顔を緩めた。


「うん。よろしくね、アリオン」


 その言葉に思わず相貌を崩すと、ユーヴェンが俺の顔を覗き込んできたのでぎょっと身を引く。


「アリオン、ローリーにはキラキラ笑顔じゃないのな?」


「は?」


 思わず低い声で返してしまったが、俺が最近女の子にキラキラ笑顔でしか対応してなかったのでユーヴェンは不思議に思ったのだろう。つい目を逸らした。


「あ、やっぱりアリオン、なんか女の子にはちょっと態度違うわよね?不思議だったのよ」


 ローリーまでも会話に加わってくるので逃げる選択肢はなくなった。


「あー……お前に紹介された友達にまでキラキラ笑顔じゃなくていいだろ」


「そんなもんか」


 ユーヴェンは納得したように頷いた。ユーヴェンが女の子の友達を紹介してきたのは初めてだったのでどうにか誤魔化せたようだ。

 納得したユーヴェンは自分の席の方へと向かった。自分の荷物を取ってくるのだろう。


 納得したユーヴェンとは逆に、ローリーは更に不思議そうに首を傾げた。......不思議そうな顔も可愛いと思う。


「でも最初から……」


「流石にお礼言うのにあれはないかなって思ったんだよ……。あ、ユーヴェンにはお守り失くしそうになった事言わないでくれ、恥ずかしいから」


 やっぱりユーヴェンにはローリーとの出会いを知られたくなくて、そう頼む。すると綺麗な青い瞳をパチリとさせたローリーは、次の瞬間花が綻ぶように微笑んだ。


「ふふ、そっか」


 その綺麗で可愛い笑みに見とれながら、俺も頷いて笑った。


「何話してるんだ?」


 荷物を取ってこちらに戻ってきたユーヴェンに問い掛けられてローリーは首を振った。


「なんでもないわよ」


 そう言ったローリーは俺の方をいたずらっ子のような笑みで振り向いた。


「おう、なんでもねー」


 ローリーに同意しながら、これから楽しくなるであろう日々に心が弾んだ。


 まだ青さを保った空に、笑みを向ける。

 ローリーとまた話せた喜びを噛み締めながら、俺達は一緒に帰り道を歩いた。



読んでいただきありがとうございます。

18時頃と言っていたのに、少し投稿が遅くなってしまいました。

それと短編の続きではなく、連載版を作りました。

短編は短編のまま残しておこうと思います。

これからゆっくりですが、更新できたらと思います。

よろしくお願いします。


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