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30(87).4国会議、国政と協定

一月が経ち、ラトゥール王都では式典が開かれていた。

列席する顔ぶれは、錚々たるもので各国の代表者たちだ。

この式典は、国家間で2つの条例を制定するものだ。

一つは、女神の教団の様な集団を作らない為の条例。

そして奴隷に対する条例である。

宗教については、どの国も排除しようという動きはない。

問題なのは、そこに金や利権が絡むことだ。

今回は、そこの取り決めだというが、わかりずらい言葉が並ぶ。

壇上に上がっているのは、法王庁の枢機卿だ。

彼の話が終わり、一部貴族の感情とチグハグな拍手が巻き起こる。

枢機卿が降段し、列席する各王に頭を下げ席につく。

そして、式典は続く。

壇上には、アレキサンドラの姿がある。

彼女は、奴隷の現状と問題点を提示し、その解決策を述べた。

そして、解決策を成立させるための法案を述べる。

彼女の言葉も、わかりやすくすれば数行でまとまる程度だ。

こちらも一部の貴族は良い顔をしない。

しかし、法案は成立している。

アレキサンドラは話を終え降段し、枢機卿のように頭をさげ席に向かう。

僕は、ラスティを起こし、壇上に視線を送る。

そこには、青いドレスに身を包んだミーシャの姿があった。

彼女は、式典の切っ掛けを作った人物でもある為、講演をする運びになったのだ。

彼女は、ゆっくりと檀上へ上がり、彼女の見てきた世界を話す。

それは、前者2人とは違い、全ての民がわかりやすい言葉で話された。

彼女は、平等について説く。

平民たちはそれに頷くも、一部の商人や特権階級の者は眉を顰める。

そして、話が終わるかというところでことは起こった。

魔力を帯びた複数の矢が彼女を襲う。

僕は、制止する兵を押し倒し、彼女の元へ走る。

ミーシャは、風魔法でそれを遮るも、数本はソレを抜ける。

僕は彼女の盾になりそれを浴びた。

僕の目の前には、ミーシャの顔がある。

そこにある彼女の心配そうな表情で僕は安心した。

しかし、ミーシャの後方から音も無く1本の矢が彼女を襲う。

それを見る民衆からは悲鳴とどよめきが起こる。

為す術なく彼女は倒れ、その温もりを失っていく。

僕は、倒れ込む彼女を抱きしめ、矢を抜いた。

矢には、毒の様なモノが塗られている。

僕たちは、旅支度ではない。


「ラスティ、解毒剤を!」


ラスティは、僕の肩を下り駆けていく。

僕は、その後ろ姿から視線を外し、周りに声をかける。


「誰でもいい、回復薬を下さい!」


民衆のざわめきは、制止する兵士により僕たちの元まで来ない。

僕は、何度も叫ぶ。

しかしそれは空しく空を抜けていく。

アレキサンドラや僕の知る貴族たちは、制止を振り切り僕たちの元へ駆けつけた。

彼女は、一向に動こうとしない兵に対し怒りをあらわに声を荒げる。


「医療兵、担架だ! さっさと用意しろ!!」


彼女の声でようやく場が動き出した。

しかし、僕の腕の中でその温もりは少しずつ失われていく。

腕の中のミーシャは、消えそうな声でそっと呟く。

僕はその小さな声に涙で応え、その最後の願いを叶える。


「ルシア・・・私ね・・初めてのキス・・なんだよ・・」

「ルシア・も・初めてだと・・嬉しいな・・・」


僕は彼女を強く抱きしめ涙に溺れた。

僕の初めてのキスの味は、涙と血、そして悲しみに満ちたモノだった。



式が中断し、しばらく経つと犯人が捕まる。

捕まった男は、第二王子派閥の貴族。

その男は、あの状況であっても単独犯として裁かれ、その全ては幕を閉じた。

ラトゥールからは、スキュレイアに賠償がされ、国家間の問題は整理される。

その後、カール領はスキュレイアに吸収され、スキュレイアは名前を変えた。

リヒター島は、獣人の国となり、リヒター王国が樹立。

スキュレイア王は、ミーシャの功績を讃え、彼女を建国の母としてその石碑を立てた。

数日が経ち、リヒターでは、寒い雨が降る日に盛大な国葬が開かれる。

僕は、ミーシャ家族と共に葬儀に参加した。

開場からは彼女の死を悼み、すすり泣く声が辺りを埋め尽くす。

僕は、彼女と見たザルツガルドの炎を思い出す。

炎と共に天に昇る彼女の姿は僕の頬を濡らした。

その時、僕には彼女の声が聞こえた気がした。


"ルシア、幸せになってね"


その言葉は、彼女に初めて慰められた時の言葉だった。

ラスティは、尻尾をだらりとたらし、涙を流しながら僕の肩で小さく足踏みし彼女を想う。

式は、涙と嗚咽の中、幕を閉じる。

その日の雨は、僕に忘れなれない音を残した。

式の後、僕達はフォンランド家に招かれ、家族達の彼女への想いを告げられる。

それは、彼女を想う家族としての本当の気持ちだ。

ヨウルとミーシャの母は、彼女が彼女の姉が嫁いでから変わったことを心配した。

それまでは、民を想う気持ちは変わらないが、お転婆で活発だったという。

時が経ち、姉が嫁いでからは、自分の気持ちを抑え、姉に変り民の為に尽くした。

ミーシャの家族は俯くも、その表情は優しく、彼女を想うモノだ。

そして、彼女の母は僕へ言葉を贈る。


「ミーシャの幸せな表情が見れて嬉しかったわ。」

「あなたのお陰ね。」

「娘の愛した貴方は、私たちにとっても、もう家族よ。」

「忘れないで、ミーシャはルシアさんを大切に想ってるわ。」

「だからね。救えなかったからと言って、自分を責めないで。」

「そんな姿をあの子は望んではいないから・・・わかるわね、ルシアさん。」


僕は、ミーシャの笑顔を思い出す。

そして、彼女の願いを叶える為に世界樹を目指ことを改めて決意した。


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