29(86).獣人達の願い
ラトゥール王都の門をくぐり、僕たちは王族たちと別れた。
ファラルドは、2日後に王城の彼を訪ねてくれと、僕たちに指示をする。
それは、ファウダ解放の協力に対する褒賞の為だという。
僕たちは、馬車を下り商店街へ向かった。
3人でオヤジの店を訪ねる。
すると、相変わらずのオヤジの顔が僕たちを迎えた。
「おぅ、おめえは、相変わらず顔出さねぇよな。」
「 で、今日はなんだ?」
オヤジの口調は汚いが、その表情は子供のように明るい。
ミーシャとラスティは、少し怯み僕に耳打ちする。
「ルシア、ここ大丈夫なの?」
「ミーシャ、ウチはご飯がいいな。」
「ルシア、先にミランダさんのトコ行ってるね。」
僕は、彼女達の言葉に頷き、彼女達と別れた。
そしてオヤジに今回の依頼を話す。
オヤジの目は座っている。
その表情の変化は、武具を見た瞬間だ。
「おめぇ、何と戦ったんだよ・・・」
「かわいそうに・・どうすりゃ、盾がそこまで拉げるよ。」
ため息と共にオヤジの肩の力が抜けた。
僕は、とある戦闘で水圧を掛けられたと伝えた。
流石に話せない部分は、ぼかして伝えるしかない。
オヤジの表情は、次第に老け込み、ため息と共に雑な言葉が返ってきた。
「んで、如何したいんだ。次の相手は神かなにかか?」
「ウチには、あれ以上硬度がある盾はねぇぞ。」
「つうか、剣と防具はどうした!」
僕は、腕を組みオヤジへの答えを考えた。
オヤジ作の剣と、可愛らしいショートケープの装備の行方を。
記憶のそこにはその答えがほこりをかぶっていた。
1年近く前にダンジョンで潰した事を思い出す。
オヤジにはそのことを伝え、大事に使ったと仰々しく伝えた。
オヤジの顔は、相変わらず疑り深い顔をしている。
それでも、ため息をつきながらも相談に乗ってくれた。
「で、蛮族みてぇで可愛げのねぇ鎧ってか・・・まあ仕方ねぇか。」
「どんな盾が欲しいんだ。」
僕は、オヤジに今までの戦い方を伝えた。
オヤジは腕を組み、頭を掻きながら図面を引き始める。
そして何度か修正し、イメージが固まると製作期間と費用の話に移った。
今回の盾は、魔盾に分類されるものになるという。
僕は、その事に違和感を感じオヤジを眺める。
すると、オヤジは自身の出自を始めて話した。
「おれぁ、こう見えてもドワーフなんだよ。」
「見ればわかるよ・・・」
僕は、その言葉には違和感を感じたが見ためには納得する。
確かに、ドワーフでしかない。
しかし、ヒューマンの街にいる事に驚いたのだ。
彼は、2代前の国王に引き抜かれて、この街で鍛冶師をしているという。
オヤジが話しをする表情は、恥ずかしそうではあるが少し誇らしげだ。
僕はオヤジと話しながら、盾の依頼をまとめる。
そして、オヤジの店をあとにした。
僕はミーシャ達を追い"ピンクのユニコーン"を目指す。
ミランダの店は相変わらずで、心地よい時間が過ぎ夜は更けた。
2日経ち、僕たちは、ファラルドの元へ向かう。
そこでは、王と謁見するとこになっていた。
そして、ファラルドからは謁見は3日先だと告げられる。
結局、僕たちはファラルドの部屋を後に、王城の廊下を城門へ向かい歩く。
前を歩くラスティは、初めて見る草花を嗅ぎながらヒョコヒョコと歩き回る。
それを、笑顔で見つめるミーシャは、ファウダにいた時よりは顔色がいい。
3人で歩く、王城から街への道は、よくある日常の風景だが幸せを感じる。
僕は、この時間がいつまでも続くことを願った。
3日後、僕たちは、ラトゥール新王の前で跪いていた。
そこには、ファウダ新王ヴィシュヌバの姿もある。
僕たちの前には、同じようにアレキサンドリアも頭を垂れていた。
「この度の件、貴下らの助力もあり、無事終息することができた。感謝する。」
「また、ファウダ王らの嘆願もあり、貴下らに褒賞を与える運びとなった。」
「貴下らの望はなんだ。私にできる事なら叶えよう。」
僕は、ミーシャの顔に視線を送る。
彼女は、眉を顰め悩んでいた。
僕は、彼女の耳元の囁く。
「ミーシャ、君のやりたいことを伝えて。」
「僕の願いは、君の笑顔だけだから。」
僕とミーシャの間にいたラスティも、僕の声を聴き小さな顔をこちらに向ける。
そして、耳をピコピコさせ、小さな口で僕たちに声をかけた。
「ウチもミーシャの笑顔が見たいな。」
ミーシャの表情は少し和らぎ、はっきりした声でラトゥール王へ返答する。
その姿は、ミーシャではなくフォンランドの令嬢そのものだ。
「陛下、私の臨むことは、獣人とヒューマンの平等です。」
「私は、カールの外交官として10年以上国を見てきました。」
「変革は、幾度かございましたが、言葉遊びの様に内容は変わりません。」
「どうか、獣人たちへの正当な権利をお与えください。」
彼女の視線はしっかりし、その瞳には強い力が感じられた。
王と前に控えるアレキサンドラは、頷きながらそれを聞く。
しかし、王の横に控える第二王子は眉を顰めていた。
「ミーシャ嬢よ、あいわかった。」
「ここには、カール領主とスキュレイア王にも同席を願っている。」
「・・・ではこうしよう。」
「カール領領主、ヨウル・ユンカー・フォンランドをカール領主から更迭。」
辺りはざわめき、第二王子は口元を薄くやわらげる。
一方、ミーシャは呆然と立ち尽くしている。
ラトゥール王は、それらを見据えることなく続ける。
「そして、カール領をスキュレイアに譲渡。」
「これを以って、貴下らの褒賞とする。これに異議は認めん!」
王の隣で笑顔だった第二王子には、もうそれはない。
ミーシャは、兄の顔に視線を送る。
そこには、兄ヨウルから優しい笑顔で頷きが返された。
そして、謁見の間のざわめきは、王の一言で静寂へと変わった。
「騒々しい、静かにせよ!」
「ファウダ王、スキュレイア王よ。後ほど時間が欲しい。」
「よろしいな。」
僕たちは、ラトゥール王に深く頭を下げ、謁見の間を後にした。
その夜、僕たちはフォンランド家の屋敷に呼ばれだ。
ヨウルは、妹を強く抱きしめ、彼女の安否を喜んでいる。
そして、謁見の間での話を始めた。
今回の褒賞については、すでに2国間で決まっていた事だという。
その要因になったのは、ファウダ王ヴィシュヌバの口添えではあった。
しかし、そうさせたのは、女神の教団の件である。
この件は国を荒らし、奴隷市場を活発化させた事が各国で問題になった。
薬物により財を潰し、路頭に迷い奴隷に落ちる。
これがどの国でも起こっているのだ。
ヴィシュヌバは、僕たちと旅する中でダファから彼女の話を聞いていた様だ。
その中で彼は、ミーシャの想い描く希望に共感したという。
それは、無理に共生するのではない。
お互い距離をおき、法を以ってお互いを尊重する考え方だ。
彼は、それを叶える為、ファラルドと共に動いたのだという。
ヨウルとオルハウルは、その話をダファとヴィシュヌバから聞いた。
そして領民である妹の願いを叶えるために動いた。
実際に、ラトゥールから出ることは、不利益もあるが利益の方が多い。
フォンランド家には、ダファとヴィシュヌバ、オルハウルが呼ばれている。
彼らは旧友の中でもあった為、僕とラスティは彼らの輪を一歩ひき眺めていた。
しかし、ミーシャは、僕たちの手を取りその輪へと誘う。
そこには錚々たる顔ぶれが揃い、場違いな気がした。
それでも僕は、ルーファス達と過ごした時間を感じた。




