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31(88).追憶と恋慕

頬を撫でる風は、湿気が消え、砂を含み吹き付けた。

砂漠を進む砂上船は、砂原の荒波を滑る。

僕達は、ファウダ王ヴィシュヌバ一行と共にファウダ王都を目指す。

彼は、その澄んだ声で様々だ詩歌を語る。

そして、昔のミーシャの事も僕たちに話した。


ヴィシュヌバとオルハウル、そしてリーベは幼少期から面識があった。

それは、幼馴染の様な関係だったという。

ミーシャが生まれると、リーベは彼女を連れかられと共に過ごす。

そして月日が経ち、ミーシャは、彼らの輪に入り、学び遊んでいた。

彼らも、ミーシャの事を愛おしく想い、実の妹の様に接したという。

3年もすると、ミーシャは女性へと変わる。

そして、兄のように慕うオルハウルに想いを寄せたそうだ。

それから、1年もするとオルハウルは、リーベを妻へ向かえた。

彼らは、以前より仲睦まじく見えた。

そして、ミーシャも姉とオルハウルの結婚を喜んだ。

それからはミーシャが、姉の仕事を継ぎ、外交官としてラトゥールに仕えた。

彼女は、よく姉の元を訪ねていた。

しかし姉は、体調を壊し衰弱していった。

そして、7年前に死んでしまう。

ミーシャは、姉の衰弱と、仕事にのみ時間を割いたオルハウルを紐づける。

その結果、慕った想いの分だけ重く彼を嫌う事になった。

オルハウルは、真実を告げず、彼女を否定しない。

彼にしたら、リーベだけを観ることができなかった事は間違ではない。

しかし、ミーシャとオルハウルの間では、2つのズレがあった。

それは、オルハウルの想いと、リーベの死因だ。

オルハウルは、心からリーベを愛しリーベもまた同じ気持ちだった事。

そして、彼女の死因はその生まれが原因だった事だ。

リーベは、ミーシャと同じ様に生まれつき魔力が高い。

そして、複数の属性適性を持った稀有な存在。

それは、獣人とって全てを喜ぶべききことではない。

ケットシーやスコルの平均寿命は、ヒューマンより短い。

いくら長寿でも50年がいいところ、平均で30程度だ。

しかし、リーベは魔力と引き換えにその体は弱い。

彼女の様に魔力の多い者の寿命は短く、良くても20年程度。

オルハウルは、財を投じ彼女に尽くした。

しかし無情にも効果は見られない。

彼は、その自分の無力さと不甲斐なさに、昔の様な笑顔を亡くした。

オルハウルは、ヴィシュヌバとの酒の席でよく涙を流したという。

ミーシャとオルハウルは、同じ者への気持ちは一緒だった。

しかし、言葉を交わさぬまま、お互いにすれ違う日々が続いたと。


ヴィシュヌバは、僕に視線を向け話をまとめる。

その表情は優しいく、師が弟子にモノを解く様だった。


「我は、お前に感謝している。」

「人と獣は、言葉を交わせぬ。」

「しかし、人同士ならそれも叶う。」

「だがな、交わせたとて、その心は分かり合えぬモノよ。」

「ルシア、ミーシャの想い忘れるなよ。」


そしてヴィシュヌバは、部屋窓を開け、空気を入れ替える。

砂原を見る彼の瞳には遠い記憶が映る。

彼は、遠い日の4人の記憶を風に乗せ、神へ祈りを捧げた。


翌日も砂原を進む船はでは、王の詩が心地よく流れる。

彼の声が、その場を変えていく。

それは、ミーシャが好きな詩歌だという。


遠い昔の出来事。

大精霊アプサラスと王子プルラヴァスの異種族愛の話だ。

アプサラスは、天界の舞姫で日々、神々の目を楽しませた。

彼女達には、永遠の命があたえられ変わらぬ日々。

彼女は、そんな日々に飽き、人間界に興味を持った。

彼女のしがない日々は、1人の男で色付く物に変る。

その若者はプルラヴァス。勇敢で美しい若者。

彼の名声は諸国に轟く程だった。

ある遠征で彼には不幸が降りかかる。

彼は道に迷い、部隊は彼を残して全滅。

1人生き残った彼は、生死を彷徨った。

その光景にアプサラスは悲観し、人の姿で彼の元へ姿を現す。

その姿は、美しい水龍人の姫。

彼女は、瑞々しい果実を彼に与え彼の命を救った。

プルラヴァスは、命の恩人を追ったがその姿は無い。

彼女は、天界の掟を守り、彼を残して天界に戻ったのだ。

天界に戻った彼女は、それからも彼を観察する日々を続けた。

彼の見せる表情や、その立ち振る舞いは、彼女の心を締め付ける。

それは、彼女から舞うことを奪った。

彼女は、ジレンマに苛まれるの彼への気持ちは抑えられない。

そして彼女は哀傷を負っていく。

その姿に見かねた女神ガーティナは、アプサラスに条件付きの愛を認めた。

それは、二人の愛が地上で公にならない限り、地上で暮らす事を認める物だ。

アプサラスは、女神に礼を言い、地上へ降りた。

彼女は、彼を探し地上を彷徨う。

その頃、世界は戦乱の渦中だった。

それでも彼女は、愛しき人を彷徨い探す。

そんな姿に興味を持たない者などいない。

ただその想いは、相手を想うモノだけではない。

彼女は、求められる想いを受け取らず、プルラヴァスを探す。

そしてある時に、当時最も権力を持つ王から求愛された。

アプサラスは、王の問いに首を縦に振らない。

王は激怒し、彼女を砂漠の牢に閉じ込めてしまった。

そして、幾年月が過ぎていく。

その話を耳にしたプルラヴァスは、その外見からあの時の女性だと感じとる。

男は全てを捨てて、アプサラスの救出へ向かう。

そして男はアプサラスを救いだし、その暴君を打ち倒した。

時代は動き、彼はその国の王となる。

二人は平定した国で、お互いを慈しみ心安らぐ日々を過ごした。

しかし、それは簡単崩れていく。

彼女の想いと行動は一致しない。

お互いの関係性もそうだが、彼女が時折見せる表情もそうだ。

アプサラスが見せる表情は、彼への愛が感じられたが、その奥に寂しさがある。

それは、二人の関係を深く進展させない原因になっていた。

そんな中、プルラヴィスの家臣たちは、二人の関係に不信を擁く。

なぜ国王は、アプサラスを妃にせず、世継ぎを作らないのかと。

そしてその不信は、次第に疑心へと変わり、家臣達は国の行末を嘆いた。

一方、天界では、アプサラスが戻らないことを問題視する者が増えた。

それは、大精霊が人間界に長居しては、世界のバランスが崩れてしまうからだ。

もちろん、アプサラスを送り出した女神はそれを知っていた。

何故なら彼女の願いはだた一つ。

それは、夫である最高神ヴェスティアが世界を創造する姿を見る事だ。

彼女は、それを見る為なら人間界など、どうなってもよいと考えている。

それの為、アプサラスを人間界に干渉させたのだ。

息子である魔神は、その考えを察し、アプサラスに天界に戻る様に促した。

しかしアプサラスは、女神の言葉を盾に天界へ戻ることを拒否。

魔神は、妻である鬼神アテーナイエへ相談し事を納めようと動く。

すると鬼神は姿を変え、地上に降りた。

そして老賢者の姿でプルラヴィスの家臣に真実を伝える。

これによりアプサラスは、掟に従い天界へ戻ることになった。

別れ際にアプサラスは、彼へその愛の力を与えたという。

プルラヴァスは、終生アプサラスへの愛を抱き人生を終えた。

それでも、彼は養子をとり、王家がついえることは無かったそうだ。


僕は、この話をミーシャから聞いたことがあった。

それは、カールで釣りをしていた時だ。

彼女は、僕の肩にもたれ掛かり、ラスティを撫でながら話していた。

その表情は、少し嬉しそうだったことを覚えている。

僕は、空の白雲を眺め、彼女へ想いをはせた。

だた、頭の中で恥ずかしがる大精霊の声には嫌気がさした。

そして大精霊とは暇なのだと実感する。


砂上船は、ファウダへ到着し、僕達と荷物を降ろす。

ヴィシュヌバは、別れ際に僕に頼み事を伝えた。


「ルシアよ、我は久しぶりにミーシャの笑顔が見れて嬉しかった。」

「お前に頼みがある・・・王家としてではないがな。」

「ミーシャが、もし願いを伝えていたならば、叶えてやってはくれまいか。」


その曖昧な依頼に、彼のミーシャへの想いが強く感じられる。

ファウダに着いても、僕の頬が乾くことが無かった。

涙の中、僕は母の言葉を思い出す。

様々な人に会い、そこで学び感じるた事でその想いを、

母の真意を、ミーシャから教えられた気がした。

ファウダの空を、まだ見ぬ悠久の緑から吹く風が、優しく流れていく。

太陽は沈み、月明かりが白銀の砂原を映し出す。

砂原を風が渦巻き、輝く人影を形づくる。

僕は、その輝きに白猫の女性が踊る姿を感じ取った。


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