24(81).協力者
ファウダに来て一週間が過ぎる。
朝は多少涼しいが、熱い事には変わらない。
日々が過るごとに、二人の女性には目のやり場に困った。
僕は、二人の寝顔をしり目に宿の庭でいつもの鍛錬をこなす。
最近は、ダファと組み打ちもしている。
彼は三叉の鉾とシャムシールを使う。
「嬢ちゃん、今日は魔力を使ってもいいぜ。」
僕は、ため息をつき、フランベルジュに魔力を込めた。
最近、分かった事だが、このフランベルジュは魔力が非常に乗りやすい。
それは、相手を"至らせる"ことが以前より楽になったという事。
そして、今までと違い魔剣という物は付加効果が有った。
この剣は、その強度と鋭さを増す。
ダファは、曲刀を前に、鉾を後ろ手に構える。
僕は、彼を挑発するように、剣で盾を叩く。
「ハハッ、嬢ちゃん強がるなよ・・・じゃあ、こっちから行くぜ!」
彼は間合いを詰め、鉾を突き出す。
その間合いは、変幻自在に変わり掴みづらい。
僕は盾を前に強引に入るも、そこに曲刀が迫る。
フランベルジュで逆袈裟にソレを払う。
そして、腰を捻り盾の縁を打ち出す。
ダファは、鉾の柄でソレをはじき返しつつ、そのまま鉾を横薙ぐ。
走る刃は、深く入り込む。
間合いは未だに彼のモノだ。
僕は、鉾の刃を掻い潜り、わずかな勝機を探る。
誘う様に空いた空間には曲刀の刃。
「嬢ちゃん手詰まりだろ・・・今日は俺の勝ちかぁ?」
加速する曲刃に炎の様な刃は絡みつく。
僕は、師匠の使っていた枝を跳ね飛ばす剣技を使う。
不意な方向からの力にダファは曲刀を宙に手放す。
僕は、振り上げた剣をそこから袈裟切りに繋げる。
彼は、距離を取り鉾を両手で持ち構えを変えた。
その構えは、半身で柄を上げ穂先を下げている。
彼はニヤリと笑みを浮かべ僕を煽った。
「魔法は使わないのか。それとも使ってその程度か?」
不敵の笑みを浮かべる男は、全力の組み打ちを臨んでいる。
僕は、その意をくみ、剣に魔力を流す。
フランベルジュの刀身はわずかにぼやけた。
僕は、ダファに質問を投げる。
「ダファ、その鉾の替えはあるの?」
彼の笑みは変わらず、そのまま頷く。
僕は盾を前に構え、彼の間合いに入る。
沈黙が空気を重くしていく。
ダファは、その構えを崩さない。
僕は、盾を一瞬引き、鉾先に向け盾を放ち、さらに奥へ入る。
「おま、まじかよ。」
ダファは、鉾の柄で防御に転じる。
僕は、その柄を目掛け刃を走らせた。
三叉の鉾は、2つになったが、彼の髪の毛が僕の首を捉えている。
「ハハハッ。さすがだな、嬢ちゃん。 今日は、引き分けってことで頼むわ。」
僕は、鍛錬に付き合ってくれたダファに礼を言い部屋に戻った。
部屋では、2人の女性が起き、身支度を整えている。
ラスティは、毛繕いをおえ、ジトッとした視線を飛ばす。
「ルシア遅い。 今日は人に会うんだよ。」
横では、ミーシャの笑い声が聞こえる。
彼女は、僕に水の入ったコップと羊肉を挟んだパンを手渡す。
「少し冷えちゃったけど、おいしいよ。」
僕たちは、身支度を整えダファ達と共に指定された宿屋へ向かう。
部屋の扉を開けると、そこには1人の男性のヒューマンがいた。
「ルシア殿じゃあ、ありませんか!!」
僕は、その声に背筋が凍った。
そこに佇む上背の男。
それはレドラムだ。
彼は、挨拶も早々に、咳払いをして本題に入る。
内容は、単純で彼は中継役でしかなかった。
この後、僕たちは、レドラムと別れ、別の建物を目指す。
道すがら僕の脳裏には、もう一つの懸念がよぎる。
ソレを、横で察したかのようにミーシャは苦笑いだ。
地上から地下に伸びる階段を一列で降りる。
そこには、1軒の酒場があった。
重い扉を押し開けると、ドアベルがなり、店主の鋭い視線が刺さる。
店主は、グラスを拭きながら視線だけで僕たちを誘導した。
案内された部屋には4人の人影。
二人は予想通りだった。
「ルーシーアーちゃーん!」
声の主が座っていたイスは倒れ、甘い香りの風は僕を包み込む。
しかし、それはミーシャにより妨害された。
「何よ、ミーシャ! 私の任務を奪わないでくれる。」
ファルネーゼは、間に入るミーシャを排除しようと腕を割り込ませる。
しかし、彼女もそれを対処。
「ファラルド様のお付きなら、そっちに行きなさいよ!」
その発言にファルネーゼは余裕の表情を浮かべる。
今回のファルネーゼは一味違う。
彼女は勝ち誇った顔でミーシャに言葉を返す。
「ちーがーいーまーすー! 今回は、従者じゃありませんー!」
「だから、兄さまは関係ありません!」
僕は、ファルネーゼの後ろで苦笑いのファラルドに視線を送った。
仕方なさげに彼は、頭を掻きながら説明を始めた。
「今回は異母姉さんからの密命なんだよ。」
「それで、国としてではなく個人として潜入したんだよね・・・」
ファラルドは、今の状況は告げるが、1つ抜けていた。
そのことに回答を求めたが、返ってきたのは正面のファルネーゼからだ。
「ほら見なさい。今の私は、兄様と同僚としてここにいます。」
「だーかーらー、私を止める者はいないのよ!!」
後方でこの事態を見ていたダファは、可笑しな想像をしていた。
それは、碌な事ではない。
加速する女性に視線を奪われながら、彼は、この状態を整理するため小さく呟く。
「なんと・・・女同士・・だと・・・悪くない景色だ・・・」
僕には、この空間で飛び交う言葉の意味が理解できない。
いや、したくは無かった。
ファラルドは、後ろに控える2人の困惑な顔に恐縮し、ファルネーゼを止める。
そして彼は、僕達に残る二人を紹介した。
1人は、ヴィシュヌバといい、ガナパティでダファとは旧知の中だそうだ。
彼は、ファウダでレジスタンスを作り、現王政の打倒を考えている。
もう一人は、彼の従者だという。
話をしていると部屋の扉が開き、レドランが入ってきた。
彼からは、何かよからぬ空気が流れ出る。
しかし、その空気はファルネーゼの一睨みで制御された。
僕は、ファラルド達に視線を戻し、彼らの会話に集中する。
彼らは、数日後に控える女神の教団の大集会を襲撃するという。
そこには、教団の幹部や関係を持つ貴族や王族たちが出席する。
僕たちは、そこで彼らを拘束する。
彼らは、後に国家簒奪と違法薬物で裁判にかけるのだそうだ。
最終的には、ラトゥール、スキュレイア、ファウダ、
そしてヴァンタヴェイロの4国間で法律を作るという。
内容は、宗教についての取り決めだそうだ。
何にしても、ファラルドが絡んでいる以上、悪いようにはならないだろう。
彼らの計画を聞いていると、ラスティが小声で質問を投げかける。
「ヴァンダヴェイロってどこの国?」
僕は、本で読んだ内容と以前に商人に聞いたことを伝えた。
ヴァンダヴェイロとは、北方の国で、ラトゥール第一王子の妃の祖国である。
そこは、ファウダとは真逆の風土で、年間を通してもあまり気温が高くない。
ラスティはそれを聞くと、会議に飽きたのか僕の肩に飛び乗りフードに入った。
会議は続き、細かい内容が決まっていく。
今回は戦争するわけではないが、それなりの被害は必要だという。
対象は、聖母の狂信者ではなく、主に司祭とその取り巻きになる。
話の中で問題視されたのは、聖母の力と、教団が抱える私兵だ。
まず聖母のことだが、彼女は悪ではない。
しかし、その能力で戦闘を妨害できる。
さらに言えば、広範囲で"至らせる"こともできるはずだ。
僕は、ファラルドたちに提案した。
「ファラルド。 聖母は僕に任せて。」
ファファルドは、真剣な眼差しを僕に飛ばす。
そしてその意思を確認する。
彼は、僕の意志を汲み、能力を理解した上で納得した。
重大な任務だが、僕しかできないだろう。
話は、私兵の対処に変っていく。
大分時間が過ぎたが、会議は盤石にまとまる。
会議が終わると早々にダファは動いた。
彼は、ファウダに潜伏した水夫を動かすため、店を出ていった。
ファルネーゼ達は、ファラルドの眼圧で行動を阻害され静かにしている。
僕たちはファラルドのお陰で、無事別れ宿に戻ることができた。
道すがらラスティは、ミーシャになぜ正面から叩くかを質問する。
ミーシャはラスティを撫でながらそれに言葉を返した。
「教団にとっては、聖地でやる大集会って大事でしょ。」
「そこには信仰や祈りが集まってるよね。」
「そんな神が見ているところで、大敗するって信者には辛い事だよね。」
「女神の望む事は、教団のそれではないのかもってね。」
ラスティはそんなモノかと空を嗅ぐ。
そして地面に降り、チョコチョコと宿を目指した。
ファウダの夜は暑くて長い。




