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7.魔窟暴走

ライザの意識が戻った翌日、領主の顔色は絶望的に悪い。

ダンジョンから戻る奴隷たちは、例外なく怪我を負っている。

そしてダンジョンから魔物が溢れ始めた。魔窟暴走だ。

街では大商人や権力を持つ者たちは逃げ出し、残る者たちには街を守る力はない。

当たり前だが、僕達も警備兵と共に駆り出された。

領主の精神はボロボロだが、それでも領主の務めは果たしている。

僕達が診療所に運ばれた日に、王都へ状況報告と応援の依頼を出していた。

僕達4人は装備を整え、診療所周辺を守りつつ前線に向かう。

ダンジョンから溢れる魔物は、まだ表層から上層程度の強さしかない。


2日経ち、他の奴隷パーティーと共にダンジョン入り口付近まで制圧し、ダンジョンを包囲した。

領主の顔色は戻りつつあるが、少し暗い顔をしている。


「よーし。明日には王都から援軍が到着する。それまで頑張ってくれ。」


僕に抱き着こうとする領主にしてはまともなことを言っていた。

意外な一面を見たが、だからと言って触っていいとは思わないし、イメージが良くなるわけでもない。

奴隷たちは、被害を最小限に、ダンジョンを包囲し時間を稼ぐ。

しかし、考えが甘かった。

ダンジョンからは中層以降の魔物が現れ始めた。

僕たちは魔窟暴走の恐ろしさを味わうことになる。

ダンジョンから低い唸り声が複数聞こえ、場の空気は張り詰めた。

僕達は体勢を整え、声の主に備える。降り続く小雨は、衣服を肌に纏わりつかせる。

視界に入る声の主に僕たちは戦慄した。

あの時見たアイギパーンだ。

明らかに別個体だが外見は同じで、しかも3体だ。

誰となくパーティーが3つ作られた。そして別れアイギパーンを分断していく。

魔法使いたちは、後方からアイギパーンの足止めをする。

ライザはあの時の魔法を危険視し顔を目掛け岩漿を放つ。

それを追うように吹雪の塊がアイギパーンの頭部を襲う。

アイギパーンは、首筋から鼻までを火成岩が覆った。

重くなった頭はアイギパーンをその場で跪かせた。


「ルシア、そっちに行っちゃダメ!」


ライザの声が聞こえたが、僕は無意識に走り出していた。

もう誰も怪我をさせたくない。

目の前の障害に飛び掛かる。

ルーファスは横を過ぎる小さな少年に気が付き、自身も走り出す。


「ルシア、やめろ!!」


ルーファスは僕を追い越し、アイギパーンの横から斬撃を与えその注意を引いた。

僕はルーファスを睨むアイギパーンに、逆手に持ったショートソードを突き刺す。

そして魔力を譲渡した。

僕を振り払おうとアイギパーンは腕を振りまわし暴れまわる。

魔法使いたちはアイギパーンの体に魔法の蔦を絡ませその動きを制限した。

アイギパーンは一瞬力が強くなるが、次々と絡まる蔦にソレを妨げられる。

僕は魔力を最大量に流す。

アイギパーンが痙攣し、火成岩と口の隙間から泡が漏れだした。

次第にその力は弱まり、最後にはその場に沈む。

僕は力が抜け、アイギパーンの上で腰を抜かした。


「ルシア、よくやったな。立てるか?」


僕は、ルーファスの呼びかけにほっとし、涙が頬を伝う感覚がした。

ライザが駆けつけ、僕を抱きしめた。


「アンタ、何やってるの!」


彼女の声は少し震えている。

温かい抱擁に意識が持っていかれた。

気が付くと僕は、ミランダの背中におぶさっていた。

僕が起きたことに気づいたミランダは状況を話す。


「頑張ったわね。あの後、王国軍が到着してダンジョンの上層まで制圧したのよ」


ミランダは、僕が気を失った後、背負い診療所まで運んでくれている。

ミランダの横にはライザがいた。

その表情は不安で悲しみに満ちている。


「ミランダ、ありがと。もう大丈夫、歩けるよ。」


僕はミランダから降り、ライザに声をかけ、勝手に突っ込んだことを謝った。

ライザの表情から不安や悲しみは消え、代わりに眉間にしわが寄る。

そこからは、長い説教が始まった。

街は魔物も排除され今は安全であるが、重い空気は漂う。

まだ魔窟暴走は収まっていないのだ。

魔窟暴走を止めるには生態系を壊した原因を見つけ、正常化させる必要がある。

王国軍は領主の報告から、原因は中層から下層にあると予想していた。


翌日、僕たち奴隷は領主館に呼び出された。

パーティーごとに執務室に呼ばれ、指示が出される。

僕達が執務室に入る順番になった。

部屋に入ると、怪我をした領主と王国騎士らしい若い男性が椅子に座っていた。

領主はいつもの行動をとらない。

騎士からの依頼はこうだ。

この騎士が指揮する部隊に合流し、原因を探り対処する。

ただし、強制ではないという。

参加しない場合は、ダンジョン最前線へ食料等を届ける兵站になる。

危険な依頼だが、装備はそれなりなものを用意しているという。

参加した際の報酬は、奴隷契約の解除だった。

これは裏を返せば、死ぬ可能性も高いことを意味していた。

僕達は相談し、これを受けることにした。

ライザの視線は僕に注がれている。明らかに何か言いたそうだ。


「ルシア、勝手しちゃダメだから・・・次やったら手ェ出るからね。」


あの時から、ライザが僕に向ける視線は子供を見守るソレに感じられた。

ルーファスも、ミランダも苦笑いだが、きっと同じきもちなのだろう。

部屋を出る時にふと領主が目に入った。

彼は、落ち込んでいる。

何か抱え込んでいるよな感じだ。

しかし、声をかける気は起らなかった。

他のパーティーも話が終わり、僕たちは騎士に連れられダンジョンの制圧に向かう。

街は三分の一程が瓦礫になった。

その中で、瓦礫から家族の亡骸を掘り出す者や、使えそうな物を物色する者。

逆に倒壊した家屋を撤去の為に瓦礫にする者。様々な者たちがそこにはいる。

開けた場所には、王国のテントが設営され炊き出しを行っていた。

そこには、暗い顔しているが、復興の為に会議を始める商人たちの姿もあった。



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