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気分転換に書いたものなので、これで完結です。

設定ではノアもフレイヤも単身ドラゴン倒せるレベルの強さですが、本編では一切いかされていません...。

「で、手紙だっけ?読んだよ――『ヒロイン』とやらがホールをうろついているところに俺が声をかける、だっけ?」

「そうよ。ノアルートの序盤ね」

「うーーーん…そもそも何で俺が声をかけるんだよ?第四皇子()の派閥の貴族家じゃないし、向こうは一文官の伯爵家だろ?」


 接点がないと暗に言われて、フレイヤもそれには同意している。彼は前世でいう体育会系寄りなので、騎士団の文官でもないヒロインの父親の伯爵とさして関わりは無いのだ。精々が公の場でのあいさつ程度。彼の家族構成は皇族の義務として把握しているが、それだけだ。フレイヤはため息をついて首を横に振る。


「ごめんなさい。子供の頃ならともかく、今となっては前の記憶が曖昧で…詳しくは覚えてないけど、まぁゲームのシナリオが始まらないからいい感じの場面で出会いイベントを作るとなると、舞踏会ってうってつけだと思うのよ」

「そりゃ舞踏会ってそういう意味合いもあるけどさ。それって既に婚約者(フレイヤ)がいる俺には関係ないじゃん………興味もない」


 最後の一言は小さく、不貞腐れているみたいな口調だった。フレイヤはちょっときゅんとした。


「とっ、とにかく!そういう事だからピンクのドレスに茶髪の可愛い令嬢がいたら、声をかけないでよ!いい?ピンクのドレスだからね?…分かった!?」

「はいはい」


 そろそろ皇族の入場が近いのか侍従が自分たちを呼びに来たのを横目で確認したノアは、残念そうに抱擁を解く。すっと立ち上がった二人は皇族とその婚約者として相応しいすました表情に切り替えると、ノアのエスコートで部屋を後にした。そうして華やかな舞踏会で息の合った軽やかなファーストダンスを披露し周囲に砂糖をまき散らした二人は、それぞれの友人に声をかけられて暫し別行動をしていたのだった。


「―――やぁノア。相変わらず見事なダンスだったね」


 友人と歓談中に不意に声をかけられて、自身を呼び捨てにする柔和な声に振り向いた。そこにはノアと同じ父親譲りの銀髪を後ろで一纏めにした優しそうな青年が、傍らに黒髪の美女を伴って佇んでいた。どこかノアと似た顔立ちの高貴なオーラを放つ彼は、ノアの実兄であり皇太子のルーカス・フィオレンツァ。横にいるのは一昨年政略結婚した隣国の王女だ。友人達は一礼して静かに立ち去る。兄に向き直った彼は小首を傾げて笑う。


「そう?自分じゃよく分からないな」

「だろうねぇ。お前は良く見せようとして踊っているわけでは無いだろうし」


 困ったように笑って肩を竦めたルーカスは、『リアムも言っていたのだけどね』と側妃の子で昨年公爵家に婿入りした元第二皇子の名を上げる。


「ノアはいつもラムリー侯爵令嬢と踊った後は友人と一緒にいるだろう?皇子としてちょっとどうかとお兄ちゃん達思うの」

「???」


 意味が分からずに首を傾げると、皇太子妃のエレオノールは扇で隠した口元に微苦笑を浮かべた。これから夫が言う事はきっと彼を困らせる。そう分かっていても、彼女は優雅な笑みをたたえたままじっと義弟を観察していた。ノア、と夫が優しい声で彼の名を呼ぶ。皇后譲りの薄紫と金が混ざった双眸が真っすぐルーカスに向けられた。


「君、他のご令嬢とも社交してきなさい」

「――――へ?」




 社交。つまり今はダンスをしろという事だろう。兄夫婦と別れて挨拶回りをしながらそう考える。しかし誰とだ。自身の派閥の貴族達にはいつも生温い目で『ダンス?あっ大丈夫です』と言われるので、ノアはデビュタントの令嬢を除けば本当にフレイヤとしか踊らない。


(ハリントン嬢は駄目だな、フレイヤが嫌がる。踊るなら皇族派か中立派の家なんだけど……ん?)


 何とはなしに目だけで周囲を見回していると、ふと視界の隅に珊瑚色のドレスの裾が映った。其方に視線を向ければ、焦げ茶の髪を結い上げた令嬢が一人でホールの隅を歩いている。胸の前で両手を組んでしきりに周囲を見渡す姿は、デビュタントを迎えたばかりの令嬢に似ていた。生憎ノアは異性に無頓着なので、その令嬢がいつ社交界デビューしたかなどさっぱり覚えていない。ただ、一人なら都合がいい。皇室と対立している派閥の人間は把握している。彼女に心当たりがないので違う派閥だろうとあたりをつけて、ノアは兄から与えられたノルマを達成するために、進行方向を変えた。


 先の令嬢に声をかけて一曲踊ったのだが…ノアとフレイヤには認識の齟齬があった。ピンクと珊瑚色(コーラルレッド)、茶髪と焦げ茶。ノアとフレイヤは一つミスをしていた。肝心のヒロインの名前を共有していなかったのだ。


「………は?なんでノアがヒロインと踊っているのよ?」




 そうして、時は冒頭に戻るのである。


■ノア・フィオレンツァ

主人公。オルグレン帝国の第四皇子。16歳。

ルーカスとは同腹。しょっちゅう城を抜け出して遊び歩く(深い意味は無い)放蕩皇子。下品に見えない程度に着崩した格好をしている。


長兄と異母兄が政略結婚したためその必要が無く、幼少期から仲の良かったフレイヤとの婚約となった。なんだかんだ言ってフレイヤが好き。


目を引く輝く銀髪に下半分に金が混ざった薄紫の双眸の美形。両親の美貌を余すところなく受け継いだ、兄弟一の美男子。剣術が得意だが、余計な争いを避けるために普段から放蕩皇子を装っている。


■フレイヤ・ラムリー

侯爵令嬢。ノアの婚約者。15歳。

魔術の天才。『淑女が魔術を扱うなんてはしたない』という風潮を止めたかった&護身術の一環として侯爵から魔術を習う事を認められている。


二十代の日本人女性の記憶を持つため妙に達観した物の見方をする事がある。ノア共々ゲームには登場しないが、婚約者がヒロインに目を付けられるorヒロインに惚れたらどうしようと内心不安でいっぱい。が、蓋を開ければ無自覚両想いの幼馴染みカップルなので無問題。なんだかんだ言ってノアが好き。


金の巻き毛に赤い双眸の派手な美人。

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