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27(84).セイショク者

バーヴェルムの塔は、激しい衝撃音と剣戟の音に包まれている。

ファラルドもまた、侵入の機会を待つ。

ダファ達の進行は激しく、僧兵達は塔に応援を求めた。

その攻撃は激しく、塔を揺るがし内部へ圧力をかける。

重く閉ざされた門は意外にも簡単に開く。

そして塔内部より僧兵たちが鎮圧に押し寄せる。

ダファは、反乱兵達の士気を上げるべく1度叫ぶ。

そして、僧兵達を引き付けるべくもう一度声を上げた。

その姿は、海の猛者ではなく蛮族そのものだ。


「ハッーー! ウォーーーーー!!」


「「「ウォーーーーー!!!」」」


反乱兵達は、ダファの意と共に僧兵達を引き付ける。

僧兵の波は、塔の門を駆け抜け、ダファ達に押し寄せた。

ファラルドは、集団が通り過ぎたことを確認し、続く者達に合図を出す。

少数の精鋭たちは、ファラルドに続き塔へ侵入。

塔内部は、甘い香りが満ちている。

ファラルドたちは、マスクを強く締め、制圧を始めた。

1階は、裸の男女が入り乱れ、その快楽に酔いしれている。

奥には、の集会の長らしき獣人が鎮座し、下半身を信者たちに奉仕させていた。

ガナパティの男は、後ろに控える従者に指示を飛ばす。


「サラマ、水魔法でこの場を清めよ。」


指示を受けたサラマと呼ばれるスコルの男は、聞き返しながら魔力を術式に変えていく。

その言葉を隣で聞く虎柄のケットシーは、彼の行動に少しイラつき睨む。


「わ、若、み、水ですね。は、範囲は全体でよろしいですね。」


「サラマ、サッサとやれ!! ヴィシュヌバ様を煩わすな。」


ガナパティの男ヴィシュヌバは、苦笑いしケットシーの女性を宥める。

それを聞くケットシーは、目を細め主人にすら苛立った。


「気にするな、トゥルーガ。 サラマの言葉はあれだが、手は動く奴だ。」


会話が終わる前に開場は、水で洗いい流され、その甘い香りは消えた。

そして、我に戻った教徒の一部からは悲鳴が上がる。

ヴィシュヌバたちは、剣を抜き教徒たちに状況を告げた。


「お前らは、違法な薬物を使い、民を誑かした。」

「このまま法廷に送る。」

「歯向かう者は、ファウダの名の元に、我自ら裁きを下す!」


状況を理解した教徒たちはその場に平伏する。

しかし、理解してなお逃げる者や、それを偽証とし歯向かう者もいた。

5人は、壇上の淫靡(いんび)なオトコに剣を向ける。

刃を向けられた男は、よくできた羊頭の仮面を脱ぎ捨てた。

その姿に驚いたのはレドラムだ。


「兄上、何のつもりだ!!」


壇上の男は、レドラムの姿に目を細める。

そして下半身に奉仕する男性を撫でながら告げた。


「ほう、お前か・・・貴様の様な幼女趣味にはこの崇高な行いは分かるまい。」


男は、空いた逆の手で、横に控える女の胸を揉みしだく。

そして、足置きにする男の秘部を自らの足でいじくる。

その光景は異常を極め、理解しようとする方がおかしかった。


「隣にいるのは、妾腹の王子様か。 どうです私と一発。」


レドラムは、その発言全てに怒りを感じた。

彼は、剣を強く握り、淫靡極めた男へ走り出す。

流石のファラルドも淫靡極めた男の発言に眉を顰めた。


「カイナラーヤ・ユンカー・ダッシュウッド。」

「アンタを他国侵略の罪で、僕がこの場で切り捨てる!!」

「男色を否定する気はないが、場を考えろ。このケダモノが!!」


ファラルドの琴線に触れ、その声は彼のモノとは思えない程荒々しい。

しかし、投げられた男は、それに意を返さず自身の意見のみを返す。


「私は全てを拒まない。それだけですよ・・・王子。」


レドラムの足は、ファラルドの制止に反応しない。

彼は、壇上まで駆け上がり、剣を振り上げていた。


「ダッシュウッド家の面汚しが!」


カイナラーヤは、女を突き飛ばし、横にあった身長ほどある蝋燭台でそれを防ぐ。

押し込まれた剣は、ジリジリと押し返され、レドラムは逆に背をそる体勢に。

そして、カイナラーヤは、真顔になりレドラムを叱咤する。


「だからお前はダメだというのだ。なんだその貧弱な体は・・・」

「お前の力では、子供以外どうにもできまい・・・情けないヤツだ。」


カイナラヤは、レドラムを壇上から蹴落とす。

レドラムは、体勢を崩し祭壇から転がり落ちる。

会話の内容は、ただの喧嘩にしか聞こえないが、その光景は異常だった。

レドラムは、彼の言葉ほど貧弱ではない。

むしろファラルドよりガタイは良く、それを目的に視線を送る女官もいる程だ。

実際は、カイナラーヤが異常なだけである。

彼は、王国内でも数少ない二つ名持ちの騎士団長であった。

その呼び名は"色欲の暴君"。

それは性癖だけではなく、その異常なまでの筋力にある。

その膂力で、全てを食い滅ぼす様に戦うことも起因していた。

実際に彼は、王国騎士団大隊長を努めていた時期もあるほどの実力者だ。

しかし、第一王子やその妻に手を出そうとした為に任を解かれた。

ファラルドは、祭壇の下で蹲るレドラムに回復薬を渡し、カイナラーヤに告げる。


「アンタは罪人だ。暴れればその分罪が重くなる。」

「諦めて降りてこい!」


壇上のカイナラーヤは、壇上で倒れた女に手を差し出し自身の胸へ抱く。

そして、ファラルドへ向かい言葉を投げる。


「俺は神の眷属だ。 俺が食いたいモノを食うだけ。」

「だが、その全てには愛がある。」

「それは、聖母と変わらない事だ。これも慈愛なのだよ。」


ファラルドは、平行線をたどる会話に困惑した。

彼は、カイナラーヤに自身の槍技が通用しない事を知っている。

それは、レドラムを見てもわかる。

あのタイミングで、止められ、挙句に押し返されたのだ。

彼は、眉を顰め唇をかむ。

その姿を横目で見るヴィシュヌバは、彼の肩に手を置く。

そして、後ろに控える女性に声をかけた。


「ドゥルーガ。やれるか?」


ヴィシュヌバから声に、虎柄のケットシーは鼻で笑い飛ばし返す。

ファラルドには、その背中は(おとこ)らしく見えた。


「フン、ヤレって言えよ。 アンタはオレの頭だぜ。」


ヴィシュヌバの口元は緩む。

そして、魔力を高め始めたサラマに声をかける。


「サラマ、4人に水の防鎧だ。我は、お前を信じている。 返答はいらん。」


サラマは頷き、走り出したドゥルーガに先行して防鎧を付与。

その術式は滑らかで早く、時間を置かずに残る二人も施された。

それが終わると、カイナラーヤの頭部を水球で覆う。

壇上の男は頭を振るも水球は離れない。

口からは泡が漏れ出ていく。

ドゥルーガは、一気に間合いを詰め巨斧の斬撃を放つ。

それは胸に抱く女ごとカイナラーヤの左腕を切り飛ばす。

攻撃はまだ止まらない。

ドゥルーガの影からヴィシュヌバが襲い掛かる。

彼の曲刀が真下から襲い、アーベの下半身に奉仕する男ごと右腕を切り裂いた。

それでもカイナラーヤの表情は変わらない。

残る二人の足は、その異常性に止まっている。

カイナラーヤは、既に頭部を覆う水球は興味を失う。

足で愛撫していた男から、ゆっくりと脚を降ろす。

そこに立ち上がった男の上背は、その空間にいる誰よりも大きい。


「ゴボッ・・・面白い事をする。」

「ゴボゴボッ・・だが俺は、選ばれたんだよ・・・リューゲ様に。」

「人の国なんてどうでもいい。 俺はもっと喰らいたいのさ。」


カイナラーヤの体はヒューマンの色を失い、ドス黒く変わっていく。

さらに、失たはずの腕は新たな形で生成される。

そして、祭壇のカイナラーヤだったモノは人の形を失う。

そこには、背中から巨大な蝙蝠の様な翼を生み出した存在があった。

レドラムは、その異常な姿を悲痛な表情で見つめる。

ファラルドもまた、同胞の変異を呆然と見つめるしかなかった。

その時、上層階が大きく揺れと共に爆発音が響く。

窓の外には建材が降り注いでいた。

ファラルド達が意識をはずした瞬間、カイナラーヤは魔力を溜めた。

そして体内に溜めた魔力を旋風に変えて、その場を吹き飛ばす。

壇上にいた二人は、ファラルド達の後ろまで吹き飛ばされた。

カイナラーヤは、神の声でも聞く様に上層に視線を送る。

そして、体を落とし込んだ瞬間、天井を破りどこかへ飛んで行ってしまった。

その場には、膝から落ち、地面を殴り嘆くレドラムの姿。

ファラルドは、彼に掛ける言葉が見つからない。

しかし、時間は待ってくれなかった。

危険を察知したサラマは、声を張り上げる。


「み、皆さん、塔が崩壊します。た、退避を!」


ファラルドたちは、急いでその場を離れる。

しかし、レドラムは動かない。

それに見かねたドゥルーガは、ため息を吐き彼の元へ向かう。


「男ならシャンとしやがれ! 死んだらなにもできねぇだろ!」


ドゥルーガは、項垂れたレドラムを担ぎその場を離れる。

彼女の背後は、次第に崩落を始めた。

バーヴェルムの塔は崩れ落ち、そこには瓦礫の山だけが残った。

塔の周辺は、塔の崩落で混乱する人々。

それでも、女神の裁きと逃げ惑った為か崩落で死んだ者は少ない。

しかし、瓦礫からは、ファルダ王やファウダ貴族の亡骸も見つかった。

ヴィシュヌバとその従者達は、王に手を合わせファウダの復興を誓う。

ファラルドは、レドラムの意識を確かめ、ダファと共に一団をまとめる。

僕は何とか塔から脱出し、ミーシャの元へ急いだ。

集団の集まる場所にミーシャの姿があった。

水を飲む彼女は僕を見つけると、いつもの笑顔で僕を迎える。

その表情は、少し元気を取り戻している様に見えた。

一夜明け、一団はバラックの教徒たちを連れファウダを目指す。

太陽は容赦なく僕たちの肌を焼いた。


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