ルーシエと言う青年 その1
閑話となります。
ルーシエ・レトリー 17歳
人口5000人と小さな島国レトリーの王家嫡男である。
王家とはいえ 本人達も言っているように感覚としては村長や町長の感覚だ。
人口よりも家畜数の多いこの国でのんびりと育ち本人の気性も穏やかではある。
が、穏やか過ぎる気がしなくもない。
そして同世代が少ない為か少々人付き合いが不器用である。
そんなルーシエではあるが魔力量と質の高さは国内一だったりもする。
近隣諸国と合わせても片手に入るくらいだ。
ある日父であるバルドに相談され精霊の愛し子を呼び出す事になった。
異世界から呼び出すとの事なので最初は戸惑った。
呼び出しの儀が成功すればその愛し子のこれまでの生活を奪う事になるからだ。
だがすでに300年もの間 国内で愛し子が誕生していない。
今は良好な関係を保っている精霊達だが意思の疎通が出来ないままでは
何かと不都合が生じる事もある。
言動の真意が伝わらないもどかしさをルーシエは身をもって知っている。
まぁルーシエの場合は 口下手 とも言えるのだが。
近隣諸国から愛し子を派遣してもらおうにも
通常は各国一世代に1人しか誕生しない為それも無理な話だ。
『 1人の人生を大きく変えてしまうのだから
俺がしっかりと責任もってその人を支えていかねば・・・ 』
そう決意して行った呼び出しの儀。
弟のラファイエも「兄上だけに責任を押し付けたくない」と立ち会っている。
屋敷内の礼拝室にある精霊王の像にゆっくりと魔力を込めながら祈る。
足元に現れた魔法陣がブワッと光を放ったと思えばそこに1人の女性が現れた。
が、その女性を見た2人は固まってしまい声を掛ける処ではなくなっていた。
何せ一糸纏わぬ姿で、何故か片手桶を携え茫然と立ちすくんでいる女性。
完全に予想外の事である。勿論女性にとっても予想外の出来事であったろう。
3人共硬直したまま視線を動かす事も出来ずにそのまま数秒。
真っ先に我に返ったのは女性であった。
スパコーンッ
女性の手に有ったはずの片手桶は子気味いい音と共にルーシエの額に当たった。
その音と額の痛みでルーシエも我に返る。
何か言わなければと焦ってしまったルーシエの口から出た言葉は
「 す・・・すまない。その・・・凝視するつもりは無かったんだが・・・ 」
そうじゃないだろ、凝視してると思うなら視線を外せよ兄上
ここは僕がフォローを入れなければと口を開けば
「 そのっ・・・予想外で・・・申し訳ありませんっ 」
これまた残念な言葉しか出てこなかった。
だが硬直も解け視線をそらす事が出来たのは幸いだったろう。
それでいて残念な事に もっと優先すべき事に気が付かない残念兄弟。
「あの、取り敢えず何か着る物をおね・・・クシュンッ」
ああそうだ!とラファイエが上着を脱ぎ手渡そうとした瞬間
女性の体がグラリと傾くのが視界の片隅に移った。
倒れる!
素早く受け止めたのはルーシエだった。
一糸纏わぬ姿だったので風邪をひいてしまったのだろうか。
そもそも何故一糸纏わぬ姿で現れたのか、しかも片手桶を携えて・・・。
その疑問はすぐに解消される事となる。
石鹸のほのかな香りと濡れた髪。
(入浴中であったか、なんとも間の悪い・・・)
だが今はそんな事を考えている場合ではない。
早くベットに運び温めて休ませてやらねばならない。
しかしどうやって運べば。 上着を掛けた所で全体を包み込む事は出来まい。
すっ と大判のバスローブが差し出された。 老齢の執事トマスである。
何処から出したなどは愚問である、なにせトマスなのだから。
ルーシエはそれを受け取り女性を包んで抱きかかえる。
もしその女性の意識があったとしたら
【 ひぇっ 横抱き?! お姫様抱っこ?! ひゃぁぁぁ恥ずかしすぎる!】
と叫んでいたかもしれない。 叫ばなかったかもしれない。
女性を客室のベットに横たえた後は母アルテイシアとメイド達が引き継いだ。
兄弟2人は明日また様子を見に来る事にして父バルドの元へ報告に向う。
一糸纏わぬ姿だったと余計な事は言わない様に釘をさされたルーシエであった。
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