7(95).伝承と限界集落
乾燥した草、薬の苦い香り、決して居心地のいい場所ではない。
エルフの長老は、スキンを取り話を始めた。
その姿は、他のエルフとは違い薄い褐色の肌である。
彼は僕の視線に気づき、まずはと自身のことを話す。
「ハハハッ、やはり珍しいかね。」
「私はね、子らとは少し違うのだよ。」
彼の肌は他のエルフに比べ、師匠のそれに近い色だ。
彼は、僕に紅茶を勧め、自身も口を付ける。
静かに話す言葉には、偽証や詐称は無いように感じた。
彼は、古代魔法王国戦争の際、反王政波に加担した者の末裔だという。
そして、彼は、レマリオ達とは血が繋がっていないとも話した。
彼は、迫害された"ハーフエルフ"の姉弟3人を引き取り育てたと話す。
集落のハーフエルフ達も同じように集め、生活の出来る環境を与えた。
そういう彼は、"エルフ"だと話す。
とは言え、末裔であって純血ではない。
そのせいか、彼の話はハーフエルフの事が多い。
古代魔法王国時代から、ハーフエルフは、自身の生まれを呪った。
それは、エルフからはハフマー、混ざった人、雑種と罵られていた為だ。
戦争が終わり、黒エルフ達はその姿を減らし、世界から姿を隠した。
その結果、ハーフエルフ達は、自らを”エルフ”というようになったそうだ。
しかし弊害もあり、戦争の元となった"エルフ"とされ迫害されたという。
そんな時代に彼は、数を減らした同族から離れ世界を旅をした。
ヒューマンの世界では、並みの ”エルフ” は辛い思いを強いられる。
彼はその姿を悲しく想い、彼らを集め、この村を作った。
その後の話は、レマリオの語った村の体質への流れだ。
話を語る長老の表情は重い。
彼の祖先たちは、古代魔法王朝時代に調子よく立ち回る。
その結果、信用を無くし、付け込まれ利用された。
それは、他種族へ疑心暗鬼になり、内輪で血を濃くしていく。
長老は、これが種族としての贖罪なのかもしれないと語った。
僕は、暗い空気を換えるべく、長老に黒エルフの質問する。
彼は、お茶を口に運び、僕の質問に静かに答えを返す。
「まぁ、急かすなね。」
「君の言う黒エルフ、そうアルマーは、小さな集落に隠れ住んでいるよ。」
「私はね、彼らに反旗を翻した家系だがね、元は王家を守る騎士の家系だ。」
「彼らを守る様にと遺言もある・・・世界樹に行ってごらんなさい。」
「君の求める答えがあるかもしれないよ。」
僕は、長老に頭を下げ、通行証を受け取り彼の部屋を後にした。
彼は、種族の話以外にも世界樹の成り立ちについて語った。
それは、伝承と変わるものではない。
勇者や聖女と呼ばれた存在が、神を封じたモノが世界樹だ。
その語りは、又聞きを話す様に感じた。
その為か、それまでの話程は生きた話ではない。
僕は、長老の話を聞いてリィージィが彼の父に似ていない事が腑に落ちる。
それはリィージィは父ではなく、レマリオに似ている様に思えたからだ。
そんな時、ラスティは僕の顔を見ながらツンとした声でいう。
「ウチ、あの村嫌い・・・みんな同じ様な匂いがするんだもん。」
僕は、これ以上、この村に深入りする事を止めた。
人の見えない町並みは、視線だけを感じる。
静かだが、気持ちの悪い目抜き通り。
自分が踏む砂の音だけが聞こえる空間に駆ける足音が近づく。
村を出る僕に、レマリオは爽やかに声をかけた。
「悪い、報酬が遅くなったな。 橋まで送るよ。」
僕は、レマリオから銀貨10枚を受け取り、橋までならと共に歩いた。
その場は、妙な空気が支配している。
長老の話の後では仕方がない。
沈黙の中、足音は大きなつり橋の前で止まる。
そして、レマリオは背後から僕の肩を掴む。
「ルシア、やっぱり俺とパーティーを組む気はないのか?」
僕は、振り返らず首を縦に振り彼と別れた。
橋には簡易的なゲートが設けられ、二人の白エルフが守る。
僕は、長老から貰った通行証を見せる。
彼らは、注意深く見るが、争い無く橋に踏み込むことができた。
谷からは、真上に吹き上がる風がつり橋を叩く。
ラスティは興味本位で懐から乗り出すも、高さを目の当たりにし懐へ戻った。
僕達を見送る男は声を張る。
「ルシア! 俺も旅に出る!! 会うことがあったらまた冒険しようぜ!」
彼は、いつも僕に正面からぶつかってくる。
彼の好意はともかく、そういう性格は好きだ。
僕は、振り返り、手を振って応えた。
「レマリオ! またね!」
僕は、軋む橋をゆっくりと進む。
正面には巨木と一言で言い表せない壁が深い影を落とす。
足元の危うさとは裏腹に、その景色だけは美しい。
ラスティは、胸元からその小さな頭をちょこんと出し声を投げる。
「ミーシャも見てるよね。」
僕は、彼女の頭を軽く撫でソレに頷く。
そして、腰に下げた彼女の想いを握りしめた。
温かい日差しを乗せた風が、僕の髪を後から優しく撫でる。
それは彼女の温かさにも思えた。
静かに、そして雄大に鎮座する世界樹。
その姿は僕たちを優しく迎えている様だった。




