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26(83).バーヴェルムの塔

僕たちは砂嵐の中、前を進むラクダを頼りに聖地を目指す。

風が強いのか、耳がおかしくなったか分からない程だ

どのくらい歩いただろうか、今までのあ嵐が嘘のように晴れていた。

そして一行の前に巨大な塔が見える。

僕たちのは、ようやく目的地に着いたのだ

そこは、砂嵐が塔を守る様に吹き荒れ、内側からも外は見えない。

僕たちは、準備していた女神の教団の礼服を被り塔へ向かう。

周辺には、バラックが立ち並び、ボロを着た人々が溢れていた。

彼らの口からは、聖母への祈りが静かに漏れる。

そんな信者の中でも、人の欲は止めることはできない。

ちょっとしたことから口論になり、果ては殴り合いへと変わっていく。

それを司祭たちは、仲裁に入るが、その表情は歪み切っていた。

彼らは、殴り合う2人の話を流し、両者へ罰を与える。

それは、人道的とは言えない。

砂の上には2つの頭が無残にも転がる。

また別の場所では、違う司祭が、物色する様な視線を見目麗しい女性信者へ送る。

そして理由をつけ、嫌がる彼女を塔ではない何処かへ連れて行く。



僕たちは、3部隊に別れ時を待った。

塔の外にはが篝火がたかれた。

そして日は沈み、大集会は始まる。

あの香が篝火に放り込まれ、辺りを甘い香りが包む。

ダファ達は、塔へ向け攻撃を始めた。

時は来たのだ。

塔の周辺は、香に侵された狂人達と、教団の僧兵。

そこに分け入るように、ダファ達が突撃する。

戦闘は、香に侵された狂人達により乱戦化。

僕は、ミーシャとラスティ、そしてファルネーゼと共に塔の窓から侵入。

塔の内周に掛けられた螺旋階段を駆け上がりながら聖母を探す。

外からは、剣戟の音と魔法が塔をにぶつかる音が激しく聞こえる。

1階から5階までは一部吹き抜けで"シナゴーグ"が行われていた。

僕たちは、マスクをきつく締め直し、上層を目指す。

6階に上がると、そこには複数の部屋が存在した。

しかしそこは、聖地とは名ばかりに娼館の様な空気。

恍惚な声、狂気じみた悲鳴が階層を埋め尽くす。

教団は、僕達に裏の姿をまじまじと伝える。

僕は、魔力探知をし、聖母の有無を確認して上層に向かう。

廊下では、同性の兵士同士でも事に及んでいる。

僕達は、その光景を無視し、聖母を探した。

7階からは、また吹き抜けに変り、数階層分は螺旋階段になっている。

僕たちは、ため息をつきながら、長い階段をひた走った。

僕たちの向かう上層からは、ついに件の魔力が感じられた。

僕は、この慈悲深い魔力に慣れることができない。

階段を上った先、8階層には1つの部屋しかなかった。

僕たちは、両開きの扉を開け中に入る。


「あなたは・・・そう、ルシアとミーシャ、ラスティもいる様ね。」

「後ろの貴方も入信者でしょうか?」


部屋には、聖母とそれにつき従う侍女が4名、そして2人の騎士。

聖母は、彼女の前に出る2人の騎士を止める。


「彼らは、女神の子らよ。・・・ひかえなさい。」


騎士たちは、その言葉で、元の位置に戻った。

しかしその手は、剣に掛けられたままだ。

僕たちは、聖母の前に出て、見てきたことを話し説得を試みた。


「マリアルイゼ、貴方はここで起きていることを知っているのか?」

「あそこに女神へ信仰は本当にあるのか!」

「貴方は、ここにいるべき人じゃないよ。」

「僕達と、ここから出よう!」


彼女は頷くも、下層の醜態を目の当たりにしているとは思えない。

僕は、彼女と司祭たちの信仰心の差を口にする。


「貴方の信仰する女神と彼らの信仰する欲望(女神)は同じモノなのか?」


しかし、侍女たちがソレを否定し、聖母の思考を奪う。

無駄に時間が過ぎる中、扉から数人の司祭が入って来た。

彼らは、僕たちを見るや咎人と罵り、聖母には神の敵だと吹き込んだ。

聖母は、僕たちに視線を向け、変わらぬ口調で諭し始める。


「人は誰しも、生まれながらに咎人です。」

「それでも、敬う気持ちを持ち、慈しむことでその咎を償っていくのです。」

「あなた方は、また咎を積もうとしています。」

「さあ、女神の元で共に償いましょう。」


聖母は、その両手を広げ、僕たちを懐柔しようとしている。

空間には、件の魔力が広がり、精神を奪った。

部屋に控える信者たちは、表情を恍惚に変え呟く。


「あぁーー聖母様。これこそ女神の御心よ!」


僕は、自身に魔力発散を行いつつ、背後に控える3人を確認。

ファルネーゼは、信者たちより総魔力はかなり高い。

そのため、この異常さを感じているに留まった。

ラスティも、信者の様に"至り"かけている。

しかし、ミーシャだけは違った。

近頃の体調の影響か、体を抱え震えている。

僕は、彼女に駆け寄り青黒い魔鉱石を渡す。


「ミーシャ、大丈夫だよ。これに魔力譲渡をして。」

「ファルネーゼ、ミーシャとラスティを連れて塔から出て。」

「あとは僕が何とかする・・・さあ、行くんだ!」


僕は盾を構え、フランベルジュを抜いた。

ファルネーゼは、僕に視線を送る。

僕は横目でソレを確認しい、強く頷き返す。


「行くんだ!!」


ファルネーゼは踵を返し、ミーシャとラスティを連れ部屋を出た。

僕は、横目でそれを確認し、フランベルジュに魔力を込める。

魔力発散をやめ、膨れ上がる魔力を全てフランベルジュに食わせていく。

その刀身は、紅紫に染まり、炎の様に空間を歪ませる。

一方、騎士たちは、オーバードーズ状態になっていた。

彼らは、舌なめずりをし、無為無策に間合いを詰める。

そこに騎士と思える表情はない。

剣閃は、その上背以上の重さで目の前を掠める。

そして騎士は、バランスを崩し、床を切り裂く。


「ギャッハッハ、何だこりゃ、床に刺さっちまったよ。」

「今度は逃げんなよ。嬢ちゃん!」


正面の騎士は、獣の様に前傾姿勢で襲い掛かる。

僕は、魔力を這わせた盾の縁で、騎士の腹へ一撃を入れ魔力を解放させる。

騎士は、簡単に泡を吹き倒れ込んだ。

その状況を無視する様に残る一人も僕に飛び掛かる。

彼の目的は僕の排除ではない。

その姿は、香の香りとオーバードースにやられ、欲望のままに動いている。

僕のこの状態からできる行動は剣技しかない。

他の手では、それを止められる程力が乗らないからだ。

僕は、飛び掛かる男にフランベルジュを左から右へ横薙ぐ。

フランベルジュは、抵抗なく滑らかに男を2つにする。

そして、魔力が其々の肉塊を包み、その場から消し去った。

これが魔剣の真の力だ。

部屋のあちこちからは、ざわめきが聞こえる。

そして、奥に控える侍女からは悲鳴。


「悪魔よ・・・あれは悪魔の子よ!!」


司祭たちは、杖を構え術式を完成させていく。

そして、複数の水撃が僕の視界を覆う。

僕の頭には、アプサラスの声が響く。


『大丈夫よ。貴方には見えるはずです。』


僕は盾でその水撃に触れいなす。

そして、魔力を水撃に流し、構築式を掻き消した。

水は、その場で消えたが、僕は強い頭痛に襲われ、鼻から温かいものが流れる。

僕は、戦況を無視し、強引に司祭の間合いに入った。

そして一人は、そのまま横薙ぎに分かつ。

さらに司祭のいた場所に一歩踏み込み、体を大きく回転させる。

隣の司祭だったモノはに2つの肉塊に変る。

今までそこにいた二人の存在は、もうこの世界には無い。

僕は、残る教徒を睨むように威圧。

そして体勢を整え、状況を整理する。

まずは、頭痛だ。

これについては簡単に予想がつく。

これは、ミーシャ達4人が御法を拒否した真相だろう。

師匠の庵には、民話や伝承に関する書物は無い。

その為、精霊の御法については、僕は無知だ。

彼らは、御法の欠点を知っていたのだろう。

そうしていると状況は悪い方に進んでいく。


「ルシア、あなたは私を騙していたのですね。」

「いえ違います・・・ミーシャさんたちも騙しているのですね。」

「私は許しません。 女神に変りあなたを罰します!」


彼女の魔力はさらに強くなり、周囲の教徒は泡を吹き倒れ始めた。

しかし、彼女の魔力はさらに高めた。

そして、複数の術式が彼女の前に展開されていく。

彼女は詠唱し、その術式を完成させる。

空間は水が支配された。

僕は、水に包まれ呼吸ができない。

そして地に足すら付かず漂っている。

聖母は、さらに複数の術式を完成させていく。

水は、その重さを増やし、僕に圧し掛かる。

僕は目を閉じ、水圧に耐えるしかない。

鎧の金属部は内側に凹み、盾の縁は拉げた。

フランベルジュを持つ手は、力が抜けそれを手放す。

僕の頭には、また彼女の声が聞こえた。


『何故、使わないのですか?』


僕は、理不尽な二択を迫られた。

それを知ってか知らずか、アプサラスは煽る。

ぼくは、眉を顰め唇を噛んだ。

意識がもうろうとする中、魔力を解放させる。

空間を覆う水は消滅し、僕は床に仰向けになった。

目の前の聖母は、杖に寄りかかり肩で息をしている。


「女神よ、私程度の徳では、この悪魔にかなわないのですか。」


彼女は天を仰ぎ、そして見えない目を見開き、こちらを睨みつける。

その表情は、その光を奪った(かたき)にでも向けるモノだった。


「この悪魔が!!」


僕は、放たれる水撃を転がる様に除け体勢を整える。

そして、フランベルジュを拾い上げ、聖母を睨んだ。

しかし、僕の魔力は底をついている。

片や聖母は水撃を繰り返す。

幸か不幸か、彼女の慈悲はもう発せられてはいなかった。

僕は、師匠の様に遠距離を対象とした魔力操作はまだできない。

現状では、アプサラスの頭痛も使えないだろう。

状況が悪い時ほど、物事は悪い方へ転がる。

僕は、フランベルジュを握り直し、息を整える。

すると、あの声が頭に響く。


"輪廻の子よ、我を受け入れろ"


アプサラスの声とは違う。

それの魂に語り掛ける声は、僕の意識を無視した。

僕の尽きかけた魔力は、暴走を始める。

そして魔力量をどこまでも増幅させていく。

聖母は、その光景に恐怖し、後ずさり、その場に腰を落とした。

そこには、聖母然とした姿は無く、一人の女性しかいない。


「あ、あなたは・・・何なのよ!!」


その瞬間、僕の腕輪が光り出す。

そして僕は金色の魔力に包まれる。

僕は、意識を奪われそうになるが、それを温かさが引き留めた。

その温かさは、まるで師匠の腕の中の様だった。

意識は、まだ僕の支配下にある。

僕は、魔力とは思えない力をフランベルジュ込めた。

その刀身は、紅紫のまま光に包まれ、それを消し去る。

刀身を無くした光の剣は、樋鳴りを残し、聖母を切り裂く。

しかし、彼女に外傷はない。

彼女は、腰を落としたまま、意識を失くした様に見えた。

外からは、空が落ちたような轟音がなり、上層階ごと天井が吹き飛ぶ。

砂煙の中辺りを見回すと、空は黒い雲に覆われている。

そして、そこには赤いローブの司祭が浮かぶ。

表情は見えないが、嫌な空気が支配していた。

感じられる魔力は、アプサラスを包んでいたものに似ている。

赤いローブ男は、術式構築も無しに黒い炎を放つ。

それは、僕の足元を包み、その場から僕を壁際まで追い詰めた。

赤いローブの男からは、静かだが歪んだ笑いが聞こえる。

彼は、ゆっくり聖母の元へ向かう。

そして、彼女を抱きかかえ、その場から消えた。

辺りから歪んだ魔力は消え、空は徐々に元の色を取り戻す。

僕の手には、フランベルジュがその刀身を失い、空しく鍔を光らせていた。


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