表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/325

29(86).獣人達の願い

ラトゥール王都の門をくぐり、僕たちは王族たちと別れた。

ファラルドは、2日後に王城の彼を訪ねてくれと、僕たちに指示をする。

それは、ファウダ解放の協力に対する褒賞の為だという。

僕たちは、馬車を下り商店街へ向かった。

3人でオヤジの店を訪ねる。

すると、相変わらずのオヤジの顔が僕たちを迎えた。


「おぅ、おめえは、相変わらず顔出さねぇよな。」

「 で、今日はなんだ?」


オヤジの口調は汚いが、その表情は子供のように明るい。

ミーシャとラスティは、少し怯み僕に耳打ちする。


「ルシア、ここ大丈夫なの?」


「ミーシャ、ウチはご飯がいいな。」


「ルシア、先にミランダさんのトコ行ってるね。」


僕は、彼女達の言葉に頷き、彼女達と別れた。

そしてオヤジに今回の依頼を話す。

オヤジの目は座っている。

その表情の変化は、武具を見た瞬間だ。


「おめぇ、何と戦ったんだよ・・・」

「かわいそうに・・どうすりゃ、盾がそこまで拉げるよ。」


ため息と共にオヤジの肩の力が抜けた。

僕は、とある戦闘で水圧を掛けられたと伝えた。

流石に話せない部分は、ぼかして伝えるしかない。

オヤジの表情は、次第に老け込み、ため息と共に雑な言葉が返ってきた。


「んで、如何したいんだ。次の相手は神かなにかか?」

「ウチには、あれ以上硬度がある盾はねぇぞ。」

「つうか、剣と防具はどうした!」


僕は、腕を組みオヤジへの答えを考えた。

オヤジ作の剣と、可愛らしいショートケープの装備の行方を。

記憶のそこにはその答えがほこりをかぶっていた。

1年近く前にダンジョンで潰した事を思い出す。

オヤジにはそのことを伝え、大事に使ったと仰々しく伝えた。

オヤジの顔は、相変わらず疑り深い顔をしている。

それでも、ため息をつきながらも相談に乗ってくれた。


「で、蛮族みてぇで可愛げのねぇ鎧ってか・・・まあ仕方ねぇか。」

「どんな盾が欲しいんだ。」


僕は、オヤジに今までの戦い方を伝えた。

オヤジは腕を組み、頭を掻きながら図面を引き始める。

そして何度か修正し、イメージが固まると製作期間と費用の話に移った。

今回の盾は、魔盾に分類されるものになるという。

僕は、その事に違和感を感じオヤジを眺める。

すると、オヤジは自身の出自を始めて話した。


「おれぁ、こう見えてもドワーフなんだよ。」


「見ればわかるよ・・・」


僕は、その言葉には違和感を感じたが見ためには納得する。

確かに、ドワーフでしかない。

しかし、ヒューマンの街にいる事に驚いたのだ。

彼は、2代前の国王に引き抜かれて、この街で鍛冶師をしているという。

オヤジが話しをする表情は、恥ずかしそうではあるが少し誇らしげだ。

僕はオヤジと話しながら、盾の依頼をまとめる。

そして、オヤジの店をあとにした。



僕はミーシャ達を追い"ピンクのユニコーン"を目指す。

ミランダの店は相変わらずで、心地よい時間が過ぎ夜は更けた。

2日経ち、僕たちは、ファラルドの元へ向かう。

そこでは、王と謁見するとこになっていた。

そして、ファラルドからは謁見は3日先だと告げられる。

結局、僕たちはファラルドの部屋を後に、王城の廊下を城門へ向かい歩く。

前を歩くラスティは、初めて見る草花を嗅ぎながらヒョコヒョコと歩き回る。

それを、笑顔で見つめるミーシャは、ファウダにいた時よりは顔色がいい。

3人で歩く、王城から街への道は、よくある日常の風景だが幸せを感じる。

僕は、この時間がいつまでも続くことを願った。



3日後、僕たちは、ラトゥール新王の前で跪いていた。

そこには、ファウダ新王ヴィシュヌバの姿もある。

僕たちの前には、同じようにアレキサンドリアも頭を垂れていた。


「この度の件、貴下らの助力もあり、無事終息することができた。感謝する。」

「また、ファウダ王らの嘆願もあり、貴下らに褒賞を与える運びとなった。」

「貴下らの望はなんだ。私にできる事なら叶えよう。」


僕は、ミーシャの顔に視線を送る。

彼女は、眉を顰め悩んでいた。

僕は、彼女の耳元の囁く。


「ミーシャ、君のやりたいことを伝えて。」

「僕の願いは、君の笑顔だけだから。」


僕とミーシャの間にいたラスティも、僕の声を聴き小さな顔をこちらに向ける。

そして、耳をピコピコさせ、小さな口で僕たちに声をかけた。


「ウチもミーシャの笑顔が見たいな。」


ミーシャの表情は少し和らぎ、はっきりした声でラトゥール王へ返答する。

その姿は、ミーシャではなくフォンランドの令嬢そのものだ。


「陛下、私の臨むことは、獣人とヒューマンの平等です。」

「私は、カールの外交官として10年以上国を見てきました。」

「変革は、幾度かございましたが、言葉遊びの様に内容は変わりません。」

「どうか、獣人たちへの正当な権利をお与えください。」


彼女の視線はしっかりし、その瞳には強い力が感じられた。

王と前に控えるアレキサンドラは、頷きながらそれを聞く。

しかし、王の横に控える第二王子は眉を顰めていた。


「ミーシャ嬢よ、あいわかった。」

「ここには、カール領主とスキュレイア王にも同席を願っている。」

「・・・ではこうしよう。」

「カール領領主、ヨウル・ユンカー・フォンランドをカール領主から更迭。」


辺りはざわめき、第二王子は口元を薄くやわらげる。

一方、ミーシャは呆然と立ち尽くしている。

ラトゥール王は、それらを見据えることなく続ける。


「そして、カール領をスキュレイアに譲渡。」

「これを以って、貴下らの褒賞とする。これに異議は認めん!」


王の隣で笑顔だった第二王子には、もうそれはない。

ミーシャは、兄の顔に視線を送る。

そこには、兄ヨウルから優しい笑顔で頷きが返された。

そして、謁見の間のざわめきは、王の一言で静寂へと変わった。


「騒々しい、静かにせよ!」

「ファウダ王、スキュレイア王よ。後ほど時間が欲しい。」

「よろしいな。」


僕たちは、ラトゥール王に深く頭を下げ、謁見の間を後にした。

その夜、僕たちはフォンランド家の屋敷に呼ばれだ。

ヨウルは、妹を強く抱きしめ、彼女の安否を喜んでいる。

そして、謁見の間での話を始めた。

今回の褒賞については、すでに2国間で決まっていた事だという。

その要因になったのは、ファウダ王ヴィシュヌバの口添えではあった。

しかし、そうさせたのは、女神の教団の件である。

この件は国を荒らし、奴隷市場を活発化させた事が各国で問題になった。

薬物により財を潰し、路頭に迷い奴隷に落ちる。

これがどの国でも起こっているのだ。

ヴィシュヌバは、僕たちと旅する中でダファから彼女の話を聞いていた様だ。

その中で彼は、ミーシャの想い描く希望に共感したという。

それは、無理に共生するのではない。

お互い距離をおき、法を以ってお互いを尊重する考え方だ。

彼は、それを叶える為、ファラルドと共に動いたのだという。

ヨウルとオルハウルは、その話をダファとヴィシュヌバから聞いた。

そして領民である妹の願いを叶えるために動いた。

実際に、ラトゥールから出ることは、不利益もあるが利益の方が多い。

フォンランド家には、ダファとヴィシュヌバ、オルハウルが呼ばれている。

彼らは旧友の中でもあった為、僕とラスティは彼らの輪を一歩ひき眺めていた。

しかし、ミーシャは、僕たちの手を取りその輪へと誘う。

そこには錚々たる顔ぶれが揃い、場違いな気がした。

それでも僕は、ルーファス達と過ごした時間を感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ