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4(92).自然との共存

村を出ると、明け方とはいえ、早々に湿気が纏わりつく。

僕達は、レマリオと共に薬の材料を探し大森林を探索する。

必要な素材は、霊芝(れいし)茯苓(ぶくりょう)、アモリウム、万年苔の4つだ。

まずは、小さな山を目指す。

村から東へ向かい、太古の森を突進む。

まだ薄暗い森は、奇怪な囀り、そして甲高い遠吠え。

恐怖心を掻き勝てる喧騒は、優しい声が覆う様にかき消す。


「森の声は怖くないよ。」


声の主は、視線を飛ばすこと無く、その上背ある背中で語る。

僕は、またかと思い、眉を顰め半眼でそれをねめつけた。

静かな行軍は、平地から斜面へ進む。

足場の悪い段差では、レマリオは僕へ手を伸ばし笑顔を飛ばす。

絵面だけ見れば、見目え麗しい優男。

僕は、彼の行為に断りを入れる。


「その想いは勘違いだよ。 僕は男だ。」


彼は鼻で笑い、僕の腕を取り崖の上へ引き上げた。

彼は視線優しく笑う。そして見つめることなく視線を前へ戻す。

そして、僕を目的地へ導いた。

風景は、古代の森から植生が変わり、ナラやクヌギが目立つ。

森を進み、彼は、辺りを見回し倒木を探し始めた。


「この辺は、俺らの先祖が植えたんだぜ。」

「クヌギやナラは、色んなモンに使えるからな。」


僕は雑な相槌を返しながら、彼に倣いに古木を探す。

彼は、何かを見つけると、辺りを荒らさないようにゆっくりと進む。


「ルシア、ゆっくり来い!  荒らすなよ。」


僕は、彼の指示に従い、彼の元へ地面を確かめながら進む。

そして、地面に屈み何かを採取するレマリオを影で覆った。

彼は、僕に振り返り、茶褐色の鹿の角の様な茸を観せる。


鹿角霊芝(ろっかくれいし)だ。 今日は運がイイ。」

「それにしても、キミは森の歩き方を知っているようだな。」


彼の表情は、女性に向ける笑顔ではない。

それは、説明を理解した子供に向けるものだ。

彼は、視線を落とし、村のことについて話し始めた。


「キミは感じただろ・・・村の連中は、外の人間を嫌ってるよ。」

「昔は、そうでもなかったらしいけどね・・・」


彼は歩きながら語る。

その内容は、人の感覚では遠い昔の事だ。

村に招き入れた人間は、次第に態度を大きくした。

そして先祖が造った環境を破壊していったという。

そこには礼儀はなく、知らなかったと悪びれるもしない。

それでも村人たちは、環境を戻そうと努める。

その間もエルフの国へ来る者は、それを繰り返す。

エルフ達は太古の戦争で森に追いやられた。

そこで、ようやく息づいた生活を彼らは荒らし奪う。

しだいに、エルフ達は来る者を拒む様に変わっていった。

今では、それも進み、排他的に変わったのだという。

僕は、その話を聞きながら、寝息を立てるラスティを撫でる。

彼らの想いは、ミーシャの想いにも似たものを感じた。

レマリオは少し笑い、森の中を静かに進んでいく。

その背中は、少し悲しそうだった。



クヌギやブナの森から南西に進み少し標高が高くなる。

周りの木々の葉は細くなり、木の肌も赤みが増していく。

彼は笑顔で木の根元をあさりだした。


「ルシア見ろよ! 松茸だぞ!!」


彼は屈んだまま辺りをあさり、6本ほど茸を採取した。

その茸は、匂いと歯触りが良い茸だという。

しかし、目的の素材ではない。

彼は場所を変え、T字の道具を背嚢から取り出す。

そして、地面をつつき始めた。

その表情は、眉を顰め真剣だ。

彼は、手に伝わる感覚を確かめる様に地面を刺し進む。

半時ほど続けると、大きくため息をついた。


「はぁー・・・俺この手の作業苦手なんだわ。」

「無理にでもリィージィ連れてくりゃよかったな。」


彼の話では、リィージィは村でも優秀な"茯苓突き"だという。

茯苓突きは、先ほどからレマリオが行っている行為だ。

僕は、唇を噛むが、それでも危険な場所に子供は連れて来れない。

しかし、それは間違いだった。

僕の思い込みにレマリオは笑い、リィージィの事を軽く話す。

リィージィは、あれで90歳を超えているという。

思い込みは、小さなことでも問題を起こす。

さらに半時ほど経ち、レマリオは歓喜の声を上げる。

そして、その場所を小さなスコップで掘り始めた。

そこからは、ジャガイモの様な瘤の付いた根が現れる。

彼は、それが茯苓だと説明した。

彼の説明が終わる頃、日は西の空に沈み始めていた。

僕達は、急いで焚火の用意をする。

レマリオは、僕に声をかけた。


「ルシア、火種だけ作てくれ。 あとは俺が全部やるよ。」


僕は、少し疑問を感じたが、背嚢から縄を取り出し解す。

そして、ファイアスタータで種火を作る。

その火種が消えない様に、僕はゆっくりと彼に手渡す。

彼は、それを天にかざし、魔力を声に乗せて森の精霊に語り掛けた。


『イ デゼーア ニーフ、ヴァルト クレト スミルテ、セレイ ヒュー フラマ トゥッカ。』


彼に数多の光が集まり、彼は光に包まれる。

すると彼を包んだ光は、彼の手に集まり、その正面で奇跡を起こす。

大地から樹木が生え、適当な大きさで瑞々しさを失い、枯れ木へと変わり倒れる。

それは、恐ろしい速さで時の流れを見せた。

そして天に浮く火種が消えると、一拍おき、枯れ木が燃え上がる。

彼は、僕たちに視線を向け問いかける。


「精霊魔法は初めてかい?」


目の前に現れた焚き火は、そこはかとなく神々しい。

消えることのない炎に照らされるドヤ顔は、気持ちの良いモノではなかった。


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