表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/325

6(94).妙薬と限界集落

金色の髪が朝日を映し、その煌めきを纏う。

神々しくも見える少年は、外見に相応しい笑顔で僕たちを迎えた。

一方、村は相変わらずで、人の姿は門番のみだ。

僕は、リィージィに手を引かれ、薬師の元へ向かった。

着いた建物は、既に入ったことのある族長の屋敷。

中に入ると、こちらも相変わらずだ。

警戒を通り越し、殺意すら感じる廊下を進む。

リィージは、立派な扉の前で数回ノックし声をかける。


「お爺様、リィージィです。 入ってもよろしいですか?」


中からは、しゃがれてはいるが、優しい声で入室を許可。

リィージィは扉を開け、笑顔で僕の手を取り中へ誘う。


「お前も来たのか、レマリオ。」


長老は、後ろを歩く上背の男に、ため息交じりの声を投げる。

しかし、間にいる僕には、視線すら合わさない。

リィージィは、そんなことは気にせず、老人の元へ向かう。

レマリオは、老人へ状況を話しつつ、薬の作成を依頼した。


「素材持ってきたから、姉さんの薬を頼むよ。」

「調達は、このルシア嬢がやってくれたんだぜ。 ちったー感謝しろよ。」


レマリオは、僕の背中を軽く叩き、長老に意識させた。

長老の目は、彼の狙い通り僕へ向く。

その頭巾から覗く瞳は、老人とは思えない程に強い光があった。


「そうかい、この娘がな・・・」

「これは失礼した。 娘の為にありがとう。」

「では、調合しようかね・・・」


長老は、おもむろに椅子から立つと、彼の後ろの扉に入って行った。

僕達は彼に続き、その部屋へ素材を運ぶ。

そこは、青臭く、乾いた草の匂いが立ち込めている。

レマリオは、長老が調薬を始める前にひとつの注意をした。


「オヤジ、今回は鹿角霊芝があった。無駄にしないでくれよ。」


長老は頷き、前回の調整を子と孫に伝える。

それは、協力をさせる為ではなく、彼らの信用を得る為だ。

内容は単純で、煮詰める水の量を調節しただけ。

その事に対し、レマリオは、同じことを繰り返しているという。

一方、リィージィは、水以外でできないかと質問していた。

結果は、子孫たちは長老の意見に納得。

僕はその会話を聞いていたが、長老の行っていることは正しかった。

この病気は、僕の母が患っていた病と同じ。

その為、効果のある薬や素材は知っている。

もちろん、師匠の蔵書にもその資料はあった。

僕の知る限り、長老の技術で生成される薬は、市販薬の比ではない程濃い。

それでも、彼らの言う"伝承"に比べると濃度が薄いという。

作業を始めようとする長老に僕は質問した。


「長老、水は魔力水を使うのですか?」


すると長老は、目を閉じ首を横に振り違うと話す。

その仕草は、知識も無いのにと言わんばかりだ。

さらに、長老はため息をつき一言放つ。


「・・・ヒューマーごときに何がわかるか。」


僕は、彼の言葉に妙な訛り方を感じたが、真意を話すことにした。

長老は、少し苛立ちながらも、子孫に諫められ話を聞く。


「魔力水は、魔力が加わり効果が変わるのは知ってます。」

「ですが、煮詰めた後に、その魔力ごと分解し消してしまえば関係ありません。」

「エキスのみ抽出できるはずです。」


長老は、先ほどと同じように首を振る。

そして、机上の空論だと言わんばかりに罵倒を飛ばす。


「だからヒューマーというのだ。」

「魔力水など分解できるはずがない! わかるかヒューマー」


ぼくは、長老の不可能を可能にできることを告げた。

彼は眉を顰めるが、横の二人の目は希望に満ちている。

僕は、失敗したら、また素材を集める事を約束し、調薬を手伝った。

僕は、長老に密閉できる容器を頼み、その中に素材を入れる。

最後に、リィージィの水魔法で水を入れ密封させた。

長老は、半信半疑で僕に声をかける。


「で、どうするんだ。これを火にくべるのか?」

「フハハハァ、バカバカしい。 容器が燃えてしまうわ。」


僕は、3人に師匠の本にあった圧縮熱の説明をした。

すると、レマリオは理解したのか、容器内の魔力水を圧縮していく。

すると魔力水が沸騰し始めた。

呆然とする長老の瞳には光が増す。

そして、長老から指示場飛ぶ。


「リィージィや、そこの砂時計をとってくれ。」

「レマリオ、沸騰を半時保てよ。」


レマリオの魔力は徐々に減り、総量の半分を切る。

僕は、彼に魔力譲渡をかけ、適度にその魔力を保つ。

砂時計は、上から下に全てが流れ落ちた。

長老は、僕に視線を送り、次の指示を飛ばす。


「娘よ。魔力水を消してくれ。」


僕は頷き、容器に手を当て、魔力水に僕の魔力を合わせた。

誇らしげな声が頭の中を駆け抜け、鼻から血が流れ落ちた。

容器の中は、水魔法で使われた魔力と共に"水"が消える

そこには、凝固した何かと素材が潰されていく。


「コレ! レマリオ圧縮を止めい。」


長老の叱りを受けたレマリオは、即座に魔法を解除。

彼は肩で息をしているが、僕の顔を見て鼻に手を伸ばす。

すると彼は、僕の鼻血を布で拭い声をかける。


「ハハッ、やるなルシア。 やっぱり俺と旅しようぜ。」


僕は、彼に礼を言いつつ、布を奪い自分で拭き取る。

その姿にリィージィも長老も笑う。

そして長老は、結果を目の当たりにし、僕に頭を下げた。


「ルシアよ。 先ほどの非礼すまなかったな。」


僕は、長老に気にしていないことを告げ、次の指示を仰いだ。

長老は、この凝固したナニカが生成された薬だという。

僕は、液体状の何かを期待していたが、丸薬が正解らしい。

僕達は薬を持ち、患者の元へ向かった。



長老の屋敷の上層階へ向かう。

リィージィの足取りは軽く、僕たちを置き去りにする程だ。

彼は、目的の部屋をノックすることなく、声を掛け中に入る。

その姿は、その見た目相応に思えた。


「母様、伝承通りの薬ができたんですよ。」

「これで治るんですよ。」


彼は、ベットで上半身を起こす女性に抱き着き、その喜びを女性に告げる。

ベットの女性は、彼の頭を撫で、後に続くレマリオに説明を求めた。

レマリオが、掻い摘んで説明していると、ようやく長老が部屋に到着する。

女性は、長老にその真偽を確かめる。

長老は、微笑み、深く頷いた。

彼女の目からは、ゆっくりと涙が溢れる。

リィージィは、凝固したナニカを小分けにして女性に渡す。

彼女の表情は不安だが、親族を信じ、丸薬を口に含み水で流し込む。

3日ほど夕餉の後に飲み続けた。

そして、彼女の魔力は自然に減る事は無くなった。

その結果は嬉しく感じた反面、心から喜ぶことができない自分がいる。

もしあの時、母にこの薬を・・・と。

10日も経つと、彼女は普通に生活をしていた。

リィージィは、今まで以上に笑顔が増え、よく彼の母の元を訪れている様だ。

その10日間は、3人の親族や使用人たちが喜ぶ姿を見かけた。

しかし、2人の親族は僕に対しての当たりを強くした。

それはまるで、疫病神でも引き込んだかの様にだ。

僕は、完治したリィージィの母に呼ばれ礼をされた。

その場には、息子もいたが二人の雰囲気は、親子のそれには見えない。

僕は、彼らの部屋を後に、下の階へ向かう。

そこみちすがら長老に遭遇。

長老は、僕を探していた様で部屋に招かれた。

僕は、長老に指示されるまま、部屋の扉を閉め、勧められた椅子に座る。

すると長老は深く頭を下げ、話を始めた。


「ルシア殿。本当にありがとう。」

「貴殿には、礼をせねばと思っておってな。」


長老は、僕の前に通行証を置き、話を続ける。

この証書は、世界樹の麓へ渡る橋の通行証だという。

これがあれば、その橋をエルフでなくても通れるそうだ。

さらに長老の話はまだ続いた。

それは、世界樹の成り立ちだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ